陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「審判」

2015-10-08 | 映画───サスペンス・ホラー
フランツ・カフカの『審判』は一読したことがあるが、主人公が不条理な状態に置かれつづけたまま、事態が悪いほうへと転がりつづけ、なんとも後味の悪い結末を迎えてしまう、その意味不明さゆえに覚えていた作品だった。
その文学を、あの「市民ケーン」のオーソン・ウェルズが監督・脚本で映画化したのが、1963年のフランス映画「審判」
自身も、弁護士役で出演している。

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勤勉な青年ヨーゼフ・Kは、ある朝突然、検察官と刑事に逮捕されてしまう。身に覚えがまったくない彼には、罪状すら知らされない。
会社での行動まで監視され、密告されたと疑った同僚が逆に恐喝されている。予審の法廷では、見当違いな審問をされ、思わず飛び出してしまう。伯父からのつてで、有能だという弁護士を訪ねるが、彼の弁護には期待できなかった。最後の頼みに、裁判官のお気に入りという肖像画かへ執り成しを願うが、それも甲斐なし。
そして、最後には私服の警官に荒野へ連れて行かれて…。

不気味なオーラを放つオーソン・ウェルズ扮する弁護士の存在感がひときわ光っている。
主人公は絶体絶命の窮地に追い込まれ、裁判所で出会った一時的な甘いロマンスも、じつは女の戯れに利用されていたにすぎない。宗教ですらも自分を救ってくれない。破滅のラストだけが、そこにいたる道だけが自分につながり、問が開かれている。
なんとも暗く重い筋書きなのですが、光りと影の巧みで幻想的な演出、メリハリの利いた遠近感と人物の間合いが絶妙すぎて、魅せてられてしまう。

血も涙もでてくるわけではないが、ひたひたと押し寄せる主人公の恐怖が伝わってくる、なんとも背筋の寒くなる作品。
しかし、こういう審判は、誰にでも起こりうることなのかもしれない。
裁判心理劇とはいえ、「ニューオーリンズ・トライアル」「12人の優しい日本人」のように、ただしい判決が下されるわけではない。ただ、罪もなく罪を宣告された男の恐怖を描いているだけだが、こういう誰も味方がおらず追いこまれて行く状況は、20世紀特有の時代の閉塞感と社会からの疎外感を表現している。

主演は、「緑の館」のアンソニー・パーキンス。
いっけん優男ふうではるけれど、ヒッチコック監督作の「鳥」でも怪しい演技力を発揮した、存在感のある俳優。

(〇九年八月二十七日)

審判(1963) - goo 映画

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