海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

普天間基地「移設」に関する政府方針について

2009-12-16 19:39:36 | 米軍・自衛隊・基地問題
 12月15日に米軍普天間基地の「移設」に関する政府方針が示された。16日付琉球新報からまとめれば政府方針の骨子は次のようなものだ。

1.移設先は年内決定を先送りし、来年5月までに結論を出す。
2.与党3党で実務者委員会を設置し、移設先を協議する。
3.辺野古への移設関連経費を2010年度予算に計上し、環境影響評価も継続する。
4.日米合意の名護市辺野古への移設計画を含め、候補地を新たに検討する。

 この政府方針に対して、日米合意に基づく辺野古現行計画が実質的に否定されたものと高く評価する声もあるようだ。しかし、そのような認識は楽観的にすぎる。3や4を見れば分かるように辺野古沿岸部に新基地を建設する現行計画は生きている。むしろ気になるのは、今回の政府方針によって、現行計画の2010年度の予算計上や環境影響評価の継続に対する反対・反発が弱まることだ。
 思い出す必要があるのは、なぜ岡田外相や北沢防衛相が「年内決着」にこだわっていたのかということだ。それはこの2010年度予算計上の問題があったからであり、「移設」先の決定を先送りすることによって、政府は辺野古現行計画の予算計上という壁を超えようとしていることを見逃してはならない。
 現時点で予算計上をやめて現行計画を一方的に破棄することは、米国政府との関係を決定的に悪化させるので不可能である。ここは仮置きとして計上させ、それが執行されないように万全を策すべき。そういう意見もあるだろう。鳩山首相の立場を配慮し、日米外交や政党間のかけひきを重視する立場に立てば、そういう判断でもいいかもしれない。しかし、沖縄側からそういう配慮をすることは、自らの足下を掬われる危険性があることを心すべきだ。
 予算が計上されて国会で可決されれば、状況の変化によっていつ執行されてもおかしくない状態が続くことになる。これから米国政府や自民党、公明党、大手メディアによる鳩山政権攻撃が大々的に行われるだろう。辺野古現行計画かその「微修正」以外の選択肢はあり得ない、という恫喝、批判、世論誘導がくり返され、政治献金問題や天皇の政治利用問題なども絡めて攻撃が強まっていくはずだ。
 それによって政治状況が今後どう変化するか分からない。予算さえ付けておけば、「移設」先が決まらずに行き詰まったとき、辺野古現行計画を進めることができる。今回の政府方針は、一時的に発射はされなかったにしても、信管がついたままの砲弾が相も変わらず沖縄県民の目の前に突きつけられいるようなものだ。
 「年内決着」に向けて岡田外相や北沢防衛相の動きが活発化していた12月初旬の状況からすれば、今回の政府方針までよく盛り返したという評価もあるだろうと思う。大手メディアは日米同盟よりも連立維持を重視したという政局の観点からこの問題を捉える。しかし、大手メディアは目を向けようとしないが、「年内決着」が食い止められた最大の要因は、本ブログの12月4日に書いたように沖縄の民衆の力である。辺野古・名護をはじめ沖縄各地で粘り強く続けられてきた辺野古新基地建設反対の運動があったからこそ、沖縄県民の「県外移設」を求める7割の世論が形成され、鳩山首相は「年内決着」を先送りせざるを得なかったのだ。そのことを繰り返し強調しておきたい。
 今どき「民衆の力」という表現を使えば、「古い」と笑う者もいるかもしれない。そういう者は私から見れば、机上の議論しかやってない者だ。民衆でも大衆でも市民でもいいが、直接的な行動がもたらす影響、力を侮る政治家・官僚は、必ず痛い目にあうだろう。鳩山首相や岡田外相、北沢防衛相にしても日米同盟の重要性を強調してきた。それでも彼らが辺野古現行計画か「微修正」で強行突破できなかったのは、それをやれば沖縄でどういうことが起きるかを彼らなりに予測したからだ。
 日本の政治は流動的になっていて、政府方針が出たからといって、年内に何が起きるか気を抜くことはできない。日米両政府が辺野古への新基地建設断念を表明し、普天間基地の閉鎖、返還が実現されるまで、沖縄や日本の各地で粘り強く運動を行い、広げていきたい。

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2 コメント

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待ってる内に (宮坂亨)
2009-12-16 21:48:28
先送りの先に何があるか?
2010年は国際ジュゴン年であり、秋には名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議があります。ジュゴン訴訟含め、基地建設から「ジュゴン」を守ろうの国際世論が沸きあがるでしょう。
ネット新聞JANJANにアメリカのグリーンな人達の動向が載っていたのでシェアします。

米環境保護団体がオバマ大統領に辺野古基地建設中止を要請
海形マサシ2009/12/12
http://www.news.janjan.jp/living/0912/0912104253/1.php

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内閣にまだ期待 (キー坊)
2009-12-17 11:07:11
私は、鳩山政権にまだ一欠けらの期待感を捨てきれないです。のらりくらりとアメリカの圧力をかわしながら決定を先延ばしている事は、国民の眼を普天間基地問題に向けさせる効果を生んだのではないかと思われます。本土マスコミなど「合意」推進勢力の攻撃は激しくなっていますが、先延ばしに比例して、県民の辺野古移設への反対気運は高まっていると思います。もう内閣が辺野古移設を決定する事は、不可能な情勢に成っている気がします。

でも、それは米軍が普天間に居座る可能性が高くなる事にも成ります。私は辺野古沿岸への新基地建設阻止・普天間基地の解放が実現できるなら、重大な建設を伴わない「嘉手納移設」あるいはシュワブ内陸部への「ヘリ発着施設建設」を、県民が了承しても良いのではないかと思っています。私は嘉手納の出身ですが、嘉手納周辺の人達は「沖縄県全体の利」を視野に入れて物事を判断すべきでしょう。
「普天間解放・辺野古新基地阻止」の実現は、大きな達成感を沖縄県民にもたらすと思います。それは又更なる基地撤去運動へのモチベーションに成ると思えます。失うものに比べれば、得るものはとても大きいと言わなければなりません。

もっとも、この私の願望は、鳩山首相が本気で「辺野古沿岸移設」回避の意思を持っている事が前提があっての事ですが。
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