陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

保険屋さん、ご苦労様ですが…。

2016-11-08 | 仕事・雇用・会社・労働衛生
十月も終わりまして、寒くなりましたね。
秋口あたりに、諸々の勧誘が増えるのは何故なんでしょうね。ボーナスの査定に響くからか。

私は保険や金融商品についてはど素人でして、自分であまり新規に契約したことはありません。所有する家屋についてきた火災保険も、そのまま受け継いだものでした。ただし、掛けかえの検討や保険金の請求はしたことがありまして、そのたびに継続するかどうか迷ったのですが、毎年少なくない金額を払い込みしています。これは利益は少ないが、かなり安全な商品だと理解しているからです。

さて、このたび、私が親族に呼ばれて対応したのは、某有名生命保険会社の営業マン。営業といいましても、代理店の募集人だそう。その人が勧めたのは、養老保険で外貨建てタイプ。「いま、低金利ですから銀行で寝かせておいても、せいぜい利息は0.5パーセント。でも、この商品はですね、予定利率2.05パーセント! 外貨建てのなかでも信頼性のおける豪ドル建て。オーストラリアは資源国ですから、値上がりも期待できます」うんぬん、かんぬん。

さて、外貨建てといいますのは、もちろん為替相場に左右されますね。
円高のときに契約して保険料を払い込み、円安のときに受け取れば円換算で値上がりしていますからお得になります。これは小学生でもわかる理屈。でも、何が問題かといいまして、払込時よりも受取時のほうが円安になっているかなんて、誰も保障できないこと。FXのようなもので、素人には怖いったらありゃしない。

これに代理人として対応した私ですが、即座に「本日は契約いたしません。資料はお預かりしておきますが、本人も内容がよくわからず投資には興味がないと申し上げていますので…」とやんわりとお断り。募集人さんは、さっさと退散してくれました。

あとで資料をじっくり見聞してわかったのですが、このパンフレットの作りがじつにいやらしいのですね。モデルケースの一時給付金が十万近くあってかなり高額に見えるのですが、それはもともとの一括払いの保険料が大きいから。元本が大きければ、増える額が多いのは当たり前。個々人に合わせた設計書で確認すれば差が歴然で、これはあきらかに錯誤を狙ったものです。

養老保険といいますのは、生存時にある期間ごとに一時金(いわゆる年一括払いの年金)が受け取れ、かつ、万が一があった場合には死亡給付金が受け取れるもの。ふつうの掛け捨てタイプや定額保険でしたら、若年者ほど死亡リスクが低いので保険料が低め。しかし養老保険は、契約者の年齢差によって保険料はあまり変わらず、老後の資産形成にもお得だと謳われています。しかし、注意せねばならないのは、保険会社へ払う手数料。これが馬鹿にならない。予定利率よりもあきらかに高く、仮にモデルケースどおりの理想的な利益が出たとしても、手数料を差し引けば微々たるものです。運用次第では元本割れで、しかも外貨建てときたものですから円建て払いのときにはTTBで必ず目減りします。

死亡給付金のついた保険商品を売りつける時の常套文句が、「相続対策に有効です」という言葉。たしかに、500万円に相続人3人までの数を乗じた相続時の控除があります。同額を生前贈与にして贈与税がかかるよりも割りがいいように思えますが、今回の商品は目標額に到達すると自動的に、年金一括払いや死亡給付金の特約がなくなってしまうのです。けっきょく、ちょこっとだけ利息の増えた一時金払いの保険金を受け取ってしまい、しかも、そこには一時所得として、他の所得とあわせて総合課税されます。当然ですが、翌年には健康保険も住民税も上がりますよね? 国民健康保険の加入者で老齢基礎年金の受給者であれば、国保料控除後の年金の手取額も減ってしまいます。だったら、少ない利息であったとしても、もとのお金をただ銀行に寝かせておくか(とられるのは、せいぜい利子所得税で分離課税なので)、物価高になる前に必要なものを購入しておいたほうがお得になるわけです。外貨建て預金などの利子にはもちろん利子所得として課税されますが、為替差損益には雑所得として総合課税されます。

資料を深く確認したうえで以上の結論に至ったわけですが、私が即座にこの募集人さんにお帰りねがったのは、直感によるもの。この募集人さんは飛び込み営業でいきなり訪問してきたわけです。運悪いことに、私は忙しかったので対応に呼び出しされても、ついつい塩対応してしまいました。さらに、この募集人はひじょうに失礼なのですが、喫煙者でメタボ体形。ご自身のリスクマネジメントができない方が生命保険商品を売り歩くのは、滑稽としか言いようがありません。そして、五分説明されても、都合のいい数字しか誇張しなかったわけです。俺様がはるばるお宅にやってきてやったからには、契約してもらいまっせ、という強引さが透けてみえたわけですね。顧客の都合を考えない営業マンは、真摯にお付き合いするに足りない人です。

ちなみに、その某社は有名な国内大手の生命保険会社ですが、私が避けた合理的な根拠があります。ソルベンシーマージン比率の格付けが低かったこと。以前、新聞で死亡保険金の未請求で時効になった遺族からの申立てに対応しないと表明した会社でもありました。経営の危ない保険会社は、顧客の保険金を保障すべきはずの責任準備金まで取り崩しています。今回の商品のように、よくよく吟味すれば危ない投資商品を勧めてきたのも、相当余裕の無さを感じさせます。ただ、為替リスクなどについて設計書に具体的に明記してあったのは評価いたしますが、法的には当たり前のことなんですよね。
  
保険会社の営業マンを見分けるポイントは、契約を急かさないこと、商品説明を顧客が納得ゆくまで説明能力があることです。私は独学半年でファイナンシャル・プランナー技能士2級(この資格はさほど難易度が高くない)を取得しただけの者で保険や金融商品には疎いですが、金融機関などにも出向いていますので、なんとなく気配で近づいていいか悪いかは判ります。すぐれた保険の営業マンは、自社の商品のみならず、関連する経済業界の動向や税金や法律の知識も豊富ですし、つねによく勉強されています。もちろん、こちらは口八丁の営業に騙されぬように、彼らを上回るほど勉強しておかねばならない。

ちなみに中途半端な気持ちで資産運用に手を出すよりも、よほど効き目のある方法があります。それは家計の無駄を見直すこと、健康に気を遣って医療費をかけないこと、そして、年数万程度のちょっとぐらいの資産運用の利息をあてにするぐらないなら、高齢者であってもご自分で働くか、ご自身のお子樣がたから援助してもらうことです。「父(母)さん、こんな危なっかしい投資に手を出すくらないから、俺(あたし)が収入増やして小遣い仕送りするよ」と、子どもが言えるくらいに自立させていれば、働きざかりの人間がしっかりと日本の社会保障維持に努めていれば、日本の高齢者がオレオレ詐欺にあったり、実家を離れた子に相談できないまま胡散臭い金融商品に騙されて、虎の子の財産を奪われることもないでしょう。


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