(1978/テレンス・マリック監督・脚本/リチャード・ギア、ブルック・アダムス、リンダ・マンズ、サム・シェパード/94分)
カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した現在公開中の話題作、「ツリー・オブ・ライフ(2011)」のテレンス・マリックの33年前の、これもカンヌで監督賞を受賞した「天国の日々」を録画(HKN-BS放送)DVDで観る。
当時「SCREEN」の記事で知ってたのに、結局日本公開は忘れた頃の83年なので、ずっと未見だった映画。でもテレンス・マリックという名前と主演がギアだったのは覚えていた。
マリック作品はお初だと思っていたら、数年前に「シン・レッド・ライン (1998)」を観ていた。「天国の日々」から忽然と姿を消して20年、再び映画を作ったら又してもアカデミー賞にノミネートされたと話題になったが、随分前に観たとはいえ、とにかく良い意味での強い印象は残っていない作品だ。
さて、「天国の日々」。
時は20世紀初頭。ホーボー暮らしをしている青年ビル(ギア)と妹リンダ(マンズ)とビルの恋人アビー(アダムス)が主役。彼らが何故ホーボーになったのかは良く分からない。
冒頭で、シカゴの町工場で働いているビルが口論の末に誤って上司を殴り殺すシーンがあるが、その前から住所は不定のようだし、親の様子も全く出てこないから、当時の世界的な不況の一場面と思うしかない。
3人はその他大勢のホーボー達と列車に揺られて西へ向かい、麦の収穫時期になったテキサスの大農場に雇われる。勿論、他のホーボーたちも沢山雇われる。そしてホーボー仲間にもリンダとアビーは自分の妹だと言っているので、農場にも3兄妹というふれこみで雇ってもらう。
この大きな農場の主がまだ若い青年で名前はチャック(シェパード)。独身なのだが、どうやら重い病気を煩っているらしく、見た目は丈夫で健康そうなのに、医者がやって来て彼に余命宣告するのを偶然にビルは聞いてしまう。
収穫作業の合間に見かけたアビーにチャックは惹かれ、仕事が終わってもここに残らないかという。ビルはチャックの余命が1年くらいであることを聞いていたので、アビーにチャックの求婚を受けるようにし向ける。どうせ長くても2年の我慢だと。
タイトルの「天国」というのは、この後チャックと結婚したアビーと共に、兄妹としてビルとリンダも大農場で裕福に暮らした、その日々のことをいうのでしょうか。小麦の収穫時期以外にさしたる仕事もなく、川で遊び野原で遊び、まさに天国だとナレーションをしているリンダは言う。
チャックの新妻となったアビーをただ指をくわえて見ているビルではないし、アビーもビルの方が今でも好きだ。チャックは優しく、自分を愛してくれているのでアビーは申し訳なく思う。そんなアビーを見ていて、ビルにも時に嫉妬心がもたげてくる。
やがて、兄妹と言うには妙にスキンシップの多いビルとアビーに徐々に不信感を覚えていくチャックだったのだが・・・。
アカデミー賞で撮影賞を獲ったネストール・アルメンドロスのキャメラは美しく、人間ドラマの合間に挿入される自然の動植物のショットは小津安二郎の空ショットとも違い、また良くある風景の点描とも違う。深い意味の環境ショットのような感じですな。テレンス・マリックは人間の営みも動植物の営みも自然界からみれば変わりはないんだよ、と言っているような気さえする。
男女の愛のもつれだけではなく、人間の疑心暗鬼が生む心理の葛藤を描いた作品。
但し、異様なシチュエーションの中での微妙な心理が描かれている様に見えるが、その辺りの台詞が若干不足気味で、役者の表情のショットの積み重ねで描こうとしているので、割とありきたりな葛藤に見えてしまうのがマイナス。
結末も僕には消化不良だった。
見所はやはり映像。「allcinema」の解説でも、
<穂に光受け黄金色に輝く麦畑、四季折々につれ変化を見せる農場などの自然描写、季節労働者や大道芸人たちの横顔など、まるで絵画を思わせる美しい映像の集積は、ドラマと見事に融合しつつ、ある部分ではドラマをも越える訴求力を放っている>と絶賛されておりました。
尚、撮影班にはH・ウェクスラーもクレジットされており、追加撮影を担当したとのことです。
米国アカデミー賞にノミネートされ、英国アカデミー賞では作曲賞(アンソニー・アスクィス映画音楽賞)を受賞したエンニオ・モリコーネのスコアは、マカロニ・ウェスタンとは全然違う音色とメロディーを聴かせてくれてビックリだった。
▼(ネタバレ注意)
消化不良の結末とは。
バッタの被害が発生中の農場で、ついにチャックと対立したビルは彼を殺してしまい、またも放浪の旅に出る。アビーとリンダも付いて行かざるを得なくなり、やがてチャックの部下でビル達を胡散臭いと睨んでいた老人が追っ手を差し向け、最後にはビルは射殺されてしまう。
アビーはリンダを施設に預け、自分は再び旅に出る。しかし、ラストシーンではリンダも施設を抜け出し、どこかへ歩き出す。
なんだかな~、の結末でした。
▲(解除)
カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した現在公開中の話題作、「ツリー・オブ・ライフ(2011)」のテレンス・マリックの33年前の、これもカンヌで監督賞を受賞した「天国の日々」を録画(HKN-BS放送)DVDで観る。
当時「SCREEN」の記事で知ってたのに、結局日本公開は忘れた頃の83年なので、ずっと未見だった映画。でもテレンス・マリックという名前と主演がギアだったのは覚えていた。
マリック作品はお初だと思っていたら、数年前に「シン・レッド・ライン (1998)」を観ていた。「天国の日々」から忽然と姿を消して20年、再び映画を作ったら又してもアカデミー賞にノミネートされたと話題になったが、随分前に観たとはいえ、とにかく良い意味での強い印象は残っていない作品だ。
さて、「天国の日々」。
時は20世紀初頭。ホーボー暮らしをしている青年ビル(ギア)と妹リンダ(マンズ)とビルの恋人アビー(アダムス)が主役。彼らが何故ホーボーになったのかは良く分からない。
冒頭で、シカゴの町工場で働いているビルが口論の末に誤って上司を殴り殺すシーンがあるが、その前から住所は不定のようだし、親の様子も全く出てこないから、当時の世界的な不況の一場面と思うしかない。
3人はその他大勢のホーボー達と列車に揺られて西へ向かい、麦の収穫時期になったテキサスの大農場に雇われる。勿論、他のホーボーたちも沢山雇われる。そしてホーボー仲間にもリンダとアビーは自分の妹だと言っているので、農場にも3兄妹というふれこみで雇ってもらう。
この大きな農場の主がまだ若い青年で名前はチャック(シェパード)。独身なのだが、どうやら重い病気を煩っているらしく、見た目は丈夫で健康そうなのに、医者がやって来て彼に余命宣告するのを偶然にビルは聞いてしまう。
収穫作業の合間に見かけたアビーにチャックは惹かれ、仕事が終わってもここに残らないかという。ビルはチャックの余命が1年くらいであることを聞いていたので、アビーにチャックの求婚を受けるようにし向ける。どうせ長くても2年の我慢だと。
タイトルの「天国」というのは、この後チャックと結婚したアビーと共に、兄妹としてビルとリンダも大農場で裕福に暮らした、その日々のことをいうのでしょうか。小麦の収穫時期以外にさしたる仕事もなく、川で遊び野原で遊び、まさに天国だとナレーションをしているリンダは言う。
チャックの新妻となったアビーをただ指をくわえて見ているビルではないし、アビーもビルの方が今でも好きだ。チャックは優しく、自分を愛してくれているのでアビーは申し訳なく思う。そんなアビーを見ていて、ビルにも時に嫉妬心がもたげてくる。
やがて、兄妹と言うには妙にスキンシップの多いビルとアビーに徐々に不信感を覚えていくチャックだったのだが・・・。
アカデミー賞で撮影賞を獲ったネストール・アルメンドロスのキャメラは美しく、人間ドラマの合間に挿入される自然の動植物のショットは小津安二郎の空ショットとも違い、また良くある風景の点描とも違う。深い意味の環境ショットのような感じですな。テレンス・マリックは人間の営みも動植物の営みも自然界からみれば変わりはないんだよ、と言っているような気さえする。
男女の愛のもつれだけではなく、人間の疑心暗鬼が生む心理の葛藤を描いた作品。
但し、異様なシチュエーションの中での微妙な心理が描かれている様に見えるが、その辺りの台詞が若干不足気味で、役者の表情のショットの積み重ねで描こうとしているので、割とありきたりな葛藤に見えてしまうのがマイナス。
結末も僕には消化不良だった。
見所はやはり映像。「allcinema」の解説でも、
<穂に光受け黄金色に輝く麦畑、四季折々につれ変化を見せる農場などの自然描写、季節労働者や大道芸人たちの横顔など、まるで絵画を思わせる美しい映像の集積は、ドラマと見事に融合しつつ、ある部分ではドラマをも越える訴求力を放っている>と絶賛されておりました。
尚、撮影班にはH・ウェクスラーもクレジットされており、追加撮影を担当したとのことです。
米国アカデミー賞にノミネートされ、英国アカデミー賞では作曲賞(アンソニー・アスクィス映画音楽賞)を受賞したエンニオ・モリコーネのスコアは、マカロニ・ウェスタンとは全然違う音色とメロディーを聴かせてくれてビックリだった。
▼(ネタバレ注意)
消化不良の結末とは。
バッタの被害が発生中の農場で、ついにチャックと対立したビルは彼を殺してしまい、またも放浪の旅に出る。アビーとリンダも付いて行かざるを得なくなり、やがてチャックの部下でビル達を胡散臭いと睨んでいた老人が追っ手を差し向け、最後にはビルは射殺されてしまう。
アビーはリンダを施設に預け、自分は再び旅に出る。しかし、ラストシーンではリンダも施設を抜け出し、どこかへ歩き出す。
なんだかな~、の結末でした。
▲(解除)
・お薦め度【★★★=一見の価値あり】
ラストも、だからどうした?という感想しか湧きませんでした・・・。
後味の悪い作品ですよね。
だから風景と同化させて見た方が、マリックさんの意図は分かりやすいのですが、それにしても人間ドラマの結末はあっけないというか・・・。
>だからどうした?
ラストの意味は、あちらの人にしか分からない何らかの意味はあるのではないかと思ってますが、今の所、宵乃さんと同じ感想です。