海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

読谷轢き逃げ事件と日米地位協定の問題

2009-11-25 23:19:58 | 米軍・自衛隊・基地問題
 11月10日のブログに読谷村で起こったひき逃げ事件について書いた。オバマ大統領来日直前ということで、トリイ通信施設司令官の対応の早さについて触れたのだが、その後の展開は難航している。事故車両はフロントガラスが破損し、車体には被害者の男性の血液が付着していた。運転していた米兵(在沖米陸軍トリイ通信施設の2等軍曹)は、事故発生現場を通ったことを認め、運転中に突然フロントガラスが割れたことも認めた。しかし、男性を轢いていない、下りて確認したが男性は見当たらなかった、フロントガラスが割れたのは木が当たったと思った、と述べて轢き逃げを否定した。さらに沖縄県警の事情聴取のあり方を批判し、弁護士の立ち会いなどを求めて、14日以降は任意出頭を拒否している。
 その後、2等軍曹のアパートから被害者の血がついた衣服が見つかり、自動車の車内にも被害者の血や毛髪があったことが明らかになったことで、2等軍曹は男性を轢いたことを認める発言を自らの弁護士にするようになった。報道では2等軍曹が飲酒運転をしていた可能性も指摘されている。これまで明らかになった事実を総合すると、2等軍曹は早朝、ウォーキングをしていた男性を飲酒運転ではね、その体を道路脇の茂みに運んで隠した後、アパートに戻って睡眠を取り、午後になってから事故車を修理に出した。そして、県警に任意の事情聴取を受けた際、嘘の供述を行った、という可能性が考えられる。
 沖縄県警は2等軍曹を容疑者として断定しているが、実際に何があったかを明らかにするためには、さらに事情聴取が進められなければならない。ところが、2等軍曹は米軍基地内に身柄を拘束されたまま、「取り調べの可視化」を条件にして、沖縄県警の事情聴取に応じず出頭拒否を続けている。
 また、物的証拠をかためるために沖縄県警が唾液などの体液提出を求めたことに対しても、2等軍曹の弁護士は〈被害者の衣服、現場で採集した全資料のDNA鑑定の結果が提供されなければ血液か唾液の提出は行わない〉(11月25日付琉球新報)と回答して、応じようとしていない。
 米兵の起訴前の身柄引き渡しを阻む日米地位協定の壁。弁護士の立ち会いが認められない日本の警察の事情聴取のあり方。この二つの問題はこれまでも指摘されてきたことだ。それが未解決のまま来たことによって、今回の轢き逃げ事件は膠着状態に陥っている。それによって、突然肉親を奪われた被害者の家族は、余計に苦しみを深めることになる。公務外の米兵の轢き逃げ死亡事件さえまともに捜査できない、沖縄・日本のこの異常な状況は何なのか。
 今日のテレビ報道によれば、今年8月13日に東京都武蔵村山市で起こった交通事故で警視庁が、米軍横田基地所属の兵士の家族に対し、殺人容疑の逮捕状を取ったという。容疑を受けているのは十代の少年少女4人とのことだが、路上にロープを張って、バイクで通りかかった女性を転倒させ、頭蓋骨骨折の重傷を負わせている。実に悪質な事件だ。警視庁はこれから少年少女たちの身柄を拘束して、事情聴取を行うという。
 読谷村と武蔵村山市で起こったこの二つの事件は、今後どのように展開していくだろうか。武蔵村山市の事件でも日米地位協定の問題が出てくると思うが、全国の人たちにぜひ自らの問題として考えてほしい。米兵による事件・事故は、米軍基地が所在する特定地域で集中的に発生する。そのために米軍基地がない全国の大半の地域では、住民は日米地位協定の問題を身近に感じることもなければ、我が身に関わる問題として考えることもない。そういう状況がずっと続いている。



 しかし、日米地位協定の実態を知れば、日本政府の対米隷属ぶりに怒りを覚えずにいられないだろう。
 日米地位協定の実態と問題を知るために、ぜひ薦めたい一冊がある。琉球新報社・地位協定取材班『検証「地位協定」日米不平等の期限』(高文研)である。この本を読むと、日米地位協定の問題がいかに多岐にわたり、理不尽なまでに米軍に特権を与え、優遇しているかが分かる。地域住民の生命や生活、権利よりも、米軍の自由な活動を優先してきたのが日本政府なのである。
 民主党を中心とした政権ができて、日米地位協定の改定が具体的に進められることに、沖縄では期待感が高まっている。たんなる「運用改善」ですませるのなら、自公政権と変わりはない。米兵であれその家族であれ、日本の警察が容疑者の引き渡しを求めるのは当然のことだ。米軍及び日米地位協定に対する鳩山政権の姿勢が問われている。
 あわせて、日本の警察の取り調べの可視化も進めていく必要がある。栽培員制度の導入前に問題になったが、弁護士の立ち会いやビデオ録画など、取り調べの可視化はなおざりにされたままだ。冤罪を防ぐ上でも、今回の事件を機に、改めて議論が高まってほしい。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「沖縄・鹿児島交流拡大宣言... | トップ | 講演 シンポジウム案内 »
最新の画像もっと見る

米軍・自衛隊・基地問題」カテゴリの最新記事