テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ヒストリー・オブ・バイオレンス

2014-11-15 | サスペンス・ミステリー
(2005/デヴィッド・クローネンバーグ監督/ヴィゴ・モーテンセン=トム・ストール、マリア・ベロ=エディ・ストール、エド・ハリス=カール・フォガティ、ウィリアム・ハート=リッチー・キューザック、アシュトン・ホームズ=ジャック・ストール、ハイディ・ヘイズ=サラ・ストール、ピーター・マクニール=サム・カーニー保安官/96分)


(↓Twitter on 十瑠 から[一部修正アリ])

デヴィッド・クローネンバーグの「ヒストリー・オブ・バイオレンス」を観る。一昨日レンタルしてきて今日で2回目。クローネンバーグは「クラッシュ」と地上波TVの「フライ」くらいしか観てない。個性的という印象で、好んで観たい監督ではないが、今作は評判も悪くないので気にはなっていた。
[11月14日 以下同じ]

妻と二人の子供に恵まれた平和な家庭を持つ“穏やかな隣人”と思われた男が、実はかつてマフィアの一員であり、そのマフィアに追われていたという話。名前を変えて十数年、ならず者は小さな町で小さなダイナーを営んでいたが、ひょんな事から全国ニュースで顔が晒され追っ手がやって来る事になる。

オープニングの不気味な静けさとカメラワークがデヴィッド・リンチみたい。(モーテルから出てきた二人組の若い方が、入口のドアの横にあったパイプ椅子の小さなズレを直すのが妙に印象に残るなぁ)





その映画で監督は何が言いたいのか、なんて事を考えるのは不得意だし、そもそも映画は何を描こうとしているかが問題だと思ってるんだけど、この「ヒストリー・オブ・・・」はそのどちらにも明確な答えが出せないでいる。

単純なストーリー展開を振り返れば、ストレートなハッピーエンドのアクション映画にだって出来るモノだけど、クローネンバーグは(少なくとも気分的には)ハッピーエンドにはしていない。脛に疵持つ父親もその家族も、(万々歳といっていい)ラストシーンも浮かない顔だ。

夫の、或いは父親の意外な姿に驚き、戸惑う家族の心情を描きたいなら、奥さんを主人公にしたストーリーにすればいいのに、映画は父親の隠し事も最初は観客に知らせないで、彼を穏健な主人公として展開していく。グラフィック・ノベルの原作があったらしいから、要するに元はエンターテインメントなんだな。

だからさぁ。僕は最初に観た時は北野武も思い出しちゃったんだよね。かっこ良いバイオレンスとかっこ良くない葛藤で。奥さんの悩む姿や夫婦、息子との葛藤も分からんではない。でも見終わると、どうも中途半端な印象が残ってしまう。どっちが描きたかったんだろうって。お薦め度は★三つか四つかで迷って、出来は★四つクラスだけど、お薦め度はやっぱり三つしかあげられない。

それにしても、最初はウィリアム・ハートが分かんなかったぞい。見た事ある俳優だけど・・・てな具合。お見事な悪役でした。

*

「ヒストリー・オブ・・・」の中でお薦め度★四つに値するのは不穏な空気の醸成が上手い事。冒頭の二人組のギャングがモーテルの従業員らをいとも簡単に殺すエピソードが効いてるんだけど、この二人組が再び登場するシーンも凄いね。そして、ギャング達が主人公に殺られるアクションシーンもパンチがあってイイ。
[11月15日 以下同じ]

エド・ハリス扮するフィラデルフィアのギャングは、かつて主人公の仲間で、彼に恨みを持ってるんだが、主人公は人違いのフリをする。このギャングが最初に町にやって来た時の、地元の警官とのやり取りも、いつギャングが拳銃をぶっぱなすかとヒヤヒヤしたな。あの場面も上手い。





主人公は奥さんにもギャングに人違いされてると説明し、奥さんも納得している。しかし悪者が家にまでやって来て、息子を人質にされ、ついに奥さんと息子の前でギャングを撃退する。鮮やかな手練を見せて。これで奥さんも旦那の嘘に気付くわけだけど、この後の夫婦の不穏な空気の中のやり取りも面白いネ。

奥さんに過去が(ほぼ)バレ、息子にも距離を置かれ戸惑う主人公。家にやってきた地元の警官も、通りすがりのギャングだけでなく明らかに東海岸のマフィアらしき3人組までもやっつけた隣人に『どうも腑に落ちないんだが』と問われ、つい本当の事を言いそうになる。と、そこに帰ってきた奥さんは・・。

このシーンも巧かった。この後話題になった階段でのセックスシーンになる。なんか他の人の記事では夫の暴行のように書かれてたけど、そうじゃなかったな。それとそれ程過激でも・・。
 少し前に「ニンフォマニアック」の予告編を見たからかな^^

*

 2005年のアカデミー賞で、助演男優賞(ハート)、脚色賞(ジョシュ・オルソン)にノミネート。
 全米批評家協会賞では、助演男優賞(ハリス)と監督賞を受賞したそうです。






・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「声をかくす人」 ~つぶや... | トップ | ダメよ~、ダメダメ »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして! (スパイクロッド)
2014-11-15 23:04:20
スパイクロッドと申します。

クローネンバーグの映画っていうのは、
いっつも解釈に迷ってしまうんですよねぇ。
まあそこが大好きなんですけど(笑)

おっしゃるとおり、不穏な空気の醸成が圧巻ですよね!
意外と何気ない、淡々とした雰囲気と乾いた空気感のなか、
何かが起こりそうで起こらなかったり、
突然、恐ろしいほどの暴力が繰り出されたり、
一瞬たりとも目が離せません!

階段でのSEXシーンもうまいです!
あれをレイプだと認識してる人がいるとは驚きですね!
ああすることでしか、お互いの愛や信頼を確認できないわけですよね。
返信する
スパイクロッドさん、いらっしゃいませ (十瑠)
2014-11-16 11:35:25
TB&コメントありがとうございます。

そうですか。クロネンさんのファンでいらっしゃる。
「ヴィデオドローム」とか「フライ」とかでホラー作家のイメージがあるので、殆ど観てないんですよね、僕は。

不穏な空気の醸成は、プロット的にも上手くいった作品だと思いますね。

ただ、最終的にはスリラーとアクションと心理ドラマとが混在して、ケチをつけたくなったです。

お好きな監督の割には偏愛度が★二つって・・・。
返信する

コメントを投稿

サスペンス・ミステリー」カテゴリの最新記事