テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

白銀のレーサー

2008-02-03 | アクション・スポーツ
(1969/マイケル・リッチー監督/ロバート・レッドフォード、ジーン・ハックマン、カミラ・スパーヴ、カール・ミカエル・フォーグラー、ダブニー・コールマン/102分)


 冬のスポーツ映画を観ようと、ジョージ・ロイ・ヒルの「スラップ・ショット」をレンタルしに行ったら、以前見かけた棚に無くなっていた。カウンターの色白の娘っ子店員に聞いたら、『以前あっても、無くなるものもあります』との事。そりゃぁ、そうだが・・・。
 陳列ボツにされないうちにと、VHSのコチラを借りてきた。しかし、よく考えたら「スラップ」はVHSじゃなくてDVDだったから、人気薄のせいで外れたのではなくて、事故で壊れたのかも知れない。

*

 さて、後に「がんばれ!ベアーズ(1976)」で大ヒットを飛ばすマイケル・リッチーの劇場映画デビュー作であります。30か31歳の頃。レッドフォードより二つ年下ですな。
 レッドフォードが「明日に向って撃て!」と同じ年に出演した作品で、自身の製作会社ワイルドウッドの(多分)第一作目ではないかと思います。

 アメリカ・ナショナル・チームのスキー滑降の選手が怪我をして離脱、コロラド州アイダホ・スプリング出身のデイヴ(レッドフォード)に補充の声がかかる。新入りのくせに、滑降の順番が遅いとコースが荒れているから嫌だと勝手にレースを棄権したり、初戦で4位に入ると地元マスコミのインタビューに『次は優勝を狙う』と遠慮がない。そのマイペースの言動にコーチやチームメイトの反感を買うも、着実に成績を上げ、大舞台の冬季オリンピックでも大活躍を見せるという話。【原題:DOWNHILL RACER

 スポ根のヒーローもののように見えますが、レッドフォードがただの二枚目の爽やか青年を演じるわけはなく、デイヴは女にも手が早く、ヤな野郎という印象の方が強い。オフ・シーズンには年老いた父親が一人で暮らしている田舎に帰るものの、親子の会話はほとんど無く、父親の車で昔のガール・フレンドに逢いに行き、強引に誘ってカー・セックス。秋からはデンバーの大学に行くつもりという彼女の話も上の空で、とにかく下半身をスッキリさせたかっただけというのが見え見え。オナゴ衆からしたら真に鼻持ちならない男でありましょう。
 デイヴをショーン・ペンのような俳優が演じたら、それ見たことかとなるところですが、WASP(ワスプ)然としたレッドフォードが演じるから薄ら苦い味がしてくるわけですね。

 時速100キロを越す滑降場面は「栄光のル・マン」のようにスピード感に溢れ、客観的に描いたシーンと、選手のヘルメットにつけたと思われるカメラでの主観ショットの配合具合もドラマの緩急に合っていて、すこぶる快調。観衆や出番待ちの選手達の描写もセミ・ドキュメンタリータッチでとてもよろしいです。

 カミラ・スパーブはスキー用具メーカーの社長秘書キャロル役。
 美人のキャロルに一目惚れしたデイヴは、ピンポイントでアタック。すぐに懇ろになるが、実は彼女の方が一枚上手の遊び人だったという結末。如何にもスポーツ界にありそうな話だけど、振り向きもせずに去っていく美女の横顔にニュー・シネマらしい味が出ていました。

 ジーン・ハックマンはナショナル・チームのコーチ役。
 「俺たちに明日はない (1967)」の2年後で、こちらは真面目な男の役。ポパイ刑事でオスカーを獲るのは、更にその2年後であります。

▼(ネタバレ注意)
 この映画の最優秀場面は、ラストシーンに見られます。

 冬季オリンピック、アルペンの花形、男子滑降。
 優勝候補のベテラン選手が順当に一位の記録を出すが、15番目に滑ったデイヴの記録がそれを上まわる。ゴールでは観衆やマスコミが彼を取り囲み、コーチも大喜びする。勿論、デイヴも金メダルを確信している。
 そんな光景を写しながら、画面は冷静に次の選手のスタートに切り替わる。ゴールで騒いでいるデイヴ達と、次の選手の滑降シーン。それがカットバックで編集される。16番の選手はドイツの若い選手だったが、中間地点までデイヴの記録に迫っている。いや、デイヴより速い。コーチはゴールに設けてある掲示板でその事に気付く。

 まずい! ぬか喜びだったか・・・

 スポーツの、一瞬先は分からないという運命の悪戯が、カットバックでサスペンス・フルに描かれた瞬間でした。
 そして、その後のデイヴの横顔も、何とも言えない余韻を残す。
▲(解除)

 音楽担当のケニヨン・ホプキンスは、「十二人の怒れる男(1957)」、「ハスラー(1961)」などのベテラン。
 ちょっと、古めかしくて湿った感じのスコアが、内容に合ってないなと感じました。残念!

・お薦め度【★★★=一度は見ましょう、私は二度見ましたが】 テアトル十瑠

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 悪者から正義の人へ 【Portr... | トップ | トプカピ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

アクション・スポーツ」カテゴリの最新記事