陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「Each of Fields」 Act. 6

2006-09-08 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

なのはの前では強くてかっこいい自分でありたいフェイトだから、男の人におぶわれている姿を見られたら気まずいと思っていたのだ。JS事件の終局、スカリエッティのアジトで落盤からエリオに救われた一件も固く口止めしてある。

しかし、知らぬはフェイトばかりなりで。
事件後、愛機バルディッシュから戦闘データを採取した際に、エリオ少年がフェイトをしっかりお姫さま抱っこしている決定的瞬間の記録は、執務官補佐シャーリーによって大事に大事に保管され、ときおり、回覧されてもいる。なのはもそのひとりで、慌てふためくフェイトを観て、ほくそ笑んでいるのだ。

「とにかくだ、八年越しの恩返しを終えてほっとしたよ。今日は、高町のお父さんにも感謝しよう」
「そうだね。それに、ハラオウンのお父さんにも」
「俺の父さんにもか?」
「クライドさんがいなかったら、私にすてきなお兄ちゃんができなかったから。あの羽織り袴も似合ってた」
「おいおい。褒めすぎだぞ。照れるじゃないか」
「クロノだって、二児のパパなんだから。感謝されないとね」
「残念ながら、うちの嫁さんと双子に、感謝の文字はないな」

クロノは口に含んだワインの苦みを舌先で転がしながら、ちらりと妻の憩うテーブルへ視線を投げた。

「そんなことないよ。口には出してくれないだけで」
「わかってるさ。感謝をいちいち貰いたがる関係なんて、愛情じゃない」
「でも、我が子には、ありがとうを言えるすなおな子に育ってほしいよね?」
「そこが難しいな。父親ってのは、ありがとうが似合わない生き物なんだ。女子供は守ってあたりまえ、とせっつかれる」

父親をそんな枠組みに囲ってしまうのは、なんだか違う気がする。
だが、フェイトはその違和感をどう言いつくろってよいのかわからない。実母のプレシアは、そもそも父親どころか母親としての役目さえ果たさず、彼女にとっての「子」は試験管のなかにいた骸でしかなかった。使い魔であるリニスを養育者にして育ったフェイトには、異性の両親(ふたおや)揃っている家庭で育ったなのはのまっすぐさとの違いを見せつけられ、愕然とすることがある。

「ところで、カレルとリエラの授業はどうだった?」
「カレルのほうは、自分から手を挙げるほうじゃない。指名されると、渋い顔して答えるんだ」
「それ、クロノに似たんだよ」

おかしみを堪えたような笑いを滲ませて、口を緩ませるフェイトに、むっとしてクロノが反論する。

「俺は、あんなに引っ込み思案ではなかったぞ」
「似てるっていうのは、勉強してるのに、自分の手の内をあんまり明かさないところ。将来が楽しみだね」
「家のなかだと、カレルはやんちゃなんだがな。むしろ、リエルのほうが元気よく答えていたな。妹にお株を奪われてしまうとは、情けないな。ハラオウン家の長男は、どうもそのように生まれついたらしい」

そうだろ、と言わんばかりに冗談まかせの目配せを送るクロノに、フェイトがさもありなんの微笑を添えている。

「君となのはのおチビさんは、ご立派に発表なさっていたよ。これも、資質というべきかな」
「そう、よかった…。ヴィヴィオのいる教室ではお父さんが増えて、さぞや賑やかだったろうね」
「はやてのことは聞いていたが、まさか、三名も余分にいるなんて思わなかったぞ」

余分な三名とはだれだろうか。
いまは解散した旧機動六課なじみの、あの陸佐、そして操縦士、あるいは八神家の番犬なのである。

「ごめんね。はやてから、うっかりいろんな方面に伝わってしまったらしくて。でも、補欠扱いにするつもりはなかったんだ」

拝むように合わせた両手のひらの先を、唇にあてがうようにしながら、フェイトが媚びた笑いを浮かべた。




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