陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

植竹須美男原作の漫画『完全版 少女奇談まこら』(四巻まで)

2023-09-10 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

現在では百合作品の金字塔といわれるアニメ神無月の巫女。
その後継作のウェブノベル版も手がけた、シリーズ構成の脚本家・植竹須美男氏の芳名は、その作品を知る人ならば誰もが知っているはずです。なにせ「お陽さまはお月さまがあるから輝くことができる」「あなたが好きなの」の告白(通称ハァハァ斬り)などの名セリフは、彼なしにはもはや生まれえなかったでしょう。


(神無月の巫女旧版ブックレット第二巻より、原作介錯・神無月の巫女製作委員会)

神無月の巫女のブックレットでも紹介しましたが。
旧版全6巻のDVDブックレットにある巻頭の、千歌音と姫子の心情ポエム、さらには熱量の半端ない解説文。市販されはなしなかったが、公式同人誌扱いで出版された附録の外伝小説など。神無月の巫女ワールドを騙るうえで、氏の業績は計り知れないほど大きいと言わざるを得ません。

その植竹氏は、じつは百合作品以外でも、もちろんアニメやら特撮の脚本も手掛ければ、小説や漫画原作を引き受けたこともあります。2023年に逝去されましたが、遺作となったのは2022年あたりの参加作か。神無月の巫女コンビの柳沢テツヤ監督作のメジャー人気作「オリエント」の脚本も数話担当されていました。この「オリエント」の担当23話のあらすじに、巨大鬼神八岐大蛇ってあるんですが、もろ、神無月の巫女の世界観とかぶっていて、楽しいお仕事だったのではないでしょうか。原作付きでなくて、柳沢監督ともども、オリジナルでやりたかったアイデアだったように思われますね。

私が知っているのはアニメ「健全ロボダイミダラー」のペンギンが人間化して、ヒロイン役と恋をするほろにがい一話でしたね。

小説としては、神無月の巫女に続きアニメの構成担当だった「小説 京四郎と永遠の空―前奏曲―」が著名ですが。なんと、あの「アルスラーン戦記」で知られる田中芳樹原作の「薬師寺涼子の怪奇事件簿」シリーズも執筆されています。漫画版の「姫神の巫女」では出版社の都合だったのか、表面上、原作原案者としてクレジットされなかったのが、つくづく惜しまれますね。

さて、今回のレビュー漫画は、稀代の名脚本家・植竹氏が辣腕をふるった異色作『少女奇談まこら』。
植竹氏が、平野俊貴氏ともども共同脚本としてかかわった著名作です。アスキーメディアワークス社の「電撃ジャパン」誌面にて、偶数月号連載されたもの。
2007年頃にいったん刊行されたが廃版、その後、2011年に完全復刻として全6巻で完結された、ファン待望の話題作。私は4巻めまでしか入手できなかったので、途中までのレビューにします。ご勘弁を。


(『完全版 少女奇談まこら』第一巻あとがきより)

母と娘ふたりきりの、奇怪な屋敷で暮らす少女まこら。
ある日、母親が忽然と姿を消し、ゆくえを求めて、三匹の愉快なお供を連れて旅立ちます。母を訪ねて三千里+ゲゲゲの鬼太郎オマージュの妖怪ダークファンタジー。なんと、ライバル役ですが、猫娘もどきやら、ねずみ男まがいのうさんくさい商人まで登場。毎回、ねずみ野郎に買わされたアイテムをもとに、実の父親である妖怪皇(ようかいおう)の肉体の一部を集めていく、といったストーリー。このバラバラになったからだを集めるというのも、手塚治虫の「どろろ」の影響がみられますねよね。

お供の三人は、塗り壁がマスコットに、女だてらの一張羅、一反木綿のようなお調子者のマフラー。
まこらが不自然でないように、身にまとえる衣装になってくれるわけですね。このアイデアがおもしろい!

個人的に好きだった話は、第四巻の「夢華族」
大正ロマン漂う時代のとあるお邸の一家とその浮沈を見つめたメイドが関わるこの一話。ここの桜の樹をバックした詩趣あふれるシーンがなかなかお気に入りです。

四巻のラストでは、妖怪皇にまつわる七宝鈴をめぐって、複数名の暗躍する組織が動き出します。
最恐の西洋妖怪たち、魔女やら吸血鬼やらミイラ男やら。さしずめ水木しげるの妖怪に、藤子不二雄の怪物くんが対決したというべきか。さらに、まこらと同じく、妖怪皇の瞳を宿した謎の少年や、キーパーソンとされる少女の存在もほのめかされて、次巻では全面抗争の模様。でも、5巻6巻が入手できず、結末がわからずじまい。





作画担当の阿部洋一氏は、ヒロインはそこそこ可愛いのですけども、絵柄がかなり込み入っていってますね。白黒のメリハリが利く、泥くさい線が多くて画面が濃いめのタイプ。
ひと昔前の昭和ちっくな劇画ふう、この作画の好みは読者によってわかれるでしょうね。立体感がややあって私は好きな方ですが。でも、コマによっては描き込みが多すぎて、わかりづらい場面もありました。阿部氏は「血潜り林檎と金魚鉢男」という別作で文化庁メディア芸術祭推薦作品に選出された、気鋭の漫画家さんです。

植竹さんがご存命であれば、もっと氏の多くの作品が見られただろうにと思うと残念でなりません。
彼と関わった多くの創作者の方々がそう思われたことでしょう。ご冥福をお祈りいたします。アニメ業界は実に惜しい才能を失くしました。



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*漫画「絶対少女聖域アムネシアン」&ウェブノベル「姫神の巫女」、そのほか関連作レヴュー一覧*
漫画「絶対少女聖域アムネシアン」および、ウェブノベル&漫画「姫神の巫女」、そのほかの漫画などに関する記事です。


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