テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

柔らかい肌

2015-07-10 | サスペンス・ミステリー
(1963/フランソワ・トリュフォー監督・共同脚本/ジャン・ドザイー、フランソワーズ・ドルレアック、ネリー・ベネデッティ、サビーヌ・オードパン/118分)


「柔らかい肌」を何十年かぶりで観る。とは言っても大昔に観たのは深夜放送の吹き替え版のはずで、多分全部は観てないと思う。主役の不倫夫が、愛人の太ももを撫でている映像を覚えているけど、あれだって多分映画雑誌のスチールを記憶しているだけなんだろう。それにしても濃密な2時間だった。
 [ 2015年 6月 21日(→twitter より(一部修正有り))]

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 フランソワ・トリュフォーの長編監督作としては4作目に当たる作品。
 妻子ある男性が独身の若い女性とめぐり逢い、妻の目を盗んで逢引きを重ねるという所謂浮気男の映画で、男と愛人との関係がいつ、如何にして妻にばれるかというのがハラハラさせるサスペンスです。ま、よくある話ですが、半世紀前に作られたにもかかわらず登場人物の心情は今も理解しやすいし(不倫を認めているわけではありませんぞ)、意外な小展開、トリュフォーの才気を感じさせる自在な表現が楽しめる映画です。しかもこの男性の若い愛人への思いが恋心に近いものなので、前半は恋愛心理映画と言ってもいいような趣さえ感じます。お茶の間の昼ドラの浮気サスペンスでは味わえない深みとコク、でしょうか。

 ポール・マッカートニーをソフトな印象にしたような仏俳優ジャン・ドザイーが扮した主役の不倫夫がピエール・ラシュネ。
 結婚15年目のパリ在住の文芸評論家で、執筆以外にもラジオやテレビに出ることもあるし、講演もよく頼まれて忙しいプチセレブ。小さな事務所も借りているが、本人以外にいるのは秘書だけ。一人娘はまだ幼くパパが大好きという、絵に描いたような幸せな男なんですがねぇ。

 ピエールが恋に落ちるのが、講演の為にリスボンへ向かった時に乗った飛行機のスチュワーデス、ニコル(今でいうキャビンアテンダントですな)。扮したのはカトリーヌ・ドヌーヴの一つ年上の姉フランソワーズ・ドルレアック。ドヌーヴのようなどこか冷たい印象はなく、色気が脚元から匂いたってくる感じ。25歳の若さで亡くなったのが本当に惜しい女優さんでした。

 さて、二人の出逢いは上に書いたように、飛行機の中であります。
 機内でもなんとなく気になる女性だったのに、なんと宿泊先のホテルも同じ。無事に講演を終えてホテルに帰って来たら、又してもエレベーターの中で一緒になり、こりゃ運命ではないかと思ったのかどうかは知りませんが、ピエールさんはホテルの部屋から彼女の部屋に電話をかけるんですね。エレベータの中で彼女が部屋の鍵を落とし、偶然部屋番号を目にしたからですが、この出逢いから親密になる過程もじっくりと描かれてました。次の日の夜のデートが決まった後に、部屋中の灯りをつけて廻るのが(初めてのデートの前の)若者のようで思わず笑っちゃいます。
 出張先でのアヴァンチュール。よくある話ですが、どうもこの男性は浮気はコレが初めてだったようで、家に帰った後も彼女の事が忘れられない。
 少しの空き時間に空港まで出かけて行ってニコルに逢おうとするシーンもあり、この辺の描き方はトリュフォーらしいです。未見ですが「アデルの恋の物語 (1975)」にもそういう狂おしい情念は描かれているようだし、苦い別れ方をしたかつての恋人同士がそれぞれに既婚者となり、数年後に偶然お隣同士として再会するというW不倫映画「隣の女 (1981)」の男女にも通じるものがある。

 都合のいい事に田舎町での講演の依頼が発生。パリでニコルと逢うのはリスクがあるが、地方都市へ仕事で出かけたとあれば知人に見られる心配も無いし、妻にも何の疑いも出ないはず。こうしていよいよ深みに嵌まっていくピエールさん。決して奥さんが嫌いになった訳じゃないみたいなんですけどねぇ。





 ピエールの妻、フランカに扮したのはネリー・ベネデッティ。一見肉食系の女性に見えますが、序盤から良妻賢母的に描かれています。ただ、上の画像にもありますように、旦那さんが仕事から帰ってくる時間を秘書か宿泊先に連絡を取って確認、空港まで迎えに来るような女性です。
 スキンシップが少なくなったのを察知した後から徐々に嫉妬深さというか情の深さというか、エキセントリックな面が表れてくる、上手い脚本でした。

 パリの友人がセッティングした地方都市での講演は予定外の名士との会食があったり友人との反省会があったりして、ニコルとの時間が取れなくなり彼女を怒らせてしまうという一連のエピソードもとても面白かったのですが、長くなるので割愛します。後日備忘録として書くかもしれません。

 終盤は奥さんの復讐劇。
 『浮気したでしょ?』
 『いいや、独りになりたかっただけだ』との痴話喧嘩のあげくに奥さんの方から離婚話が出て、これ幸いにとピエールさんは応じる態度を示す。あまりにあっさりと離婚をOKされて奥さんも『いやん、ちょっと待って』と愁嘆場になったりもするのですが、一方のニコルは、新しいマンションを探し出すピエールを見て『急ぎ過ぎだわ』と冷めた態度。そんな愛人の態度にさっきまで燃えていたピエールさんも、初恋が一気に覚めるように我に返る。
 友人夫婦から今ならまだやり直せるわとフランカに連絡をとることを勧められるが、偶然に浮気の証拠をつかんでしまった彼女は怒り心頭で・・・。
 有名な衝撃のラストまで、ハラハラというよりはドキドキしてしまう展開です。

 お勧め度は★四つ半。ドルレアックで★半分おまけしときましょう





※ ネタバレ追加記事はこちら


・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 テアトル十瑠

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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弊記事までTBとコメントありがとうございました。 (オカピー)
2015-07-16 09:53:43
初見時に余り堪能しすぎた反動だったのか、前回記事を書いた時は少々醒めて観てしまったようですが、トリュフォーらしく才気に横溢した作品だったですね。トリュフォーは語りが下手という連中の気が知れない。

仰るように「隣の女」と共通する要素が多く、同じように強いインパクトを覚えました。

>今でいうキャビンアテンダント
物語を説明する上で男女が解らないような単語は不便なので、僕は相変わらずスチュワーデス、看護婦を使います。女性看護師なんてバカバカしい。

>「アデルの恋の物語」
若いイザベル・アジャニーも誠に美しいですし、これまたインパクトの強い作品なので、鑑賞の価値十二分にあるですよ。
返信する
オカピーさん (十瑠)
2015-07-16 14:38:50
>語りが下手という連中

ほほぉ、そんな人がいるんですか?
何を観てそんな事を仰るのか?
よく判らない、理解できないと素直に言ってしまえば楽でしょうに。

>「アデルの恋の物語」

つい昔はあったんですよ、近所のツタヤにも。
でも。数年前から見かけなくて。先日図書館でも探したんですが
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