テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ネタバレ備忘録 ~「ストレイト・ストーリー」

2011-09-20 | ドラマ
<「ストレイト・ストーリー」を未見の方には“ネタバレ注意”です>

 アルヴィン・ストレイトが旅で出逢う人々について書いておきましょう。

 ヒッチハイクをしていた家出娘は家族との関係がしっくりいってないのに加えて、妊娠した事を彼氏にも家族にも告白できなくて悩んでいた。
 横を通り過ぎるアルヴィンのトレーラーをやり過ごしたが、結局どの車にも拾われずに夜になり、たき火に誘われるようにアルヴィンの所にやってきたのだ。アルヴィンはソーセージを分け与えて、家族に嫌われている、そう言う少女に自分の子供たちを思い出しながら話し出す。
 あんたのこともお腹の赤ん坊も失って良いと思うほど家族は嫌っていないはずだ。家族は一緒に生きることによって独りでいるよりも何倍も強くなれる。そう言って、毛利元就の「三本の矢」に似た例え話を聞かせた。

 アルヴィンはローズを思い出し、彼女についても話をする。実は彼女には四人の子供が居たんだが、ある時、友人に子供たちを預けたらそこが火事になってしまい、次男が大やけどをした。ローズのせいではないのに、役所が出しゃばってきて、ローズには養育能力がないと子供たちを取り上げてしまったというのだ。ローズが子供のことを思い出さぬ日はないとアルヴィンは言う。
 序盤でローズの庭に転がってきたボールを追いかけて幼い男の子がトコトコとやって来るが、窓辺からその子を見つめるローズの表情が思い出されてジーンとくる場面である。

 家出娘は、アルヴィンの毛布を借りて眠り、翌朝、薪の束を残して姿を消していた。薪は一宿一飯のお礼の意味であり、それを束にしていたのは「三本の矢」の話を信じようと思った意志のあらわれである。

*

 自転車のツーリングをしている大勢の若者達のシーンは、かなり編集で端折っている感がある。夕食を共にすることになったアルヴィンが、若者の質問に答えるシーンだけが残された。
 『歳をとって良いことは?』
 『経験を積むことによって、実と殻の区別がつくようになる事かな。それと、細かい事を気にしなくなることだ』
 『じゃあ、歳をとって良くないことは?』
 『目も足も悪くなって、悪いことだらけさ。最悪なのは、若い頃のことを覚えていることだな』

 鹿が好きなのに7週間で13頭もの鹿をひき殺してしまったマイカー通勤の女性は、13頭目の鹿をアルヴィンの目の前で轢いた。あんなに神様に祈りを捧げたのにと自身と鹿たちの不運を嘆き、泣き叫びながらも、最後はそのままにして走り去った。
 道路の真ん中に大きな鹿が残されたが、次のシーンは、アルヴィンがその鹿の肉を火で炙っているところだった。アルヴィンの周りには、鹿の人形らしきものが幾つも立っていて、まるで彼を睨み付けているように見えるというユーモラスなシーンだった。
 次の日のドライヴシーンでは、トレーラーの前方に鹿の角が魂を復活させたように誇らしげに付けられていた。

 ライルの住む町まで残り100キロという所で、下り坂にかかったアルヴィンのトラクターが暴走をする。後ろのトレーラーの重さに負けて、ファンベルトが切れ、エンジンブレーキも利かなくなったのだ。幸いにも横転して大怪我をすることもなく、たまたま庭に出ていた住民に手伝ってもらって、人心地つくことが出来た。
 農機具メーカーに勤めていたという男にみてもらうとギアもいかれており、修理が必要だった。トラクターがなおるまで、親切なその男の家の裏庭にしばらく滞在することになった。夫婦の所には近所の人もたくさん訪れてきて、アルヴィンに優しくしてくれた。久しぶりにビールを飲みながら、大戦中の苦い思い出を語り合ったのも、そんな夫婦の友人の一人だった。
 夫婦は、車で送って行こうかと申し出てくれたが、アルヴィンは『最初の志を貫きたいんだ』と断った。ラスト・シーンでアルヴィンの判断が大いなる意味を持ったことが証明される。
 この夫婦の家を去るところもホロリとさせるシーンだった。

*

 ラスト・シーンは当然、ライルとの再会の場面だ。
 途中、ミシシッピ川にかかる鉄橋を渡るアルヴィンの表情にも少しずつ不安がよぎるのが感じられる。
 ライルは無事か? この旅では、自分の自尊心を捨ててきたはずだったんだが、最後になって、もしも兄が自分に酷い言葉を投げかけてきたらどうしよう?
 通りかかった大きなトラクターの農夫にライルの家を教えてもらい、500キロを走破してきたトレーラー付きトラクターで小さな兄の家の前につける。エンジンを止め、二本の杖をついて玄関先まで歩いていく。

 『ライル!』
 返事がない。
 『ライル!』もう一度呼んでみる。
 『・・・アルヴィン!』

 歩行器に掴まりながら、兄が出てきた。ポーチを上がっていく弟。お互いに少しく照れを感じながら、様子をみている兄弟。

 『すわれよ』最初に沈黙を破ったのは兄の方だった。
 兄がどういう状況で弟を待っていたのかは分からない。もうすぐ来る頃だと思っていたのか、それとも・・・。
 ひょっとしたら、無事を祈りながら待っていたのかも知れない。
 ふと、兄が庭の方に目をやると、おんぼろの小さなトラクターとトレーラーが止まっている。一人しかいないこの弟が、腰の悪い、自分と同じ年寄りが、遙々遠くから乗ってきた車だ。
 三つしかない兄の台詞の最後が、何度観てもウルウルとしてしまうコレだった。

 『あれに乗って、俺に会いに来たのか・・』

*

 ファーンズワースとハリー・ディーン・スタントンの名演技が観れるラストシーンです。(↓)



 

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2 コメント

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よい映画でした。 (vivajiji)
2011-09-20 16:00:13
おいしいとこ全部持っていった
ハリー・ディー・スタントン。(^ ^)
実にうまい演出、そして熟練の演技の味。
何度も何度も繰返し見たこのラストですよ!
受けるアルヴィン爺さんも淡々として良し、
絶妙な目線の使い方、スタントンも役者~!
こういうのどうして「午前10時の映画祭」で
かけてくれないのかしら~
(また言ってます)^^
後から4年前の拙記事飛んでくるはずです。

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スタントンの台詞 (十瑠)
2011-09-20 18:03:26
二つって書いてましたが、三つの間違いでした。

>おいしいとこ全部持っていったハリー・ディー・スタントン。

双葉さんのレビューにも、この台詞が書いてあって、未見の間はイメージが湧かなかったんですが、観てみると、スタントンの演技もあって、深い心情が感じられてもらい泣きしてしまいますねぇ。
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