オペその弐

2007-12-22 12:11:47 | Weblog
手術室は近代的なローマ帝国の風呂のような所だった。

床や天井も含めてすべて白っぽいタイル張りで、
天井の中央から歯科医院にあるようなライトのデカイのが
多頭系恐竜の頭のようにこちらを睨んでいた。

私への作業は一段落したようであり、軽部は結子に軽口を叩き始めた。

『ここんとこオペが多くてさぁ、、先週なんか3っつだぜ、みっつ』
『ひゃぁ~、大変ですねぇ、、』
『まぁ、でかいのは無いんだけどね、、参るよねぇ、神経がさぁ』

私の感じでは既にもう一時間は過ぎており、
どうも麻酔が少し切れてきたようで、メスの当たっている部分がジンジンするようになってきていた。

思い切って『あの~~、、ちっと痛いです、、』と言うと、
『あ、ごめんね、、ちょっと追加するね』と軽部は少し麻酔の注射を打った。

『もうだいたい終わりましたからねぇ、、あと縫いますねぇ』と結子は私に声をかけ、
私はジンワリとかいていた汗がすぅ~っと毛穴に戻っていくような感覚を覚えた。


『あ、じょうーずじょーず、、上手いじゃない、、ま、俺ほどじゃないけど』と軽部は甘ったるい声を出し、
『そうそう、、いいよ、、血管だけは縫わないでね』と付け加えた。

どうやら私の切開部分は結子が針と糸で縫い合わせているようだ。




『終わりましたよ、、お疲れ様でした』

青いビニールシートをはがされ、施術部分に目をやると、
サロンパス大の防水シートのようなモノが貼ってあり、傷口を見ることはできなかった。

手首の周りの手術台には大して血も無く、
私が『あ、どうもありがとうございました』と礼を言い
軽部が『手先が冷たくないですか?』と訊き『大丈夫です』と応えると
『よかった、、たまに血液の循環が悪くなって指が冷たくなる方がいらっしゃるもんで、、』とやわらかく笑った。

私も少し笑い結子を見ると、
彼女は私を見ているのだろうが瞳孔が完全に開いてしまっており、
まるで私を通り抜けた遠くの何かを見つめているかのようであった。

私にとって手術が生まれて初体験であったように、
どうやら彼女にとっても、人の体にメスを入れることはまだ熟れないことであったのかもしれない。


再びストレッチャーに乗せられた私は、
今度は頭のほうを先頭にし、
時々他の入院患者の哀れむような目に曝されながら、
カラカラカラカラと、
病院の細長い清潔と無機質と無感動の水路のような廊下を
私の猥雑な有機体である病室に向かった。


こうして私は、約一時間半の旅を終えた。




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