特待生と野球留学

「特待生」、「野球留学」、「アマチュアリズム」に焦点を絞って展開します。

伊吹文明文科相

2007年05月08日 | ブルータス

もう少し先になってから登場してもらうつもりでしたが、こういう展開になってしまった以上、仕方がありません。

生徒に不利益ないよう要請 野球特待生問題で文科相
(2007年05月07日 11:41 共同通信)
 伊吹文明文部科学相は<略>「できるだけ生徒に被害が及ばないよう話をしたい」と述べ、文科省として特待生が厳しい処分を受けることがないよう高野連側に要請する考えを示した。
 文科相は「制度を知らなかった少年が被害者になるのを避けるのが、教育に携わる大人の責任だ」と強調した。

 <略>
 伊吹文科相は、野球以外のスポーツや学業成績が良い生徒の特待制度もあることを踏まえ、「特待制度そのものが悪いとは思わない」と表明。その上で「高野連が世間一般の風潮を考えてどう対応するかが大きなポイントだ」と指摘した。

これを受けて?(としか思えません)、高野連様がさっそく動いたようです。世論に叩かれた挙句、とうとう文科相からも口を挟まれる辛い立場に追い込まれたようです。文字どおりの“自爆”ですから自業自得なんですが…。

選手への影響を最小限に 特待生問題で緊急理事会
(2007年05月07日 20:34 共同通信)
 日本高校野球連盟は7日、日本学生野球憲章が禁じるスポーツ特待制度の実態調査で376校が違反を申告したことを受け、今後の対応について10日に緊急の全国理事会を開くと発表した。田名部和裕参事は「選手の受ける影響をできるだけ少なくするのが目的。転校や退学を回避できる緩和措置を出せるのかを話し合う」と語った。
 審議内容は、(1)特待制度解約により就学継続が困難となる部員への緩和措置の検討(2)野球部長の処分軽減(3)新たに設置する特待生問題私学検討部会の目的など今後の進め方-の3点。

つい先日までの強気の姿勢はどこに行ったのかと揶揄したくなりますが、緩和や軽減ではなく撤回してほしいと私は考えています。

田名部氏や脇村氏は「なぜ野球だけ?」の問いに対して、戦前に文部省から「野球統制令」を突きつけられた歴史があることを理由にあげてきました。結果的に、この「野球統制令」はプロ野球の誕生を促したのですが、一方では(戦局の悪化という特殊な状況にあったとはいえ)現在の東京六大学リーグが解散を命じられるなどの制約を受けたことも事実です。

皮肉な話ですが、過剰反応の末に暴走してしまったばかりに、嫌っていたはずの政治の介入を逆に呼び込んでしまったことになります。

さて、伊吹氏の昨日の国会答弁は、いずれ国会図書館Webサイトの議事録に収録されるでしょうから、改めて取り上げる機会を設けなければなりませんが、伊吹氏は4月17日の会見では次のように述べています。

文部科学省>平成19年4月17日大臣会見概要
記者)
 専修大学北上高校が、学費免除等、日本学生野球憲章に違反して、結局解散ということになったのですが、それについて大臣の所感をお願いします。
大臣)
 私自身の考えは、野球の才能を伸ばすということは悪いことではないとは思いますが、各地から学生をスカウトして強いチームを作るというやり方は、本来の学生スポーツ、アマチュアスポーツに本当にいいのかなという気がします。特待生になった子どもに罪はないという意見もありますが、同時に、特待生になることは子どもも保護者も知っておられるわけです。特に保護者のお立場からすると、子どもの才能を伸ばしてやりたいというお気持ちは分からないわけではないですが、親元を離れて、野球の上手な人たちだけを特定の学校地域に集めるという在り方そのものを、考えなければいけないのではないかと思います。
記者)
 解散ということで子ども達に影響が出てきていますが、文部科学省として何かアクションというものは有り得るのでしょうか。
大臣)
 単に野球だけのことではありません。率直に言えば、特に私立の場合は何処へ行っても良いわけです。そういう議論に入る前に、安倍流に言えば、学校や両親の規範で解決していかないといけないと思います。文部科学省がそこへ口を出すことはどうかと思います。私は本来のアマチュアスポーツの在り方からすると、あまり適切なことではないという気がします。
記者)
 特待生制度というのは野球以外では結構幅広くあるようですけど、それ自体もあまり良くないというお考えでしょうか。
大臣)
 ずっと昔から特待生制度は、学校成績など色々ありましたよね。だから特待生制度そのものがいけないということではないと思います。アマチュアスポーツというのは、そのスポーツ行為に対して対価を与えないということによって成り立っているわけです。

政治家特有の言い回しですから、「言語明瞭、意味不明」ほどではないにせよ「論理明快」とは言えないでしょう。この会見で伊吹氏は次の諸点を述べたわけです。

  1. 野球の才能を伸ばすことは悪いことではない(原則論)
  2. 各地から選手を集めるのはアマ、学生として好ましくない(野球留学はNG)
  3. 特待生になることは、保護者も生徒も知っているはず(故意である)
  4. 親元を離れて特定の学校に集まるのはよろしくない(野球留学NG)
  5. 私立に学区はない(原則論)
  6. 行政が口出しすることではない(原則論)
  7. アマチュアの本来の姿から逸脱している(アマとは?)
  8. 特待生制度そのものは悪くない(これも原則論)
  9. アマチュアスポーツは対価を求めてはいけない(古典的発想)

伊吹氏の会見での発言は一貫しています。すべて原則論を述べたうえで、最終的には野球留学やアマチュアリズムの話に流れます。このブログのテーマそのものです。

野球留学やアマチュアリズムについては改めて扱うこととして、今日のところは伊吹氏の発言の変化だけ強調しておきます。2番目の問いに関する応答で伊吹氏は「口をだすことはどうか」と発言しています。口を出すつもりはなかった大臣に口出しさせてしまったのは、それを恐れていたはずの高野連様の失態です。

また、4月17日の記者会見で、伊吹氏は「特待生になることは子どもも保護者も知っている」と述べています。これに対して、昨日の答弁では「制度を知らなかった少年が被害者になるのを避ける」べきだとおっしゃっています。

おそらく、ここに言う「制度」とは特待生制度のことではなく、学生野球憲章を指しているのでしょう。ですから、決定的に矛盾するものではありませんが、「制度を知らなかった」生徒が免罪されるのでしょうか?

8000人の中に10人ほど学生野球憲章を知っていても不思議ではありません。もし、「制度を知らなかった」がゆえに免責されるのであれば、知っていたか知らなかったか確認する作業が必要になるはずです。

なんども繰り返しているような気がしますが、彼らが免責されるのは「制度を知らなかった」からではありません。無知ゆえに免責されるのではないのです。最初から無実だというそれだけの話であって、ほとんど言いがかりの冤罪でしかありません。

これまた、かぶるはずですが、特待生の「契約」とは生徒の法定代理人である保護者と学校側との間の適法な私的契約であって、一競技団体が「憲章」とやらを盾に年度途中で破棄を迫るような性質の問題ではありません。

もし、違法な契約であれば、なおさら一競技団体がでしゃばってはならないのです。問題の所在を指摘すれば足りることであって、あとはしかるべき機関に任せればいいだけです。競技団体がその枠を超えて、自らの(朽ち果てた)価値観を押しつけてはなりません。

まあ、こういう展開になってくると、早々に白旗を掲げて高野連様の軍門に降り、ひたすら恭順の意を示した校長先生のコメントを読み返すのが楽しみになってきます。私はこのブログでは徹底的に悪趣味を貫くつもりです。「学校別」はまだ終わるわけではありません。

学生野球憲章は、高校と大学の野球部関係者を対象にしたものです。高野連様の言うとおり、野球部員だけが奨学生にもなれないのだとすれば、学生野球憲章は法の下の平等を定めた憲法14条に触れるのではないかという議論もこれからは起きてくるでしょう。



1 コメント

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Unknown (特待生の母)
2007-05-09 17:51:09
今頃になって、政治力のあおりで、救済措置を考えるとは、何と、浅はかな財団法人でしょうか。
 大人の商売に利用され、大人の勝手な判断で夢を見るなと言われ、本人にも責任があると言われ、一体その子の人格は、何処に行ってしまったのでしょう。
例え、野球留学が悪くても、中学3年生という年齢で、親元を離れ甲子園を夢見て、競争レベルの高い学校に行く事が、本人や親の利益ばかりでしょうか。現場の状況を何にも見ないで、議論し、カメラの前で、フラッシュを浴びても、その発言は昭和初期の状況を今現在にあてはめているだけに過ぎないと思います。
 何十年もの間、黙認してきたその怠慢や、実情を反省する事も無く、ルール破りとイキナリ言われ、契約解除、試合辞退、あきれ返ります。救済措置ではなく、発言を取り消し、現在の3学年についての特待制度利用を認めるべきだと、思います。来年入学時以降のはっきりした、ラインを設定し、新たに罰則をきめ、抵触した場合は、納得がいくと思います。
 その場の急な判断が、どれだけの人間を苦しめ、どれだけの高校生の心を傷つけたのか、心のケアーは、誰がしてくれるのでしょう。
 例え、仮に特待制度が続行できたとしても、地方大会を辞退させられた無念を取替す事はもう二度とないにです。
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