「自由だね~」ライン受け取り「自由だね~」と返すほかなき私の自由
仕事を六時半に仕舞っていつもの床屋へ行ってきた。
何もかも捨てて東京に戻ってから
通っていた床屋さんが店じまいするって
いうんで紹介された床屋さん。
故郷へ帰るそのマスターはぼくに
この床屋さんを紹介しながら
涙を浮かべていたのを思い出す。
ふた月に一度の一時間でも人間関係はできるんだな。
いまの床屋さんには二十年くらい通っている。
わが人生の沈み沈み(浮き沈みではない)を
語ってきたがマスターがぼくより
三つ年上だと今日知った。
東京に戻ってからの30年近いわが道程の
ほとんどをマスターは知っているのに
不思議なものだ。
主役でも脇役でも冠婚葬祭といえば床屋
今度デートをするといえば床屋
短歌の会で話をするといえば床屋
ひとりになったといえば床屋
だったからだろうな。
最近の出来事をネタのように話すぼくに
「いやぁ信じられない人生ですね・・」
とマスターは言った。散髪が終わって、
「年内にあと一度は来るかな」と言って
店を出るぼくの背中に触れて「元気出して」と
マスターは言った。
思えばマスターの苗字も知らないわ。
今度、苗字くらいは訊いてみよう。