テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ラスト・ショー

2006-02-05 | 青春もの
(1971/監督・共同脚本:ピーター・ボグダノヴィッチ/ティモシー・ボトムズ、ジェフ・ブリッジス、ベン・ジョンソン、クロリス・リーチマン、エレン・バースティン、アイリーン・ブレナン、シビル・シェパード、ランディ・クエイド、サム・ボトムズ/118分)


 先日発表のあったゴールデン・グローブ賞で、作品賞や脚色賞を獲った「ブロークバック・マウンテン(2005)」の脚本を書いたのが、この「ラストショー」の原作者で脚本も書いたラリー・マクマートリーだ。

 1971年。カラーが当たり前の時代に、モノクロ・スタンダード・サイズのスクリーンで発表されたこの映画は、51年のテキサスの小さな町アナリーン(架空の町)を舞台に、高校生の青春群像を描きながら、閉塞感に包まれた町の人間模様をもあぶり出し話題となった。原題は、【The Last Picture Show】。
 主人公の高校生、ソニーやデュエーン達がデートに使っている映画館が、終盤で閉館するのでそういうタイトルになっている。ラスト・ピクチャーは「赤い河」だ。日本でもそうであったように、映画は台頭してきたTVにお客を取られた。

 製作総指揮は「イージー・ライダー」「ファイブ・イージー・ピーセス」のバート・シュナイダー。出演者も今から考えると錚々たる面々が出ている。

 母親は居なくて父親もヤク漬けという主人公、ソニー役のティモシー・ボトムズは、この後「ジョニーは戦場へ行った」で非情な戦争の犠牲者となる兵士を演じた。
 親友のデュエーン役は、「フィッシャー・キング」や「シービスケット」に出ていたジェフ・ブリッジス。息の長い俳優です。

 西部劇の常連であったベン・ジョンソンは、この映画のサム役でアカデミー助演男優賞を獲り、その後「ゲッタウェイ」「デリンジャー」等で渋い悪役を演じている。サムは、アナリーンで玉突き場や映画館を経営している男性で、町の人からサム“ザ・ライオン”と呼ばれて尊敬されている。ソニー達も父親のように慕っている、いわば古き良き西部の男だ。テキサス魂という言葉もアチラにはあるらしい。

 ジョンソンと同じく、この映画で助演女優賞を獲ったクロリス・リーチマンは、ソニー達のフットボールのコーチの奥さん役。先日紹介した「電話で抱きしめて」にも出てました。とても上手いのに、この後あんまり賞には縁が無いようです。
 「アリスの恋(1974)」でアカデミー主演女優賞を獲ったエレン・バースティンは、この作品でも助演女優賞にノミネートされた。「エクソシスト」の悪魔に取り付かれた少女のお母さん役もやっておりましたな。
 「スティング」でP・ニューマンと組んだアイリーン・ブレナンは、レストランのウェイトレス役。と言うよりは、色々な相談にも乗ってくれる食堂の若いオバチャンだ。この食堂もサムが経営している。

 「さらば冬のかもめ(1973)」でダメ水兵役だったランディ・クエイドは、ソニー達の同級生役。「ブロークバック・マウンテン」にも出ているようです。

 懐かしや、シビル・シェパード。雑誌やTVCMの売れっ子モデルだった彼女は、この作品で映画デビューし、ボグダノビッチともいい仲になったらしいが、女優業の方はサッパリだった。85年から始まったTV番組「こちらブルームーン探偵社」は、売れる前のブルース・ウィリスとコンビを組んだ洒落た探偵モノで、これは毎週NHKで観てました。アチラでも人気番組だったらしい。今回dataを調べていたら私と同じ2月18日生まれというのが分かり、ちょいと気になりました。もうすぐ56歳です。

 さて、映画の話。
 人間模様といっても、ほとんどはセックスが絡んでいるエピソードばかりで、子供と一緒に観るわけにはいかない映画だ。

 ソニーとデュエーンは地元の高校で一緒にフットボールをやっていて、デュエーンの彼女がジェイシー(シェパード)で、ソニーにも彼女がいる。
 ジェイシーの母親(バースティン)は奔放な女性で、たまたま一緒になった男性が石油を掘り当てて成金になっているが、夫婦の倦怠期はとうに来ている。ジェイシーにはデュエーンなんかつまらない男だからヤメナサイと言って憚らないし、夫の会社で石油掘りをしている地元の男性とも遊んでいる不道徳な女性だ。

 ある日ソニーは、自分は仕事でいけないから病気の妻を病院まで送っていって欲しいとフットボールのコーチに頼まれる。コーチの奥さんルースも夫との生活に満たされないものを感じている女性で、夫が迎えに来ない事さえ知らせてくれなかったので思わず涙を見せたりする。

 クリスマスに開かれた町のダンスパーティーで、ルースのゴミの片付けを手伝うソニー。暗闇の中、ゴミ置場で二人はどちらからともなく身体を寄せ合い、口づけを交わすのであった・・・。

▼(ネタバレ注意)
 クリスマス・パーティーの後、ソニーは半年以上もルースと密会を続けるが、小さな町なので二人だけの秘密にはなっていない。卒業後、ソニーがコーチと会う場面があるが、お互いに目を合わすことが出来ないという描き方が印象的だった。

 デュエーンに物足りなさを感じたジェイシーは、他の男と付き合うと言ってデュエーンに一方的に別れを告げ、デュエーンはしばらく町を出て行く。あてにしていた男性が他の女性と結婚してしまったジェイシーは、ソニーが人妻と肉体関係を続けている事を母親から聞き、今度は彼にコナをかける。
 元々美人のジェイシーが好きだったソニーは、彼女の言うままに結婚届けまで出してしまうが、それは彼女の気まぐれであった。二人で、オクラホマまで駆け落ちしようと出かけたのに、ジェイシーは置き手紙をしていて、州境で捕まってしまう。

 後半、ソニーとデュエーンがメキシコへ遠出の遊びに出かけた間にサムが亡くなるが、彼の死はまるで父親が亡くなったような感じだった。(ソニーの父親は、クリスマス・パーティーでほんの少し顔を見せるものの、親子は他人行儀な挨拶を交わすだけだった。)
 サムが死に、ジェイシーの件で一度は殴り合いのケンカもしたデュエーンも朝鮮へ出征する。
 ますます寂しくなる町で、今度は、弟のように可愛がっていたビリーが車に轢かれて死ぬ。

 居たたまれなくなったソニーは車を飛ばして町を出ていくが、州境を越えた所でUターンする。ジェイシーとの駆け落ちの時もそうだが、何回も町の外へ出ていくのに縛られているように帰ってきてしまうのが、この映画の象徴的なシーンだ。

 ラスト。ジェイシーと付き合っていた間に避けていたルースに、ソニーが再び会いに行く。ビリーが死んだ後だ。ソニーが来たとは知らないルースは、化粧もせずに玄関に出てくる。
 『コーヒーを飲ませて下さい。』というソニーに、『今までほおって置いて何よ!』と怒りをぶつけるルース。それでも手を差し伸べ、彼女の手を握り続けるソニーに、初めはまだ愛してくれているのかと嬉しくなるルースだったが、ソニーが求めているのが人間的な温もりであることに気付き、『もう、いいのよ。』と、優しく彼の手を包んでしまう彼女であった。クロリス・リーチマンの名演。
▲(解除)

 ラストショーは「赤い河」でしたが、冒頭の映画館のシーンで上映されていたのは「花嫁の父」でした。

 巨匠ロバート・サーティーズの美しいモノクロ画面。但し、一年以上の時の流れがあるのに、季節感を表すショットが少なくて、展開が平板な感じを受けましたな。

 公開は72年だから、33年ぶりぐらいの再会。今回はサムの方に気持ちが傾くかと思っていましたが、そうでもありませんでした。

 肉欲は芸術の重要なファクターではありますが、モノクロ作品でここまで露骨に描写したアメリカ映画も珍しいでしょう。やはり、ニューシネマでしたな。





鑑賞後記 ~ 「赤い河」と「ラスト・ショー」と、そして・・・

・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて、70年代ファンなら】 テアトル十瑠

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5 コメント

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Unknown (Unknown)
2006-02-06 13:04:41
この映画でのシビル・シェパードは、凄い強烈な印象が残りましたねぇ。「グリフターズ」でアネット・ベニングを見たときも、同じような強烈さを感じましたが。二人とも決して好きなタイプじゃないんですが。



これ見たころはソニーだったのに、サムのほうが近くなっちゃったですねえ・・・
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Unknown (TARO)
2006-02-06 13:05:22
すいません、上のコメントTAROです。
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美人女優の・・・ (十瑠)
2006-02-06 14:56:54
デビュー作でいきなり、ヌード・シーンやセックス・シーンでしたからねぇ。

でも、彼女には「ブルームーン・・・」の方が似合っているような気がします。



>サムのほうが近くなっちゃったですねえ・・・



私もそうですね。

サムの心情、というよりも大人の事情が色んな面で理解しやすくなったという感じでした。
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Unknown (izumi)
2006-02-22 18:23:09
こんばんは~。

TB&コメント、ありがとうございました。

あれは架空の街だったんですね~?なるほど~。

『赤い河』、タイトルも知らない私です。

ぜひ観てみたいです~。
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Unknown (十瑠)
2006-02-22 20:20:56
いらっしゃいませ~。



「赤い河」は、昔はよくTVでも放送したんですがねぇ。

西部劇も最近は殆ど流れませんねえ。

TVでの西部劇の“ラスト・ショー”は何なんでしょう・・・。

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