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ゆうなパパのブログ

思ったことの羅列から…
基本的に毎日書くことを自分に課しています
つまらないエントリもありますが流してくださいませ

『星に願いを~さつき断景』 重松 清

2010-09-02 12:31:00 | 読んだ本
高校に入学したばかりのタカユキ、
35歳のサラリーマンのヤマグチさん、
定年を一年後に控えたアサダさんという
全く関わりのない3人の95年から2000年の、
それぞれの5月1日を切り取って見えてくるものとは。

人や家族の成長と老い、喜びと悲しみ、そして苦悩。
世の流れには逆らうことは到底できないけど、
流れに身を任せているだけでは成長もしないし、
前にも進まず、生きている証にもならない。
私の年齢的には一人娘を持つヤマグチさんの
日常ひとつひとつが身に沁みましたね。

「コトコトと弱火で煮込む鍋から、
 カレーのにおいがたちのぼってくる。
 懐かしい。カレーのにおいは特別だ。
 一日の仕事を終えて我が家に帰り着き、
 玄関の外にうっすらと漂うそのにおいを嗅いで、
 ああ今夜はカレーなんだなあ、
 と微笑み交じりにうなずくときの気持ちは、独特のものだった。
 ほかのどんな料理のときとも違う。
 なにがどう違うのかはうまく説明できないけど、
 とにかくカレーは『我が家』なんだと、思う」

う~ん、確かに。
カレーってそれぞれの家庭の味がありますもんね。
こういう文章と表現は重松さんの上手いところですね。


『吉宗と宗春』 海音寺潮五郎

2010-08-10 12:34:00 | 読んだ本
歴史上では常に表舞台、大河ドラマの主役にもなった吉宗。
その吉宗の最大のライバルだった尾張徳川藩主の宗春。
脇役だった宗春にスポットライトを当て、
時の権力者である吉宗や幕府との確執を
宗春の立場、宗春の目を通して描く世界は、
読んでいて痛快で胸のすく思いがします。

歴代の将軍たちのおかげで弱りきった幕府の財政を
立て直すべく吉宗が実行したケチケチ作戦の倹約令。
このケチケチ作戦で幕府の財政はなんとか持ち直したものの
幕府だけが潤い農民や町民たちは逆に疲弊するという結果に。
そこで幕府の倹約令に真っ向から対立したのが宗春。

宗春曰く
『政道は生き物であり、臨機応変に最上の策を施すべきである』

幕府の財政が持ち直した後も、ケチケチ作戦をとり続けたことに対し、
宗春は、名古屋の町に遊女町や芝居小屋を設け、
踊りや鳴り物をも奨励し、宗春自らも派手に遊び散財しました。
幕府からお咎めが来ようとも、持ち前の駆け引きの上手さで追い返し、
そうこうするうちに名古屋の町は大賑わいとなり、
世間では町民たちの宗春絶賛の声が大きくなります。
吉宗、そして幕府の面目はまるつぶれという格好になり、
大岡越前守忠相や老中松平左近将監乗邑までもが、
宗春の術中にはまって散々な目に遭わされ、
小気味のいい展開に読んでいても思わずにやりとしたくなります。

ただ、何事も度を超えたやり過ぎは禁物だということ。
最後は放蕩がたたって尾張徳川藩の財政破綻を導いた責により
幕府から蟄居謹慎を申し付けられるという結果に。
う~ん、最後はもうちょっとかっこよくキメてほしかったかなぁ。


『天国までの百マイル』 浅田 次郎

2010-07-17 17:55:00 | 読んだ本
経営する不動産会社をバブル崩壊で潰してしまった城所安男。
自己破産し、別れた妻への仕送りにも頭を悩ます日々。
そんなある日、狭心症で入院中の母を見舞った安男は、
主治医から母の心臓が極めて危険な状態であることを知らされる。
安男は母の命を助けるために、天才的な外科医がいる
千葉房総のサン・マルコ記念病院をめざして、
オンボロなワゴンで百マイルの旅に出た…

瀕死の重い心臓病を患いながらも、
四人の子どもたちの幸せだけを願ってやまない母親、
相手のことを自分の命をかけて信じて尽くすホステスの女、
金儲けよりも正義感と使命感で患者の病気に立ち向かう医師。

サン・マルコ記念病院の神の手を持つドクター曽我の印象的なセリフ。
「俺は医者が嫌いだ…俺は権威が大っ嫌いだ。
金が欲しけりゃ商売をやりゃいい。俺は何も欲しくない。
そんなヒマがあったら人の命を助けたいよ。
いつかは消えてなくなる命だって、
一分でも一秒でも引き延ばしてやりたい。
ありがとうなんて言うなよ。感謝されるのは権威だからな。
病気や怪我に打ち克って生きるのは人間の権利、
それを支えるのは医者の権利だ。義務じゃないんだ。
好きでやってるんだから権利なんだ」

それって「無償の愛」ってヤツなんでしょうね。
金銭的なお礼とかモノでのお礼とか、
何の見返りも、ありがとうの言葉さえも求めない愛。

サン・マルコ病院に辿り着いた安男はつぶやきます。
「世の中に、初めから与えられている結果なんてないんだな。
世の中の善意をかき集めて、俺は百マイルを走った。
何かひとつでも欠けたら、すべてはご破算だった。
何もかもガソリンに代えて、俺は天国までの百マイルを走った」

読み終わった後の爽やかな読後感と、
P.P.Mの「A hundred miles,A hundred miles.....」の歌声が
余韻としていつまでも残るいいお話でした。


『深夜球場』 赤瀬川 隼

2010-06-18 12:37:00 | 読んだ本
赤瀬川先生の野球をテーマにした短編集であります。

『数字は野球の墓場なんだ。
 数字が記録された瞬間に、
 その元となったプレーは消えてるんだ。
 野球そのものは、何も作らないし、何も残さない。
 一瞬一瞬、すばらしいプレーや、まずいプレーや、
 面白いプレーが生まれては消えていく。
 残るのは思い出だけさ』

最初の「オールド・ルーキー」というお話の中での、
ちょっとキザなかっこいいセリフではありますが、
そんな風に野球を捉えるのは、“プロ意識”なんでしょうね。

『ゲーム以外にプロが見せるべきものはない』

ミスター・ジャイアンツ長嶋さんも
同じような主旨のことを言っていた気がします。
プロなんだから練習だとか、努力している姿を、
人前で易々と簡単に見せるもんじゃないんだと。


『だめだこりゃ』 いかりや長介

2010-05-30 16:06:00 | 読んだ本
7年前に鬼籍に入ってしまったいかりや長介の自伝。
最初の章が荒井注の葬儀から始まるところがなんとも。

我々の世代にとって、ドリフの笑いは無条件に面白かった。
ちょうど私が小学生の頃、笑い転げていた「全員集合」は、
今、我が家の小学生の子どもたちもDVDや
テレビのドリフ名場面スペシャルを見て笑い転げています。

その笑いの基本は“わかりやすさ”
そして、メンバーたちの絶妙の間とそれぞれの個性。
毎週、毎週、16年間も生放送でコントをやり続け、
その裏でずっとネタを考え続けた長さんは凄まじい努力家、
いや、“笑い”に命を賭けていた天才なのかもしれません。
先日のドリフスペシャルは録画してあるので、
これまでとはドリフのコントを見る目が変わりそうですね。

「踊る大走査線」で和久指導員を演じた長介さんの
シブイ、抑えた感じの演技は存在感ありでした。

よくありがちな
『歳をとってもいかに若く見られるか』
というタイプの芸能人ではなく、
『歳をとればとるほどカッコいい』
という新しい老人タイプを作り上げたんでしょうね。

遅ればせながら、長介さんのご冥福をお祈りいたします。