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ゆうなパパのブログ

思ったことの羅列から…
基本的に毎日書くことを自分に課しています
つまらないエントリもありますが流してくださいませ

『ビタミンF』 重松 清 

2010-02-08 12:26:00 | 読んだ本
重松さんは私と同世代だからなのか、その思いや伝えたいことが
「う~ん、わかる、わかる、その気持ち」って感じ。
文章的にも難しい単語やわかりにくい表現はほとんどなく、
日常的で平易な文章なんだけどオヤジの心にはよく響きますね。

育ち盛りから難しい年頃を迎える子どもたちの父親として、
休みの日の家でのちょっとした妻の言動が気になる夫として、
離れて暮らしている親の老後を気にする子どもとして
会社では部下もいるそれなりの役職についたりして頑張る企業戦士として、
中年オヤジたちは悩み、迷い、いろいろ考えているのですよ。

『夕食後、リビングでテレビを観ているとき、
 テレビの画面からふと目を離し、
 家族を眺め渡した瞬間、不意に思った。
 「俺の人生これか~」
 な~んだ、と拍子抜けするような。
 ちぇっ、と舌を打ちたくなるような。
 といって、今さらやり直しはきかない。
 そんな人生を自分は生きているのだと。

 ジグソーパズルって、
 ある程度までできてきたら、
 絵柄がわかるだろ。
 それと同じなんだ。見えたんだ。
 俺の人生ってこんな形なんだ。
 意外とつまんないなって』

思わず自分の普段の言動を振り返りたくなるような7つのお話。
まあそれぞれにオヤジたちは一生懸命に生きてるんですけど、
家族や周囲のことを思う気持ちがいかに強くても、
自分と相手との間の見えない溝はど~しても埋めきれない。
世代なのか、個々の性格なのか、立場なのか、
そのギャップのせいで現実はうまくはいかないことばかり。
人生とか人間関係とかそんなことの繰り返しなんでしょうね。

私にとってのビタミンFは、やっぱり“Family”なのかなぁ。


『黒龍の柩』 北方謙三

2010-01-15 12:26:00 | 読んだ本
新撰組副長の土方歳三をメインに、池田屋事件から箱館戦争までの
大きくしかも激しい時代の流れの中で必死にもがき、
理想の国家を作ろうとする壮大な試みが挫折して行く物語です。
土方はひたすらクールで、近藤はひたすら真っ直ぐ。
彼ら幕末の志士たちの大いなる夢が消えて行くプロセスは、
読んでいてとても切なく物悲しいものがありますね。

夢破れて駿府に幽閉されてしまった慶喜と土方との会話が印象的。
「恨むまいぞ、土方。誰を恨んでもならん。
 時代の流れが人を動かした。今ある姿は結果に過ぎん」

「後世の人々は、言うのであろうな。有り余るほどの力を持ちながら、
 鳥羽、伏見の小さな局地戦で敗れただけで、すべてを放り出した臆病者だと」
「誰かがわかる。私は、そう信じております。
 御前のなされたことは、国のことを、民のことを考えてのことでありました。
 血を見ることもなく、権力の委譲がなされたのです」

「私は、聞いたことがあります。この国にも、外国にも、
 民の血さえ見ることもなく、権力の委譲がなされた歴史はないと。
 いつか、誰かが、それをたたえるはずです」
「江戸と京だけは、戦火で焼いてはならん。それをやれば、外国の介入がある。
 そう信じた自分を、私は否定する気はない。いまも、正しかったと信じている。
 しかし、夢もまた、正しいと信じて私が抱いたものであった」
「薩長が小さすぎました。自分たちが安心する国を作りたい。
 民ではなく、自分たちがと考えたのだろうと思います」
「土方、私は生きられる限り生きて、この国の行末を見つめていこうと思う。
 願わくは、平和な国として大きくなって欲しいと思う。
 薩長さえも、恨むまいぞ、土方」
「はい」
「駿府へ連れ戻されてから、私はいろいろと考えた。
 人は一つだけ貫き徹すものがあればいい。私にとって、それは非戦であったとな」
「心に、刻みつけておきます、御前」
「しかし、ともに夢を抱いた。
 かつてどこにもあり得なかったほどの、壮大な夢であった。
 その夢を持ったというだけで、私は、この世にある私の生を悔いぬ」
 声が、ふるえていた。泣いているのだ、と歳三は思った。

司馬遼の『最後の将軍』に描かれていた慶喜もなかなかでしたが、
北方流の新撰組も、西郷隆盛を悪役に仕立て、
土方歳三、徳川慶喜、坂本龍馬、勝海舟、小栗忠順らが
織り成すドラマはなかなか面白いお話でしたね。


『珍妃の井戸』 浅田次郎

2009-12-08 12:39:00 | 読んだ本
『蒼穹の昴』の続編というか番外編的な作品。
時代は「蒼穹の昴」よりも少し後で、
義和団事変(1900年)が終わり、
日露戦争(1904年)が始まるまでの間のこと。
1902年、大英帝国が義和団事件の調査、
『義和団事件における連合軍将兵の非人道的行為に関する調査』
のために派遣したソールズベリー提督に、
「義和団事件の混乱の中で、
 ひとりの美しい妃が紫禁城内で命を落としたという
 “珍妃暗殺事件”の謎を解いてほしい」
という謎の美女のささやきから始まり、
ソールズベリー提督以下、
英独露日の4人の貴族が謎解きに挑みます。

この謎解きのプロセスは、
重要参考人もしくは犯人と思われる人物を
次々にインタビューしていくという展開になっていますが、
それぞれがそれぞれの立場や利害関係で証言するため、
聞くたびごとに犯人が違い、誰が嘘をついているのか、
誰が真実を語っているのかが全くわからないというストーリー。
展開の面白さもさることながら、感心させられるのは
当時の時代背景を4人の会話や証言の中に見事に描いていること。
イギリスもドイツもロシアも日本も、それぞれの利権があり、
隙あらばどうにかして中国を植民地化しようと企んでおり、
その列強の動きに抵抗しようとする4000年の歴史の中国の姿。
直後に日露戦争が勃発するだけに、
松平東京帝国大学教授vsペトロビッチ露清銀行総裁の
舌戦などはなかなか読み応えありますね。
『蒼穹の昴』から続けて読むと、
清という大国が織り成す壮大なロマンに酔いしれますね。


『蒼穹の昴』 浅田次郎

2009-12-02 12:33:00 | 読んだ本
言わずと知れた浅田次郎の直木賞受賞作であります。
時代は清朝末期、李春雲と梁文秀という優しく賢い2人の青年が
すさまじいばかりの時代の流れの中で懸命に生きていく壮大な物語。

主人公は2人ですが、自ら自分の大事な男性の象徴を切り落とし、
宦官になった李春雲(春児・チュンル)のひたむきさに好感が持てました。
物語の中盤で、春児が時の総管太監(全ての宦官を支配する)李蓮英と
自分の命をかけてやりあうシーンがあります。
春児の言動に怒り狂った李蓮英は、部下に春児を即刻打ち殺すよう命じますが、
部下は誰一人としてその命令には従わず、微動だにしません。
そして、一人の老宦官が李蓮英に向かって春児への皆の想いを雄弁に語ります。

『わしら宦官は男の屑だが、人間の良心は持っておる。
 何から何まできんたまと一緒に切り落としちまったわけじゃねえんだ』

『あんたらは悪者だよ。まいないは取る、暴力はふるう、
 上にはこびへつらって下の者にはいばりちらす。
 そうやってなにがなんでも出世しようってんなら、
 誰でも大総管になってらぁ』

『こいつは老祖宗(西大后)に引き立てられたばかりでなく、
 みんなに推されて出世した初めての太監だ。
 こいつは男を捨てて、何もかも捨ててきたはずなのに、
 人間の矜りってやつをちゃんと持ってるんだ。
 だからてめえのお宝までくれてやっても平気のへいざなんだ。
 目をそらすな。見ろよ。神様ってのは、こういうもんだ。
 決して拝んだり頼ったりするもんじゃねぇ。
 いつも貧乏な人間のそばにいて、
 いてくれるだけで生きる望みをつないでくれる、
 ありがてえ、かわいいものだ。』

アヘン戦争、義和団(ボクサー)の乱、戊戌の政変と、
清朝末期の時代の大きな流れは、歴史の授業で習いましたが、
そのど真ん中で繰り広げられた壮大なロマンには酔いしれますなぁ。
来年には、NHKと中国との共同制作でドラマが放送される予定とのこと。
いやいや今からとっても楽しみにしております。


『秋日和』 赤瀬川 隼

2009-11-18 12:24:00 | 読んだ本
『人は何を食っていきていくのか?
 道草を食っていきていく。 
 道草こそが人が生きる上で
 最良の滋味あふれる栄養源である』

人生をまっすぐ一直線に行くより、
道草を食いながら曲がりくねって歩くほうが面白い。
赤瀬川さん流のスローライフのススメなんでしょうね。

短編10篇が収められていますが、
どれも中年から老年にかけての恋愛話で、
結構いけてる男の大人の恋愛小説ですね。
いい歳のオヤジになっても、いい女を前にすると、
『オレはいけてるのか?』と自問自答し、
高ぶる己の感情を抑えきれず、
果敢に、しかも大人の雰囲気でおしゃれに誘う。
小説なので、実際のところはここまで話が
うまく展開することはないのでしょうが、
こんな出会いがあればいいなぁと
ここにいるいい歳のオヤジも思うのでありました。