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凶悪 ある死刑囚の告発

2012-07-22 18:03:32 | Weblog
『凶悪 ある死刑囚の告発』 「新潮45」編集部


以前かなり話題になった事件だから記憶を呼び起こそうとしたけれどよく思い出せない。たしかある死刑囚が表に出ていない他の犯罪について告発したような気が…。
本書を読むまで完全に忘れていた。

高裁で死刑を言い渡された元暴力団である後藤良次が「先生」と呼ばれる人間との共犯罪を告発する。どうせ死刑になるのなら全ての罪を償いたい、という気持ちと「先生」に裏切られた怒りでもある。
もちろん死刑執行を遅延する為でもあるのだが、そんなことよりもその告発が恐ろしい。

埼玉県にある広大な土地を所有する老人を拉致し、山奥で生き埋めにして殺害する。ホームレスを使って本人になりすまし、戸籍や印鑑証明書を偽造し土地を騙しとり大金をせしめたり、糖尿病を患っている「カーテン屋」に無理やり酒を飲む生活を続けさせて殺し、家族の同意も得て、保険金詐欺をし、大金を手に入れる。

この後藤という男は、一度怒り出すと誰にも止められない極悪人だったらしい。
ヤクザ世界でも有名であり、殴る蹴るの暴行は当たり前で殺人なんて日常茶飯事。人を殺すなんて屁でもないという人間なのである。
拉致した老人を山奥で生き埋めにするシーンは鳥肌を通り越し惨すぎる。

後藤の告発を受けた雑誌記者が、その裏づけ調査を丹念に行い、告発が真実に近い事を確信し驚きの事実を明らかにしたである。
膨大かつ困難な調査を何百日も調べ上げる記者の努力は、はかり知れない。
もはや大スクープという意識はなく、恐ろしすぎる残虐な犯行を同じ人間が行い、悠々自適な暮らしをしている「先生」に対する憤りを通りを超えた感情と後藤の深い謝罪心から著者も動かされたに違いない。

しかしこの後藤という死刑囚。
死刑という判決を真摯に受け止め、自分の存在がなくなる前に全ての罪を償いたいのは理解できる。本書を読む限りその誠実さが強く伝わってくる。
だがどうだろう?
もし後藤に無期懲役の判決がでていたら他の罪を告発しただろうか?
先生と共犯した闇に葬られた犯罪を告発したせいで、死刑判決が下るかもしれないリスクを背負ってまで告発しただろうか? 疑問が残る。

しかし本当に大変な内容だ。
完全なノンフィクションと考えるとぞっとする。

闇に葬られている多くの犯罪に目を向けることで、どんな厳しい法治国家でも完全犯罪は余裕で実行できるという事実と、それを商売と考える人間たち、犯罪リーダーを「先生」と呼ぶ輩たち、いったいどれだけの悪人が登場すれば気が済むのだろう、と思うと情けなくて涙が出る。そして全ての根底にあるのは、金だけという虚しい事実。

読み終わってSo What?と感じる人にはお勧めしません。本書で得るものは何もありませんよ。得る必要などないのだから。
だが、今この瞬間でも闇の犯罪が生まれているということ、そして一歩間違えば自分も巻き込まれる覚悟を意識して欲しい。


いやぁ~恐ろしすぎる。
「事実は小説より奇なり」って本当だね。





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