海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

枯れ葉剤問題の実態解明を放棄する沖縄防衛局

2011-11-12 23:40:54 | 米軍・自衛隊・基地問題

 新基地建設問題を考える辺野古有志の会とティダの会は、去る9月28日に沖縄防衛局名護事務所を訪ねて「キャンプ・シュワブにおける枯れ葉剤使用の実態解明を求める申し入れ」を行った。
 その後、沖縄防衛局名護事務所がどのように取り組んできたかを確認するため、11月11日に再び同事務所に出向いて話し合いを持った。質問には石倉三良所長が回答したが、枯れ葉剤問題に関する防衛局の見解や調査は概ね以下の通り。

石倉:外務省が米国に問い合わせたところ、沖縄に枯れ葉剤を持ち込んだ資料はなかったと米国は回答している。
 米国は枯れ葉剤の被害を受けたという退役軍人の話には疑問があり、信憑性があるとは考えていない。
 外務省としては、新たな事実関係が出てくれば、(調査を)検討するとしている。
 9月28日の申し入れについては、翌日に概要を防衛局に伝え、あとで詳細を伝えた。
 名護事務所の役割は、皆様の声を局に伝えること。

有志の会・ティダの会:キャンプ・シュワブ内外の調査はやったのか。日本人従業員の実態調査や住民の健康調査はやったか。
石倉:合理的な理由があれば、米軍に調査を申し入れる。日米合同委員会に基づく調査は合理的な理由がないとできない。新たな事実が確認できれば検討したい。
 沖縄には枯れ葉剤は保管されていなかったと、米側は外務省に回答している。

有志の会・ティダの会:退役米兵の証言に信憑性がないというのは、具体的にはどの部分をさして言っているのか。
石倉:具体的には承知していない。
有志の会・ティダの会:米側の回答には具体的に示されていないのか。
石倉:そこまでは確認していない。

有志の会・ティダの会:前回の申し入れのあと、スコット・パートンさんの写真の場所には行ったのか。調査したのか。
石倉:行っていない。調査していない。

有志の会・ティダの会:ジョン・ミッチエルさんや退役米兵には聞き取り調査を行ったのか。
石倉:やってない。
有志の会・ティダの会:どうしてやらないのか。米国の回答を一方的に信じるのではなく、もう一方の当事者にも聞き取りをすべきではないか。双方の当事者の話を聞かないで、ちゃんとした判断ができるのか。
石倉:……(沈黙)。

有志の会・ティダの会:私たちだけでなく名護市議会もキャンプ・シュワブの環境調査を求めている。調査の意思はあるのか。
石倉:現時点では調査の意思はない。新たな事実が出てくれば検討する。
有志の会・ティダの会:新たな事実が出てくれば、と言うが、それは誰が出すのか。住民やマスコミだけの仕事か。新たな事実を見つけ出すのが、沖縄防衛局の仕事ではないのか。何もしないで米側の回答を信じるだけなら、子どもの使いと一緒ではないか。
石倉:……。

有志の会・ティダの会:米国の回答のコピーが欲しい。
石倉:文書回答だったか分からない。口頭かもしれない。
有志の会・ティダの会:正式なやりとりなら文書ではないのか。
石倉:文書か、口頭かはっきりしない。

 話し合いは2時間近くに及んだので、紹介したのはごく一部だが、沖縄防衛局のやる気のなさ、あくまで米軍側に立ち住民の不安に応えようとしない姿勢は、よく伝わるだろう。辺野古有志の会からは、キャンプ・シュワブ周辺の魚介類を食べてきたことへの不安も語られたが、石倉所長は話を局に伝えると言うだけで、実態解明の意欲はまるで感じられなかった。その態度に憤りの言葉が相次いだ。

 ジャーナリストのジョン・ミッチェルさんは24名の退役米軍人に取材して、沖縄における枯れ葉剤散布で被害を受けたという元米兵の証言を得ている。それに対して米政府は証言に疑問があり、信憑性がないとしているのだが、沖縄防衛局は米政府の主張を鵜呑みにするだけで、もう一方の当事者である元米兵たちやミッチェルさんへの聞き取り調査さえやっていない。双方の主張が食い違っているからこそ、独自の調査が必要となるはずなのに、沖縄防衛局はそれを最初から放棄している。
 かつて嘉手納や辺野古の弾薬庫には核兵器や毒ガスが保管されていた。住民の生活するすぐ近くに大量破壊兵器があり、一歩間違えば大惨事が起こるという危険と緊張に満ちた生活を住民は強いられていたのだ。50代以上のウチナンチューなら、毒ガス移送の記憶をはっきりと持っている。米軍基地の中には何が隠されているのか。沖縄に住んでいれば、そういう疑問を持つのは自然なことだ。
 ベトナム戦争当時、沖縄は出撃・兵站基地として重要な役割を果たしていた。沖縄の基地なくして米軍はベトナム戦争を戦えなかった。兵士だけでなくあらゆる軍需物資が沖縄を経由してベトナムに輸送されていった。米政府が沖縄における枯れ葉剤の持ち込み、保管を否定しても、それを単純に信じる沖縄人がどれだけいるだろうか。

 枯れ葉剤問題が沖縄で大きく取り上げられ、元米兵たちの証言にリアリティを感じる住民が多いのは、沖縄人が米軍基地の実態を生活感覚、皮膚感覚で知っていて、日米両政府が基地問題でいかに嘘をつくかもよく知っているからだ。元米兵たちの証言は具体的であり、その信憑性を疑うというのなら、米政府は証言された基地への立ち入り調査を認め、科学的に潔白を証明すべきだ。そうでなければ住民の不安や疑念は消えない。
 沖縄防衛局は米軍の下請け機関ではないはずだ。キャンプ・シュワブから派生する問題で住民の健康や生活が脅かされる危険性が指摘されているとき、現地における独自調査は何もせずに米軍の回答に従うだけなら、わざわざ名護に事務所を置く必要はない。
 また、野田内閣の閣僚や民主党の前原政調会長をはじめとした超党派の議員による沖縄詣でが相次いでいるが、彼らの中で沖縄の枯れ葉剤問題をとりくんでいる議員がひとりでもいるだろうか。おそらくは関心すら持っていないだろう。そのことが彼らの沖縄に対する姿勢をよく示している。沖縄の住民の側に立って米政府に異を唱えるのではなく、逆に頭をなでられたいだけなのだ。

 


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