海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

産みの苦しみに耐える力を

2009-09-01 14:38:29 | 米軍・自衛隊・基地問題
 衆議院選挙で民主党が圧勝したことに新聞、テレビ、インターネットと、時めき色めきざわめいているのだが、ついこの間まで民主党や小沢一郎氏を批判していた人たちまで大はしゃぎしているのを見ると、自公政権が瓦解したことに溜飲を下げる気持ちは分かるが、余りにもナイーブすぎる反応に驚く。
 こう書けば、政権交代の意義が分かっていない、とあしらわれそうだが、ヤマトゥにおいてはこれからゆっくりと民主党政権が体制を固めてマニフェストを具体化していくのを見ていればいいかもしれないが、今、辺野古新基地建設の動きが目の前で進行している沖縄ではそうはいかない。環境アセスメント準備書への「知事意見」提出締め切りまで一ヶ月半を切り、キャンプ・シュワブ基地内では兵舎建設などの工事が日々進んでいるのである。
 民主党政権が普天間基地の「県外移設」をどこまで本気で取り組むかは未知数である。当面は経済・福祉・教育など生活に直結する内政面で成果を出すこことに力点が置かれ、外交や安全保障については大きな変化を生み出さないように問題を先送りするのではないか。普天間基地「移設」をはじめとした米軍再編についても、米国政府や沖縄県、名護市との調整を口実に時間稼ぎが行われ、その間に辺野古新基地建設の作業工程が後戻りできない段階まで進められる可能性も大きい。言うまでもなく、防衛省・沖縄防衛局はそれを狙っている。
 すでに名護市では久辺三区の下水処理施設をキャンプ・シュワブ基地のそれと一体化して進めるという事業案など、沖縄防衛局のはたらきかけとそれに呼応した名護市当局の動きが顕在化している。新基地建設予定地の久辺三区(辺野古・豊原・久志)は建設推進を望んでいる、ということをPRし、「地元からの要望」という形で民主党政権に建設推進の圧力をかけようというわけである。このように現在進行している新基地建設の動きに対して、アセス予算の凍結などそれを止める具体的な対処を民主党政権が行うか。そのことが早急に問われている。
 辺野古新基地建設やグアムでの基地建設ではそれぞれ数千億円の金が動く。そこに生じる防衛利権を民主党政権が断ち切ることができるか。自民党に替わる新たな防衛族が民主党内に生まれはしないか。いや、それはすでに生まれていて、防衛省の官僚や軍事産業、建設業関係者らと人脈を作り、利権追求の動きを始めているのではないか。そのような視点をもって注意深く新政権の動きをチェックする必要がある。
 外交・防衛分野において民主党内のどのようなグループが主導権を取るかによって、沖縄の基地問題に対する政策も変わってくるだろう。民主党政権の防衛大臣の有力候補として前原誠司氏の名前が挙がっている。タカ派として鳴らす前原氏が防衛大臣となった時に、普天間基地問題はどのように動くのか。
 今回の選挙で民主党に票を入れたヤマトゥの市民は、生活面での不満から自公より民主を選択した人が多いだろう。外交や安全保障の問題、米軍再編や沖縄の基地問題に関心が高いとは思えない。沖縄側がよほど大きな行動を起こし、普天間基地の「県外移設」が国民世論にまでならないかぎり、民主党政権が米国と対峙してまで動くとは思えない。民主党政権の本気度が問われると同時に、沖縄県民の本気度も問われる。選挙で票を投じて終わりではなく、これからどれだけ沖縄県民が発言、行動し、沖縄の声を聞かねばならない状況を作れるかが問われている。
 問題は米軍基地だけではない。中国の脅威を煽りながら、宮古・八重山・与那国などの先島地域に自衛隊を配備しようという動きが活発化している。衆院1区で当選した国民新党の下地幹郎議員は、これまで先島地域への自衛隊配備を主張し、活動してきた人物だ。国民新党が政権与党になり、下地氏はより活発に動くだろう。自公政権から民主党政権に替わっても、先島地域への自衛隊配備や沖縄の自衛隊強化の動きは、同じように進められる可能性が高い。
 米軍基地が削減されない一方で、先島地域への自衛隊配備が進み、沖縄が日米両軍の拠点として強化されるということもあり得るのだ。また、反対運動のことを考えれば、民主党政権になることによって自衛隊配備に関しては、連合加盟の労組の動きが鈍ることも考えられる。先島地域の住民をはじめ沖縄から反対の声をあげないかぎり、島嶼防衛の名のもとに自衛隊の強化は進められる。
 自民党が政権を失っただけでなく、党としての影響力も激減し、沖縄選出の自民党議員は衆議院に一人もいなくなった。64年間続いてきた日本政府と沖縄の関係が一変した。このことがもたらす影響は基地問題だけではなく、あらゆる方面に渡っていく。政治の流動化が進む中で、産みの苦しみはこれから始まるのであり、それは甘いものではないはずだ。それに耐えて独自の道を拓く強さをウチナンチューは持たねばならない。

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2 コメント

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アメリカ早速動く (宮坂亨)
2009-09-01 15:57:37
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090901-00000333-yom-int


米報道官「普天間、再交渉せず」…民主新政権にクギ?
9月1日10時59分配信 読売新聞

 【ワシントン=小川聡】ケリー米国務省報道官は31日の記者会見で、衆院選で勝利した民主党が沖縄県の米海兵隊普天間飛行場移設や海兵隊グアム移転に関する日米合意案を批判してきたことについて、「米国は、普天間の代替施設や(海兵隊)グアム移転を日本政府と再交渉するつもりはない」と言明した。

 民主党中心の新政権発足から間もないタイミングで9月下旬、国連総会などに合わせて日米首脳会談が見込まれており、それに先だって民主党側にクギを刺しておく狙いがあるとみられる。

 日米合意案では、普天間飛行場を沖縄県名護市の米軍基地内に移設する計画だが、民主党は沖縄県外への移設を求めている。

 ケリー報道官はまた、民主党が、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を1月に中止するとしている問題について、「数か月は推移を見守る」と述べた。

=========引用ここまで====

日本政府よりアメリカ政府のほうが沖縄に関心を持っているのかもしれない。
新政権が経済・政治・民主主義の面で「変る」象徴が辺野古新基地建設阻止を遂行できるかにあると思っています。
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基地問題テレビ放映のお知らせ (京の京太郎)
2009-09-30 10:13:39
テレビ・ドキュメンタリー番組
テレメンタリー2009
「狙われた海~沖縄・大浦湾 幻の軍港計画50年~」
制作:琉球朝日放送
放映日:2009年10月4日25時15分~
テレビ朝日系列で全国放送の予定は系列局で放映日・時間は変わるようです。各地の放送日はテレビ番組表でご確認下さい。ABSは10月3日(土)25時30分~

辺野古への新基地建設問題を50年前の過去から検証し、そして米軍再編計画の負担軽減という欺瞞を、今、様々な人々の証言から描き出したドキュメンタリー番組。ーということです。
見逃さないようにしたいと思います。

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