テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

アメリカ上陸作戦

2010-07-25 | コメディ
(1966/ノーマン・ジュイソン製作・監督/カール・ライナー、アラン・アーキン、エヴァ・マリー・セイント、ジョン・フィリップ・ロー、ブライアン・キース、セオドア・バイケル、ポール・フォード、ジョナサン・ウィンターズ、マイケル・J・ポラード/125分)


 あのソヴィエト共産党幹部の息子と思しき潜水艦の艦長は潜望鏡で何を見ていたんだろう? 浮上してみれば辺りは闇夜のように暗かったし、見えたモノは海辺のナニかしかなかったはずだが・・・。
 カットされたのか、意図的に見せなかったのか。多分、編集でカットしたんだな。

*

 数十年前にTVの吹き替え版で観てお気に入りになった映画で、その後観る機会も無く、ずっと“シニカルな作品”との印象を持っていたが、改めて観てみると、意外に軽いタッチの群像コメディだった。しかも最後はハッピーエンドだし。
 ノーマン・ジュイソンの「夜の大捜査線 (1967)」の前作で、その後「華麗なる賭け (1968)」へと続く脂ののってきた時代の作品だ。

 東西冷戦のまっただ中、アメリカ東海岸を潜行中のソ連の潜水艦が我が儘艦長のせいで浅瀬に座礁、その島にあるボートを黙って借りて艦を動かし脱出しようとするが、ロシア兵目撃情報に尾ひれが付いて島の住民たちとの大騒動になっていくという話。
 原題が【 THE RUSSIANS ARE COMING, THE RUSSIANS ARE COMING, 】。つまり、『ロシアが攻めてきた』と大騒ぎになるわけですな。

 A・アーキン扮する副艦長らしき男は8人の部下を連れて早朝の島に上陸する。若い部下の一人アレクセイ・コルチンに扮するのがJ・フィリップ・ローで、彼と副艦長が少し英語がしゃべれるという設定。全員黒づくめの服装なのが如何にもロシアっぽいし、片言の英語の発音もロシア人ぽくって笑えます。

 彼らが最初に訪れた海辺の家に居たのが、カール・ライナー扮するブロードウェイの作家の家族。夏の間、避暑の為に借りていて明日には帰る予定だったが、事件に巻き込まれる。
 ひょろっと背の高いライナーが自転車に乗っているシーンはジャック・タチみたいで、ミュージカル・コメディの作家という設定ですが、本人のコメディ演技が上手いです。
 奥さん役は「波止場 (1954」で助演オスカー受賞のエヴァ・マリー・セイント。くせのない如何にもアメリカ的な良妻賢母の役で、最後にハッピーエンドに導くナイスなアイディアを出します。
 因みに、ライナーは「恋人たちの予感」などの映画監督ロブ・ライナーの父親だそうで、この人も役者をやったり監督をしたりの才人だったらしいです。

 最初は、借りられそうなボートの情報を探ろうとしたのだが、作家の8歳のやんちゃ坊主のせいで兵士たちも銃を出さざるをえなくなり、島の反対側にあるらしい港に行く為に、作家の車を拝借する。ところが、ガソリンが残り少なくなっていた為に途中でエンスト。歩いて港近くまで着くも、一軒の家の前に留めてあった車を盗もうとして、持ち主のおばあちゃんに見つかり警察署長に通報されてしまう。
 もうろく婆さんの戯言と署長は相手にしないが、一応確認しようと部下を召集する。念のため拳銃を持って来いと言われ、部下の一人が拳銃はどこにあったっけとタンスの中を探すシーンで、この島には事件など皆無だったことがわかる。

 ロシア兵を見たのはおばあちゃん一人だけなのに、いつの間にやら、ソ連のパラシュート部隊が空港を占拠しているなどといったデマにまで発展していき、腰に刀をぶら下げた元軍人のおじいちゃんが反撃軍のリーダーになって指揮を取り出したりと、口頭の伝達情報の不確かさや群集心理が招くパニックがコミカルに、そして皮肉っぽく描かれる。

 警察署長役は、ブライアン・キース。
 潜水艦の艦長はセオドア・バイケル。

 最近はこういうコメディが無くなった気がするなぁ。allcinemaではスラップスティック・コメディと紹介していたけれど、根がリアルな人間心理に基づいているから笑えるんだよね。

 心優しきロシア兵役のローさんは「バーバレラ」の前年。
 マイク・ニコルズやエレーン・メイの劇団で活躍し、トニー賞の受賞歴もあったA・アーキンの映画デビュー作であります。ゴールデン・グローブ、男優賞受賞!
 空港の整備員の役で、マイケル・J・ポラード(「俺たちに明日はない」)がちょろっと出てきます。





 1966年のアカデミー賞では、作品賞、主演男優賞(アーキン)、脚色賞(ウィリアム・ローズ)、編集賞(J. Terry Williams、ハル・アシュビー)にノミネートされたそうです。
 また、原作者のナサニエル・ベンチリーは「JAWS/ジョーズ」や「ディープ」の原作者ピーター・ベンチリーの父親だそうです。


・お薦め度【★★★★=コメディ好きの、友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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6 コメント

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ロープでぐるぐる巻きにされ (宵乃)
2010-07-25 09:59:08
おばさんとピョンピョンするシーンが面白かったですね。向きを変えたらおばさんの顔が目の前にあってぎょっとしたり(笑)
あと、ロシア兵の青年とアメリカ人の少女が、いままで教え込まれてきたものより目の前の真実を信じて惹かれあうのが良かったです。

でも、ラストで艦長が署長の言葉に押されていたのが理解できませんでした。
いったい何をためらっていたんでしょう?
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いらっしゃいませ、宵乃さん (十瑠)
2010-07-25 10:27:13
ハハハ!
あのシーンは笑いましたねぇ。あのおばさんも、その後はダイエットに励んだんじゃないですかね。(笑)

ためらいなどしなさそうな人間に見えたのが少し不気味でしたよね。結末を忘れていたので、少しハラハラしました。
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深夜に (kiyotayoki)
2010-07-27 13:25:50
先日、深夜にやっていて、僕もついつい楽しく観てしまいました(^^。
公開当時、この映画を観てきた姉貴が熱っぽくストーリーを語って聞かせてくれたのを思い出します。
というのも当時、姉貴はジョン・フィリップ・ローにお熱だったからなんですが、調べたらローさん、もうお亡くなりになってるんですね。
カール・ライナー翁は、オーシャンズ・シリーズなどで今もお元気なのになぁ。
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kiyotayokiさん (十瑠)
2010-07-27 15:31:17
コメントありがとうございます。

カール・ライナー翁。
よく調べもせずに、少なくとも引退はされていると思い込んでおりました。ご健在でご活躍ですか。(カールさん、そんまそん)

公開時は、僕は小学生くらいで、邦画しか観に行ってなかったので存じませんでした。
ローさんには既に女性ファンがおられたんですな。
返信する
Unknown (風早真希)
2023-01-28 14:35:27
いつもこの映画愛に満ち溢れたブログを楽しく読ませていただいています。

今回ご紹介された「アメリカ上陸作戦」は、私の大好きな俳優の内の一人であるアラン・アーキンのデビュー作であり、しかもこのデビュー作でいきなり、アカデミー賞の候補になった作品でもあり、注目して観た記憶があります。

アラン・アーキンの出演作で特に好きなのは、シリアスな演技で聾唖者の悲哀を滲ませた名演技が忘れられない「愛すれど心さびしく」、チャップリンの再来とまで言われた演技を示した「ふたりの天使」、不条理ドラマの主人公を巧妙に演じた「キャッチ22」、うらぶれたサラリーマンの悲哀を切なく演じた「摩天楼を夢見て」です。

とにかくシリアスな役からドタバタ喜劇のコメディから冷徹な悪役まで、幅広いキャラクターを演じる彼が大好きですね。

そこでこの「アメリカ上陸作戦」について、簡単なコメントを述べてみたいと思います。

かつての東西冷戦下におけるアメリカを舞台として、巻き起こる事件をユーモラスに描いた、名匠ノーマン・ジュイソン監督の「アメリカ上陸作戦」。

中国とは対決しても、いや、それだからこそ一層、ソ連とだけは平和にやってゆきたいという、1960年代半ばの時代のアメリカ人の願望が、ひしひしと感じられる、米ソ和解のドタバタ喜劇になっていたと思います。

アメリカ北東部沿岸の小島に、ソ連の潜水艦がどういうわけかやって来て、間抜けな艦長が、アメリカ見たさの好奇心から、あまりにも岸に接近しすぎて座礁させてしまいます。

そこで、島からモーターボートを盗んで、潜水艦を引っ張ろうと、上陸部隊が島を駆け回って、悪気はないのだが、少々ギャグめいた振る舞いに及ぶ。

住民たちはびっくりして、今にも米ソ戦争が始まるといきりたち、中でも在郷軍人会の会長みたいなのが、攻撃隊などを編成して、おおいに滑稽な愛国者ぶりを見せるのです。

もっとも、アメリカ人の愛国心ばかりを笑いものにしては、うまくないと思ったのか、ソ連の艦長も、とんでもない滑稽な愚か者に仕立てて、バランスはとっていたと思います。

とどのつまり、賢明なる島の警察署長の冷静な処置と、気のいいソ連兵士たちの人間愛の発露によって、誤解は解け、友情や恋愛まで芽生えるのです。

コメディとしては、中の上ぐらいの出来ですが、命令でやむを得ず、ギャングみたいな事をするソ連兵たちが、かなり笑わせてくれます。

この映画でソ連の副艦長役を演じた、私のお気に入りの俳優で、「愛すれど心さびしく」や「キャッチ22」などの名優アラン・アーキンが、とぼけた味わいの素晴らしい演技を披露していて、益々、彼が好きになりましたね。
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風早真希さん、いらっしゃいませ (十瑠)
2023-01-28 15:38:37
13年前の記事にコメントありがとうございます。
これは好きな作品なのですが、結末の詳細を忘れています。ま、もう一度楽しめるって事でもありますけどネ(笑)
そうですか、アラン・アーキンのファンでいらっしゃる。「摩天楼を夢見て」も紹介記事を書いているので御笑覧を。
あと、「暗くなるまで待って」、「NOEL」も書いてますね。
今後ともよろしく
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