陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

蜂は汚れながらも花蜜を得る

2023-09-27 | 仕事・雇用・会社・労働衛生

哲学者にして数学者であるルネ・デカルトは、天井に這う蠅の飛びすさぶ様を見て、放物線上の二次関数を思いついたという。同じく、アイザック・ニュートンに万有引力のヒントを与えたのは、落ちるりんごだった。

これらの逸話は、人間にある日、ふとひらめきが訪れる、真理の扉が開かれる瞬間がかならずあり、その日のために、ある問題をつねに考え続ける忍耐を説いたものだ。

夏あたりから自身の体調不良もあってか、かなりのメンタル不全。
しかも、前年来から準備、準備といいながら一向に進まなかったインボイス対策や、電子帳簿保存法の対応へもカウントダウンがはじまった。インボイスは来月からだが、電帳法は正式な適用が2024年1月へと延長されたものの、年末調整の時期と重なるので、秋口から準備するに越したことはない。

経理としては戦々恐々なのである。
本を買って調べはしたが、わが社の事情に合うのかわからない。これはわが個人事業上も同様だ。

くわえて、社内にはDXに関する知識の蓄積が乏しい。
IT管理者の上司も兼任であるから本業で忙しく、実質、私一人が調査せねばならないこともある。幸い、Excelでの索引簿やら、事務処理規程の作成やら、法律まわりの整備は私の得意分野なこともあって、逆に一手に引き受けらえるのは楽と言えば楽なのだが。

昨年に会計システムの営業マンが来社し、請求や支払業務、はては給与計算が楽になりそうなクラウドシステムを提案されはしたが。わが社の規模からいっても、高額なIT投資をするのには及び腰なのだ。

なので、電帳法対応にしても、得意先が請求書やら領収書やらの電子データを求めらられても。
まず紙で出力したものをスキャンしてPDF化し、メール送付という段階を踏む。郵送代も封入作業もかからず、不達なのでFAXで送ってという督促もないのかもしれない。領収書ならば請求額10万越えに貼る印紙税すらかからない。

だが、そのためには電子データにタイムスタンプが必要で。
そして、このタイムスタンプ付与できる時刻認証業務認定事業者(TSA)との契約が必要で、もちろん有料で。あるいはPDFには別途メールのパスワードが必要で。…といったごたごたしたハードルが重なり、どうにも、自分には手に負えないように感じていたのだった。

ところが、先般、数日がかりでウェブ検索した結果。
どうやら無料にてPDFにタイムスタンプ付与できる方法があり、試してみたところ、見事に成功! やってみれば大したことはない電子署名。

これで、来月から電子データ化した請求書送付の得意先にも対応できることと相成った。
得意先にせよ、仕入先にせよ、お金のやり取りは互いの信頼関係あってこそ。定められた方法をねじまげたり、期限をすぎてしまえば、今後の取引にも影響しかねない。

だからこそ、ここ数箇月は経理責任者としては非常に胃の痛い日々だった。
だが、なんとはなしに試してみた方法がうまくいったわけだ。このきっかけになったのは、実はたまたま図書館で借りたPC関連の雑誌からで。PDFもフリーソフトを使えば編集可能、しかも電子印鑑も無料で使えるサービスがあるという情報だった。

結果としては、その紹介ではない方法で成功したのだが。
今回の事態で気づいたことは、答えがなかなか出ない問題でも諦めずに考えること、すこしづつでもいいので思考の形跡を記録していくことだった。それまではトライアンドエラーの連続だった。この問題、ほぼ一年は考え続けていたのだ。

ここ数日の業務ノートは調べたことだらけで字がぎっしり。
業務用パソコンも、情報源サイトのPDFやスクリーンショットの蓄積でいっぱいになった。こうした情報を残しておかないと、自分になにかあったときに、会社が困るからだ。情報を個人の属性にして囲い込み、自分に聞かねば業務が回らないように権力者ぶる人間というのは、たいがい会社にいると厄介な存在で、組織はその人物の能力以上には絶対に成長しない。人材の新陳代謝ができていない古い会社によくいる、パソコンがろくすっぽ扱えないので手書きを重んじる、長時間労働すれば評価が高まると信じている管理職がまさにそれだ。害悪以外の何者でもない。

蜂は花粉にまみれながらも、甘い蜜を得る。
花のなかには危険な香りで虫を喰らう種もあるだろう。時には毒になるような花粉を放つ、葉っぱを食う青虫に寄生してそのからだを食い破り成長する生命体もあると聞く。そうした怖れを抱きつつも、虫は蜜を得るためには、花とみとめたものには邁進せねばならないのだ。

研究職ではなくとも、仕事上、先の見えない課題があり、その解決に向けた虚心坦懐に努力すべき姿は、まさにこの虫の生きざまに似てやいないだろうか。

経理総務という職種は会社の中枢にはいるが、裏方業務である。
従業員に感謝されることは薄く、高度な法務知識や経理作業を行っていても、理解されることは少ない。AIに尋ねたら済むことを、ちんたら調べていると思われているであろう。

そうであっても、こうした業務フローを新しく塗り替えるような瞬間にたちあえたことは、会社員冥利に尽きるのである。この瞬間のために、私は情報にあちこち首を突っ込んでは徒労をくりかえし、からだを動かしていないから働いていないかのように誤解まみれにされつつも、真理を手に入れたのだ。これは長年社内のあちこちの人間関係ばかりに気をとられて、単純作業の繰り返しをしている人にはわからぬ仕事の喜びだろう。


(2023/09/16)






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