毎日新聞がB型肝炎訴訟の原告にアンケートを実施し、その結果を1面に掲載していました。
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B型肝炎訴訟:原告の4割「医療費重荷」 毎日新聞調査
B型肝炎訴訟の原告を対象に実施したアンケート
集団予防接種の注射器使い回しが原因でB型肝炎に感染させられたとして、全国で511人が国を訴えているB型肝炎訴訟で、毎日新聞は9月中旬~10月上旬、弁護団を通じて全原告を対象にアンケートを実施した。約6割に当たる297人が回答を寄せ、その4割近くが医療費支払いについて経済的に苦しいと感じ、3割以上は感染や発病が原因で退職・転職を余儀なくされていた。差別や偏見を受けた人は約8割に上り、B型肝炎感染による生活への影響の大きさが浮かんだ。
原告の被害実態調査は弁護団や研究者も含めて初めて。
回答者の病態は、肝がん・肝硬変62人(21%)▽慢性肝炎165人(56%)▽未発症者(キャリアー)55人(19%)▽死亡(遺族回答)11人(4%)▽無回答4人(1%)。集団予防接種を証明できる母子手帳を持っていたのは47%だった。
現在の健康状態を択一方式で聞いたところ「治療最優先の生活」が16%、「疲労や倦怠(けんたい)感が強く日常生活がつらい」が21%。自覚症状がなくても「無理をしないなど体調管理に気を使っている」とした原告も46%おり、「問題ない」は3%にとどまった。
昨年1年間の医療費の自己負担は10万~20万円が最も多く、手術などで100万円以上かかった原告も5人いた。全体の37%は「家計が圧迫され支払いが苦しい」と答え、「家計が苦しいほどではないが、家族に迷惑をかけていると感じる」の48%と合わせると、8割以上が医療費を負担に感じていた。
発病や感染による生活への影響では、32%が退職・転職を経験。「仕事、進学、結婚などであきらめた夢がある」とした人は34%、「出産をあきらめた」も8%いた。
3分の2以上の68%は「親、配偶者、子らに負い目を感じる」と答えた。
差別や偏見を受けた経験があると答えたのは79%。場面は医療機関が最多の48%で、職場(37%)、マスコミ報道(24%)、家族・親族(23%)と続く。「国に必ず実現してほしいこと」を選択肢から複数回答してもらったところ、「被害者への金銭補償」と「治療や検査の経済的負担軽減」は9割以上、「被害者への謝罪」や「薬害や予防接種被害の再発防止徹底」は7割以上が望んでいた。【久野華代】
【ことば】B型肝炎
厚生労働省によると、国内の感染者数は推計110万~140万人。C型肝炎と比べて感染力が強く、主に幼少時に感染すると持続的にウイルスを保有するキャリアーになる可能性がある。このうち10~15%が慢性肝炎を発症し、肝硬変や肝がんに進行する恐れもある。集団予防接種が原因だと証明可能な感染者を、国は約47万人と見積もり、国の和解案で救済に必要な総額は今後30年間で約2兆円と主張している。
http://mainichi.jp/select/science/news/20101023k0000m040138000c.html
B型肝炎訴訟:未発症も被害深刻 毎日新聞調査
B型肝炎訴訟の原告を対象に毎日新聞が初めて実施したアンケートで浮かんだことの一つは、医療機関にかかることが少ないため実態が見えにくかった未発症者(キャリアー)の被害だ。国は原告側との和解協議でキャリアーには和解金を支払わない方針を示しているが、調査では6割以上が医療費の経済的負担を感じ、差別や偏見を経験した人も多い。専門家からは「発症していなくても、感染したこと自体の被害を考慮すべきだ」との声が出ている。【久野華代】
◇感染負い目 精神的に苦痛
「就職、結婚、出産など人生のあらゆる節目でこの問題(感染の事実)がのしかかり、これから先も向かい合っていかなくてはならない」。福岡訴訟原告のキャリアーの30歳女性は訴える。広島訴訟の50代男性は「いつ発症するかという不安が付きまとい、精神的に相当きつい。この点を理解してほしい」との声を寄せた。
国内に100万人以上とも言われるキャリアーの扱いは、和解協議の大きな焦点だ。原告側は薬害C型肝炎と同水準の1人1200万円の和解金を求めているが、国側は接種から20年以上経過したキャリアーには損害賠償請求権がないと主張。「将来、肝炎などを発症する割合は相当程度低い」とも指摘し、キャリアーの段階では検査費助成などの支援にとどめ、発症すれば和解金を支払うとの姿勢を示している。
しかし、アンケートでは約9割が定期的な血液検査に通い、医療費の負担は「家計を圧迫して苦しい」と「家族に迷惑を掛けていると感じる」を合わせると64%に上る。健康状態でも73%は「体調管理に気を使っている」と答えており、常に不安を抱えた状態であることが分かる。
さらに深刻なのは、生活面の影響だ。「家族らに負い目を感じる」とした人は73%に達し、発症者より割合が高い。「夢を断念した」「性格が内向的になった」も20%以上いた。
差別・偏見を受けたことが「ない」と答えたキャリアーは9%。発症者は10%台で、社会的な損害は発症者と同程度か、それ以上に感じているようだ。東日本の40代女性は「差別が怖くて、家族以外には感染を知らせていない」と明かした。
薬害問題に詳しい片平洌彦(きよひこ)・新潟医療福祉大特任教授(保健学)は「発症の有無以前に『感染した』という事実が原告の人生に大きな影を及ぼしていることが推察される。和解協議は感染被害者の身体的・精神的・経済的・社会的被害を十分考慮に入れて進めるべきだ」と話している。
◇和解費用 当初3年「年間1600億円」
厚生労働省は22日、和解に必要な予算総額が今後30年間で約2兆円に上るとした推計の根拠を発表し、資料を札幌地裁に提出した。和解金の支払いが集中する当初3年間は毎年約1600億円の財政負担を想定、その後は500億円程度まで減少するとしている。
同省によると、予防接種の注射痕があるなど国が提案する方法で被害を証明できる患者は、死亡が約5000人▽肝がん、肝硬変、慢性肝炎の発症者が計約2万8000人▽キャリアーが約44万人。患者の病態に応じ発症者らに支払う和解金(500万~2500万円)の総額が約1.5兆円、キャリアーへの検査費などが約5000億円に上るとした。
全国の発症者は同省の患者調査に基づき約7万人、キャリアーは日本赤十字の献血データなどから約100万~130万人と推計。このうち、注射器が連続使用された48~88年に満6歳以下で、母子感染者(世代ごとにゼロ~8割と仮定)を除くなどして予防接種による感染者数を算出した。
原告・弁護団は厚労省で同日会見し「キャリアーの多くは自分の感染に気づいておらず、実際に提訴できる人はそれほど多くない」などと指摘、2兆円の推計は過大だと訴えた。
◇保険加入困難、恋愛、結婚を断念…
アンケートの自由記述欄では、これまで注目されなかった被害の訴えも相次いだ。多かったのは「生命保険の加入が難しい」との声で、東京訴訟の30代女性は「加入できても保険料の割り増しや条件付きの契約になってしまう」。一家を支える札幌訴訟の50代男性は「保険に入れないので自分が死んだ時は家族の生活費を補償してほしい」と要望した。
つらいと感じるのは自身の健康問題に限らない。札幌訴訟の60代男性は「親族が緊急に輸血を必要としても手助けできない。臓器提供の意思があってもできない」。遺族として福岡訴訟に参加した原告は「48歳の若さで夫を亡くした母がショックでうつ病になり、家族がバラバラになってしまった」と嘆く。福岡訴訟の別の40代女性は、友人の反応に過敏になり、パニック障害を発症したという。
また、女性原告からは、子供に母子間感染させてしまった後悔も寄せられた。「息子は交際相手に肝炎を告げるのが苦で恋愛も結婚もあきらめた」(60代女性)、「子供が成長過程で発症し、母子心中まで考えた」(別の60代女性)。西日本の50代女性は「子供が偏見を受けず、充実した治療体制が確立されないと死んでも死にきれない」と訴える。「『性交渉で感染したんでしょ?』と誤解されるのが悔しい」と語る40代の原告も。
政府が和解金などの費用を総額2兆円と試算し増税をちらつかせるのを、原告の多くは国の責任転嫁と受け止める。広島訴訟の60代女性は「差別を助長していて許し難い」と非難した。【佐々木洋】
http://mainichi.jp/select/science/news/20101023k0000e040001000c.html
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B型肝炎訴訟:原告の4割「医療費重荷」 毎日新聞調査
B型肝炎訴訟の原告を対象に実施したアンケート
集団予防接種の注射器使い回しが原因でB型肝炎に感染させられたとして、全国で511人が国を訴えているB型肝炎訴訟で、毎日新聞は9月中旬~10月上旬、弁護団を通じて全原告を対象にアンケートを実施した。約6割に当たる297人が回答を寄せ、その4割近くが医療費支払いについて経済的に苦しいと感じ、3割以上は感染や発病が原因で退職・転職を余儀なくされていた。差別や偏見を受けた人は約8割に上り、B型肝炎感染による生活への影響の大きさが浮かんだ。
原告の被害実態調査は弁護団や研究者も含めて初めて。
回答者の病態は、肝がん・肝硬変62人(21%)▽慢性肝炎165人(56%)▽未発症者(キャリアー)55人(19%)▽死亡(遺族回答)11人(4%)▽無回答4人(1%)。集団予防接種を証明できる母子手帳を持っていたのは47%だった。
現在の健康状態を択一方式で聞いたところ「治療最優先の生活」が16%、「疲労や倦怠(けんたい)感が強く日常生活がつらい」が21%。自覚症状がなくても「無理をしないなど体調管理に気を使っている」とした原告も46%おり、「問題ない」は3%にとどまった。
昨年1年間の医療費の自己負担は10万~20万円が最も多く、手術などで100万円以上かかった原告も5人いた。全体の37%は「家計が圧迫され支払いが苦しい」と答え、「家計が苦しいほどではないが、家族に迷惑をかけていると感じる」の48%と合わせると、8割以上が医療費を負担に感じていた。
発病や感染による生活への影響では、32%が退職・転職を経験。「仕事、進学、結婚などであきらめた夢がある」とした人は34%、「出産をあきらめた」も8%いた。
3分の2以上の68%は「親、配偶者、子らに負い目を感じる」と答えた。
差別や偏見を受けた経験があると答えたのは79%。場面は医療機関が最多の48%で、職場(37%)、マスコミ報道(24%)、家族・親族(23%)と続く。「国に必ず実現してほしいこと」を選択肢から複数回答してもらったところ、「被害者への金銭補償」と「治療や検査の経済的負担軽減」は9割以上、「被害者への謝罪」や「薬害や予防接種被害の再発防止徹底」は7割以上が望んでいた。【久野華代】
【ことば】B型肝炎
厚生労働省によると、国内の感染者数は推計110万~140万人。C型肝炎と比べて感染力が強く、主に幼少時に感染すると持続的にウイルスを保有するキャリアーになる可能性がある。このうち10~15%が慢性肝炎を発症し、肝硬変や肝がんに進行する恐れもある。集団予防接種が原因だと証明可能な感染者を、国は約47万人と見積もり、国の和解案で救済に必要な総額は今後30年間で約2兆円と主張している。
http://mainichi.jp/select/science/news/20101023k0000m040138000c.html
B型肝炎訴訟:未発症も被害深刻 毎日新聞調査
B型肝炎訴訟の原告を対象に毎日新聞が初めて実施したアンケートで浮かんだことの一つは、医療機関にかかることが少ないため実態が見えにくかった未発症者(キャリアー)の被害だ。国は原告側との和解協議でキャリアーには和解金を支払わない方針を示しているが、調査では6割以上が医療費の経済的負担を感じ、差別や偏見を経験した人も多い。専門家からは「発症していなくても、感染したこと自体の被害を考慮すべきだ」との声が出ている。【久野華代】
◇感染負い目 精神的に苦痛
「就職、結婚、出産など人生のあらゆる節目でこの問題(感染の事実)がのしかかり、これから先も向かい合っていかなくてはならない」。福岡訴訟原告のキャリアーの30歳女性は訴える。広島訴訟の50代男性は「いつ発症するかという不安が付きまとい、精神的に相当きつい。この点を理解してほしい」との声を寄せた。
国内に100万人以上とも言われるキャリアーの扱いは、和解協議の大きな焦点だ。原告側は薬害C型肝炎と同水準の1人1200万円の和解金を求めているが、国側は接種から20年以上経過したキャリアーには損害賠償請求権がないと主張。「将来、肝炎などを発症する割合は相当程度低い」とも指摘し、キャリアーの段階では検査費助成などの支援にとどめ、発症すれば和解金を支払うとの姿勢を示している。
しかし、アンケートでは約9割が定期的な血液検査に通い、医療費の負担は「家計を圧迫して苦しい」と「家族に迷惑を掛けていると感じる」を合わせると64%に上る。健康状態でも73%は「体調管理に気を使っている」と答えており、常に不安を抱えた状態であることが分かる。
さらに深刻なのは、生活面の影響だ。「家族らに負い目を感じる」とした人は73%に達し、発症者より割合が高い。「夢を断念した」「性格が内向的になった」も20%以上いた。
差別・偏見を受けたことが「ない」と答えたキャリアーは9%。発症者は10%台で、社会的な損害は発症者と同程度か、それ以上に感じているようだ。東日本の40代女性は「差別が怖くて、家族以外には感染を知らせていない」と明かした。
薬害問題に詳しい片平洌彦(きよひこ)・新潟医療福祉大特任教授(保健学)は「発症の有無以前に『感染した』という事実が原告の人生に大きな影を及ぼしていることが推察される。和解協議は感染被害者の身体的・精神的・経済的・社会的被害を十分考慮に入れて進めるべきだ」と話している。
◇和解費用 当初3年「年間1600億円」
厚生労働省は22日、和解に必要な予算総額が今後30年間で約2兆円に上るとした推計の根拠を発表し、資料を札幌地裁に提出した。和解金の支払いが集中する当初3年間は毎年約1600億円の財政負担を想定、その後は500億円程度まで減少するとしている。
同省によると、予防接種の注射痕があるなど国が提案する方法で被害を証明できる患者は、死亡が約5000人▽肝がん、肝硬変、慢性肝炎の発症者が計約2万8000人▽キャリアーが約44万人。患者の病態に応じ発症者らに支払う和解金(500万~2500万円)の総額が約1.5兆円、キャリアーへの検査費などが約5000億円に上るとした。
全国の発症者は同省の患者調査に基づき約7万人、キャリアーは日本赤十字の献血データなどから約100万~130万人と推計。このうち、注射器が連続使用された48~88年に満6歳以下で、母子感染者(世代ごとにゼロ~8割と仮定)を除くなどして予防接種による感染者数を算出した。
原告・弁護団は厚労省で同日会見し「キャリアーの多くは自分の感染に気づいておらず、実際に提訴できる人はそれほど多くない」などと指摘、2兆円の推計は過大だと訴えた。
◇保険加入困難、恋愛、結婚を断念…
アンケートの自由記述欄では、これまで注目されなかった被害の訴えも相次いだ。多かったのは「生命保険の加入が難しい」との声で、東京訴訟の30代女性は「加入できても保険料の割り増しや条件付きの契約になってしまう」。一家を支える札幌訴訟の50代男性は「保険に入れないので自分が死んだ時は家族の生活費を補償してほしい」と要望した。
つらいと感じるのは自身の健康問題に限らない。札幌訴訟の60代男性は「親族が緊急に輸血を必要としても手助けできない。臓器提供の意思があってもできない」。遺族として福岡訴訟に参加した原告は「48歳の若さで夫を亡くした母がショックでうつ病になり、家族がバラバラになってしまった」と嘆く。福岡訴訟の別の40代女性は、友人の反応に過敏になり、パニック障害を発症したという。
また、女性原告からは、子供に母子間感染させてしまった後悔も寄せられた。「息子は交際相手に肝炎を告げるのが苦で恋愛も結婚もあきらめた」(60代女性)、「子供が成長過程で発症し、母子心中まで考えた」(別の60代女性)。西日本の50代女性は「子供が偏見を受けず、充実した治療体制が確立されないと死んでも死にきれない」と訴える。「『性交渉で感染したんでしょ?』と誤解されるのが悔しい」と語る40代の原告も。
政府が和解金などの費用を総額2兆円と試算し増税をちらつかせるのを、原告の多くは国の責任転嫁と受け止める。広島訴訟の60代女性は「差別を助長していて許し難い」と非難した。【佐々木洋】
http://mainichi.jp/select/science/news/20101023k0000e040001000c.html