テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

大統領の陰謀

2006-12-02 | サスペンス・ミステリー
(1976/アラン・J・パクラ監督/ダスティン・ホフマン、ロバート・レッドフォード、ジェイソン・ロバーズ、ジャック・ウォーデン、マーティン・バルサム、ハル・ホルブルック、ジェーン・アレクサンダー、ネッド・ビーティ、F・マーレイ・エイブラハム/132分)


 当時、ダスティン・ホフマンとレッドフォードはご贔屓俳優でしたが、既に二人共大スターだったので一つの映画に一緒に出ることは難しいと思っておりました。ですから、この映画は私にとって正に夢の共演。題材も渋いし、実録モノには興味津々なので、わくわくしながら公開を待ったもんです。

 20世紀のアメリカ政治の汚点の一つ、第37代大統領リチャード・ニクソンを辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」。その世論の盛り上がりに寄与した地元ワシントン・ポスト紙の二人のジャーナリストの取材活動を、彼らの著書に基づいて描いた作品だ。
 2時間12分。社会派アラン・J・パクラらしい、冒頭から一気に畳みかけるような展開。2度目のアカデミー脚本賞を受賞したウィリアム・ゴールドマンは、事件を追う記者と証言者とのやりとりを中心に、小さな新聞社が“ウォーターゲートビルへの不法侵入事件”の政治的背景を暴いていく過程を描いている。
 記者の名前は、カール・バーンスタインボブ・ウッドワード。会話の中で、ホフマン演じるバーンスタインは16歳からこの新聞社で働いていたとされ、レッドフォード演じるウッドワードは入社して一年にも満たない新米記者とのことだった。
 原題は、【ALL THE PRESIDENT'S MEN】。往年の名作「オール・ザ・キングスメン-ALL THE KING'S MEN-(1949)」を捩ったのは言わずもがなでしょうな。

 ダスティン・ホフマンは、『映画の狙いを薄めないために、記者を表面的ではなく、生き生きと演じるようにした。』とインタビューに答えていた。脚本も記者達の人となりについては必要最小限にしか扱って無く、取材活動を中心に描いていて、パクラの意図は成功している。
 当初ウッドワードが取材をしていたが、彼の記事をバーンスタインが勝手に手直ししたことで、ちょっとした軋轢が生じたり、直属の上司(ジャック・ウォーデン)や主査(ジェイソン・ロバーズ=アカデミー助演男優賞受賞)とのやりとりも人間的なドラマになっていて面白かった。マーティン・バルサムは主査の下、局長という役だった。それにしても、渋い役者が揃ったもんです。

 映画サイトのクレジットデータには明記されていないが、製作会社はレッドフォードのワイルドウッドであり、映画の冒頭には「A Robert Redford-Alan J Pakula Film」とも書かれていた。かつて雑誌のインタビューに答えて、『政治家には成りたくないが、政治には興味はある。』と言っていたレッドフォード。『映画は、それを語ることが出来る。』とも言っていたと記憶している。「候補者ビル・マッケイ」や「クイズ・ショウ(監督のみ)」など、社会性の強い作品には確かに面白いモノが多い。

 “不法侵入事件”が発生したのが、1972年6月。ニクソンが自ら辞任する事を発表したのが1974年8月。
 ワシントン・ポストの記事が出てから2年余りはニクソンは大統領でいたわけだが、映画は72年の事件の直後からワシントンポストの記事によって世論が動き出す直前までを描いていて、ラストは劇的なものにはなっていない。実話だからしょうがないが、ニューヨーク・タイムズなど他の大手の新聞社が事件の調査に及び腰の中、小さな新聞社であったワシントンポストの社運をかけた、また二人のジャーナリストにとっては命をも懸けた取材活動の流れは深遠なサスペンスを孕んでいる。

 「JFK」にはドナルド・サザーランド扮する実在しない情報提供者が出てきたが、この映画にも重要な証言をする“ディープ・スロート”と呼ばれる男性(ホルブルック)が出てくる。大ヒットしたポルノ映画のタイトルから取ってきた名称のこの男は実在する人物のようで、2005年には当時のFBI副長官であったと自ら告白したらしい。

 観ていて時代を感じさせたのが電話。ジーコジーコとダイヤル式の時代で、冒頭の侵入犯たちが持っていたのは携帯無線機。でっかい携帯電話も無い時代だったんでしょうかね。
 そうそう。新聞社にはコンピューターらしき物も見当たりませんでした。記者が記事を叩いていたのはキーボードではなく、タイプライターでした。

 尚、ジェーン・アレクサンダー(「クレイマー、クレイマー」「サイダーハウス・ルール」)はニクソン再選委員会の元経理担当、ネッド・ビーティは共和党のフロリダ州の再選委員の役でした。



 余談ですが、カール・バーンスタインはかつてノーラ・エフロン(「恋人たちの予感」「電話で抱きしめて」)の旦那さんであったようです。

・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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10 コメント

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若い! (anupam)
2006-12-02 22:12:30
ダスティン・ホフマン、若いな~~
長髪でも全然おかしくないですね。

それにしてもこの邦題「大統領の陰謀」はすごく大胆で、よくできているのではないでしょうか、感心します!

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同級生 (十瑠)
2006-12-03 07:20:57
ダスティンもレッドフォードも37年8月生で、この時39歳。で、もうすぐ70歳!こちらも年取るはずですわ。(笑&驚)
“クレーマー”よりも少しロン毛でしたネ。

正に“陰謀”でしたから。
それにしても、辞任から2年も待たずに映画が出来てしまうんですから、アメリカってやっぱ凄いなぁとも思いますね。
民主党のクリントンの下半身スキャンダルは、一般映画的ではなかったということですか。(笑)
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あ~~、また、観たくなってきたわ~! (viva jiji)
2006-12-05 08:47:17
ホフマンもレッドフォードもほんと、「絶頂期」の映画でしたね。
時代的にも70年代半ば、アメリカ映画もまだ元気のあった時だし、製作体制にも、「余裕」と「許容」があった頃のような気がしますね。

一番下の写真、ひとりひとりの表情をよくとらえて「いい写真」だこと!!

ネクタイ、幅広っ!

レッドフォード君、きみぃ!

思いっきり、ネクタイ、曲がっちょるよ~~ん!!ハハハ、(笑)
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へぇ~!! (kiyotayoki)
2006-12-05 10:40:38

ントだ、クリスマスモードですね♪
出演者の面々の写真、渋いですね~。

カール・バーンスタインとノーラ・エフロンが元夫婦だったというのは初耳でした。で、調べてみたら、『心みだれて』(1986)ってメリル・ストリープとジャック・ニコルソン共演の映画は、ノーラ原作で、彼女がカールと離婚した時の話が元になってるんですってね。ひぇ~、ちょっと観てみたくなりましたぁ。
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viva jijiさん (十瑠)
2006-12-05 12:11:28
一時期日本でも流行りましたよね、巾の広いネクタイ。スーツの襟も。
「卒業」とか「わらの犬」で先細のコットンパンツだったダスティン君が、ベルボトム(←こんな言葉知ってる人居る?)のパンツに替わっていたのも印象的でした。
レッドフォードも大して背が大きくないのが噂通りだなと思ったもんです。
女性のヘアスタイルも“時代”を感じさせましたなぁ。
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kiyotayokiさん (十瑠)
2006-12-05 12:17:39
「心みだれて」。観たような観てないような・・。
私も調べましたら、マイク・ニコルズ監督で、出演者に夕べNHK-BSでやってた「アマデウス」のフォアマン監督がいるようです。
<鮮やかなラストシーン>との事ですから、観たくなりましたねえ。
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コメントとTBありがとうございます。 (アスカパパ)
2007-02-20 10:37:53
この映画はいま見ても色褪せていませんね。
使っている道具はタイプライターや公衆電話でも、二人の記者の職業魂には感じ入るものがありました。

ところで、ブログのトップ画像、素晴らしいですね!
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こちらこそ (十瑠)
2007-02-20 11:58:42
早速のお越し、ありがとうございます!

アスカパパの“シンプル”テンプレートでCSSの編集が出来るとは知りませんでした。アドバンスじゃないと出来ないのかと。
私のは季節に応じて、気分転換のように変えています。ネットのフリー写真から拝借です。
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ラストが・・・ (mayumi)
2009-04-07 00:08:10
こんばんは。TB&コメント、ありがとうございました。
大変興味深く観た作品で、面白かったのですが、ラストがやや拍子抜けでした。正直「手抜きでは・・・」と思ってしまったぐらいです。でも、実話だから、そんなに劇的なことは期待できない・・・という十瑠さんの認識にそういえば、そうだよなあ、と納得しました。
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「ニクソン×フロスト」の・・・ (十瑠)
2009-04-07 07:43:05
の予習として観られたんですよね。
去年のアカデミー賞レースに参加したその作品も面白そうですね。

昔、「大統領の陰謀」を観た時には、確かにラストはアレっと思ったような気もします。今は納得していますが。
タイプライターのカタカタという音に、記者魂を感じますね。
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