『ゴールドラッシュ』 柳美里著
著者は四季を描くのが本当にうまい。
特に彼女の描く夏は、生々しくてムっとするような暑さが、肌で感じられるから好き。
とはいっても、バスルームで半身浴しながら読むとかなりキツイけど…。
眩しい陽光と緑の煌きは美しく映え、蝉の合唱が鼓膜を揺らす、生と性に満ち満ちた夏。
けれど、太陽の光が強すぎるほど眩暈を起こす人は増え、影と光のコントラストは強くなってゆく。
人が犯罪を起こす動機の核の背景にはかならず季節が潜んでいる。
金銭面に貧困な人が、懐が寒い、などと表現するように、行動する時点での気温が体温に大きな影響をあたえるのは確かかも。
物語は、少年が父親を殺害する話。
主人公は、十四才の中学生の少年。
父親はパチンコ大手チェーン店のワンマン・オーナー。
兄はウィリアムズ症候群と呼ばれる遺伝病。
姉は高校には行かず、遊び歩いている毎日。
母親は、父親の拝金主義的な生き方に嫌悪感を募らせ(兄の病気が回復しないのを父親のせいだとし)家を出て新興宗教の信者になっている。
まぁこの時点で、典型的な問題児が発生する一家だ。
父親の期待は、この少年に一身に担わされているのだが、少年自体も、不登校であり、連日のようにパチンコ店の本店がある横浜、黄金町界隈をフラフラとしている。
少年の周辺の友達も、少年からもらう金で遊んでいる仲間たちとレイプ事件を起こしたり、覚醒剤を使って遊んでいる。
父親はそんな少年に跡継ぎとしての帝王教育をするとして、パチンコ店への
出入りを許し、従業員たちにも少年に経営者として接するように命じている。
しかもこの父親は、かなり暴力的であり、誰に対しても抑圧的である。
ある晩、姉が帰宅した深夜、酔った父親は、この姉に対して酷い暴力を振るう。
少年は、表面的には父親に対して従順を装っているが、次第に殺意が膨れていく。
そして、ある晩、少年は父親を殺す。
小説は、父親を殺した少年の生活、行動、心理を丹念に追い、その少年を巡る様々な人々の生活、行動、心理を丹念に描いていく。
著者得意の崩壊する家庭の人間模様と問われる「個」が主題。
本書は、なぜ人を殺してはいけないのか?ということだけに、重点を置いている訳ではない。
いったい、なぜ少年が父親を殺したのか? なぜ少年は自首をしようと考えたのか?という少年の葛藤ついて、十分に考え決着をつけている。
しかし少年の事情がそのような行為をさせたこと以外の解答を与えるわけではない。
人を殺してはいけないという解答を見つけるのは容易い。
命の重さは地球より重いから。小学校時代そう習ったはず。
だが頭では理解出来ていても、それでもなお、人は人を殺してしまうということに本書の意義が見受けられる。
少年が父を殺す、ことが重要なのではなく、少年が父を殺すまでの経緯と、少年が父を殺してから以降のことが重要なのだと考える。
そもそも主人公の少年は、黄金町の影に呑みこまれたのか?
それとも、夏の日差しに飲み込まれたのか?
いずれにしても、彼の感覚が麻痺し、影に落ちて行ったことは間違いないと思う。
著者は四季を描くのが本当にうまい。
特に彼女の描く夏は、生々しくてムっとするような暑さが、肌で感じられるから好き。
とはいっても、バスルームで半身浴しながら読むとかなりキツイけど…。
眩しい陽光と緑の煌きは美しく映え、蝉の合唱が鼓膜を揺らす、生と性に満ち満ちた夏。
けれど、太陽の光が強すぎるほど眩暈を起こす人は増え、影と光のコントラストは強くなってゆく。
人が犯罪を起こす動機の核の背景にはかならず季節が潜んでいる。
金銭面に貧困な人が、懐が寒い、などと表現するように、行動する時点での気温が体温に大きな影響をあたえるのは確かかも。
物語は、少年が父親を殺害する話。
主人公は、十四才の中学生の少年。
父親はパチンコ大手チェーン店のワンマン・オーナー。
兄はウィリアムズ症候群と呼ばれる遺伝病。
姉は高校には行かず、遊び歩いている毎日。
母親は、父親の拝金主義的な生き方に嫌悪感を募らせ(兄の病気が回復しないのを父親のせいだとし)家を出て新興宗教の信者になっている。
まぁこの時点で、典型的な問題児が発生する一家だ。
父親の期待は、この少年に一身に担わされているのだが、少年自体も、不登校であり、連日のようにパチンコ店の本店がある横浜、黄金町界隈をフラフラとしている。
少年の周辺の友達も、少年からもらう金で遊んでいる仲間たちとレイプ事件を起こしたり、覚醒剤を使って遊んでいる。
父親はそんな少年に跡継ぎとしての帝王教育をするとして、パチンコ店への
出入りを許し、従業員たちにも少年に経営者として接するように命じている。
しかもこの父親は、かなり暴力的であり、誰に対しても抑圧的である。
ある晩、姉が帰宅した深夜、酔った父親は、この姉に対して酷い暴力を振るう。
少年は、表面的には父親に対して従順を装っているが、次第に殺意が膨れていく。
そして、ある晩、少年は父親を殺す。
小説は、父親を殺した少年の生活、行動、心理を丹念に追い、その少年を巡る様々な人々の生活、行動、心理を丹念に描いていく。
著者得意の崩壊する家庭の人間模様と問われる「個」が主題。
本書は、なぜ人を殺してはいけないのか?ということだけに、重点を置いている訳ではない。
いったい、なぜ少年が父親を殺したのか? なぜ少年は自首をしようと考えたのか?という少年の葛藤ついて、十分に考え決着をつけている。
しかし少年の事情がそのような行為をさせたこと以外の解答を与えるわけではない。
人を殺してはいけないという解答を見つけるのは容易い。
命の重さは地球より重いから。小学校時代そう習ったはず。
だが頭では理解出来ていても、それでもなお、人は人を殺してしまうということに本書の意義が見受けられる。
少年が父を殺す、ことが重要なのではなく、少年が父を殺すまでの経緯と、少年が父を殺してから以降のことが重要なのだと考える。
そもそも主人公の少年は、黄金町の影に呑みこまれたのか?
それとも、夏の日差しに飲み込まれたのか?
いずれにしても、彼の感覚が麻痺し、影に落ちて行ったことは間違いないと思う。