店長スペシャル

人生は心に想い描いた通りになる。ゴールデンルールの道。

クレイジーヘブン

2009-08-22 16:36:30 | Weblog
『クレイジーヘヴン』 垣根涼介著


読始は、愉快な展開の連続でストーリーに引き込まれる。

主人公恭一は、中国人窃盗団に車上荒しをされ、犯人アジトアパートに復讐に乗り込む。
ただのサラリーマンの裏の顔が非常に怖く奇妙。
次第に本書にクギ付けになってゆく。

展開もスピーディで文章も読みやすいのにもかかわらず、なぜか後半からテンションが下がってゆく。
何故だろう?

たぶん、今までの作品と比べてあまりにも薄っぺらい内容だからかもしれない。


旅行会社に勤め、ありふれた日常への疑問を抱えて日々を送る坂脇恭一。
冴えない中年ヤクザと同棲し、美人局の片棒をかつぐ田所圭子。
ある時、圭子が恭一の同僚をカモろうとしたことから、二人は出会い絶望の底なし沼へと転がり堕ちていく。
揺れる心、立ち塞がる枠―やがて、境界線を跳び越えて走り出した二人が掴んだ自由とは。

と本書内容に書いてあったけど、二人が飛び越えた境界は実にくだらないものだったなぁ。
ていうか、後半は恋愛小説というよりも官能小説に近かった。

実際にこのような内容が著者の質を下げてしまったのかもしれない。
僕自身、著者の大ファンであるから、本書のような作品はちょっといただけなかった。残念。

おそらく、本書では、平凡なサラリーマンにおこる自己の崩壊・あるいは解放というようなことを書きたかったのだろうが、登場人物のキャラが非常に薄いから感情移入できず、作品に気持ちが入り込めなかった。
舞台装置を小さくして、登場人物の心情の変化に的を絞りたかったのかもしれないが、スケールの小ささのみが心に残った。

でもかなりエロいよ! 18禁作品なんだって。
読んでミソ? 興奮して眠れなくなるはず。

暗礁

2009-08-21 18:50:35 | Weblog
『暗礁』  黒川博行著


「疫病神」「国境」に続く、二宮・桑原コンビの第三弾。

この三作品はどの作品から読んでも抜群に面白い!絶対にハズレはない。

建設コンサルタントの二宮とヤクザの桑原が繰り広げる、関西弁ワールドなエンタメハードボイルド小説。

二宮の仕事は建設現場の前捌き。
要するにヤクザや右翼に工事が邪魔されないよう、前もって裏組織に渡りをつける仕事である。
関東はヤクザと癒着するのは少し縁遠い話かもしれないが、関西は今だ多いのだろう…。

本人は堅気だけど死んだ父親は元桑原の組織の幹部。
だから、ヤクザに対して口で張り合える免疫はなくもないのだが、結局は腕力なしのヘタレの二宮。

そのヘタレが、イケイケヤクザの桑原に弄られて、苛められて。
それでも生き延びるダイハードな物語である。

この二人のなんとも言えない会話がまるで漫才の様。
何十回笑わしてもらったことか。ハッハッハッ。腹筋がイタイ。

今回のストーリーは、その桑原から出来麻雀の代打ちで小遣い稼ぎの話が二宮に舞い込んできた。
卓に混じっていた警察官の贈収賄の事件に絡まり、放火事件に絡まり、工事現場で殺されそうになり、隠れていようと思ったら桑原に引き摺られて沖縄へ行く羽目に…。

とにかく二重にも三重にも面白い。

前回は、北朝鮮を冒険したコンビだが、今回は沖縄の冒険へ。
そこらへんの作者の展開や、絶妙なかたちでの観光地沖縄の描写の挿入が、読む者を飽きさせない。

特に沖縄の人々の独特な話し方が文体できちっと伝わってくる。
著者は全国の方言を全て理解している気がするなぁ。素晴らしい!

話の中心も佐川急便をモデルとしたもので、ノンフィクションとも思わせる現実感もある。
実際の事件はこれより何倍もひどいと思うけど…。


特にヤクザ桑原は一度逢ってみたい人物。
彼に近いヤ印沢山いらっしゃると思いますが…。

午前三時のルースター

2009-08-20 18:48:59 | Weblog
『午前三時のル―スター』  垣根涼介著


旅行代理店に勤務する主人公は、得意先の社長に孫のベトナム行きに付き添ってほしいという依頼を受ける。孫の本当の目的は、家族に内緒で、四年前に失踪した父親の消息を尋ねることだった。現地の娼婦や運転手と共に父親を探すのだが、一行を何者かが妨害する。最後に辿りついた切ない真実とは?

孫である15才の少年は、将来会社の跡取りとして今まで大事に育てられてきた。
父親はすでに死んでいると周囲から説得され続けてきたが、偶然みたTVで父親を見つける。

映像では身内の人が見てもわからないぐらいの映像を少年は堂々と父親と言いはる姿は立派だし、なんだかうれしい。

そしてベトナム行きを決意する裏にはもう一つの理由があった。
母は取引先の会社社長と見合いが進んでいる。父が祖父の後を継ぐはずだった会社の跡取りとして迎え入れる。

その事実をどうしても父に伝えたかった少年。
きっとこの大人びた少年はまっすぐな純粋でいい子なのだろうな。

物心ついた時から、勉学や礼儀作法を人一倍こなされ、“跡取り”と言われ続けた人間ってどんな気持ちなのだろう。

反発や反抗で親とはまったく違う人生を歩む人は多々いるが、決まったレールの上で自分独自のレールを作ることは、超ハードなことだと思う。

ベトナムで父から400万円の値打ちのある時計を譲り受けた。
どうしても家を出なければならない時にはこの時計を売って生計を立てろと。

帰国後、少年は橋の上からその時計を空高く投げ捨てる。
そして人生を決断する。

自分は決められた道の上を歩いて生きてゆくのだと。

なんか泣けてきた。

少し違和感を感じたのは、国民性という枠で括ってしまうのはナンセンスだろうけれど、運転手ビエンとガイド役メイの言動と感性がやはり日本人っぽい気がしてしまい、ベトナムを舞台としているストーリーだということを忘れてしまう時もあった。ベトナムに行ったこともなければベトナム人の国民性すら分からないがそう感じてしまったんだな。
ベトナム、サイゴン(ホーチミン)の土地の熱気や人の暮らし、現地住民の感情なんかをもっともっと感じたかった。
読後も“ベトナムに行って来た”と思えなかったんだよ。悔しい!

その他にも、ごく普通の旅行代理店に勤める主人公が一般人離れしたアクションで修羅場を切り抜けてゆくところに非現実を感じたし、この主人公そのものが一体どういった人生を歩み現在に至っているのかが全く説明不足。


であるからして、少年の視線でストーリを展開する方が良かったかも知れない。

これがデビュー作!
凄いね!

水辺のゆりかご

2009-08-11 19:22:57 | Weblog
『水辺のゆりかご』  柳美里著


在日韓国人の長女として生まれた柳美里さんの自伝的小説なのだけど、彼女の記憶力はすごい。
鮮明に覚えつつも客観的な物の見方や冷静な捉え方は感心してしまうほど。

以前に、クリントン元大統領の「マイ・ライフ」の記憶力を思い出してしまった。

在日の人がいかに日本を生き抜くことが大変なのか、本書で表している。

もっとも僕はそのような経験はないし、この先も絶対ないだろう。
だからこそ、彼女の辛い体験を理解することは出来ないが、自分が他人に対しての差別は絶対しないと、断言できる気にはなれる。

著者は、日本名では柳美里(やなぎ みさと)韓国名では(ユウ ミリ)。
どちらでも対応できるように両親が名付けたらしい。
この時点で苦悩を感じるし涙もでる。
そんな方が同じ日本で暮らしているだけで…。

名前は忘れたけど、エイズで亡くなったイギリスの黒人テニスプレイヤーの言葉を思い出した。

「エイズという病気に侵された事実よりも、黒人として生きて行くことの方がつらかった」

それほど人種差別が壮大なものなのだろう。
マイケルジャクソンだって、巨大な富を得ても、莫大な費用をかけて肌を白くしたからな。

著者は、幼いころから全然周りの人となじめない。
どうしても孤立してしまう。
次第にいじめの対象となり何度も死を考える。
両親との不和も重なる。

とても壮絶な人生なのに、クールに描いている姿は著者らしい。

環境よりもひたすら「人」と繋がろうとするその先鋭さが、人間関係に疲れた若者たちには訴えるところがあるのではなかろうか。

こんなシーンがある。
著者の叔父が日本人の富豪と結婚した。
叔父はひたすら在日韓国人を隠しづつける。
著者を含め身内には親切だが、自宅に遊びに招くと、ハングル語を一切禁止する。
近所にも聞こえないように頑なに注意する。

一方は日本で生活しやすい環境を作る。
一方は故郷の国の民族だと誇りに思い、他国で生活する。

どちらが正しいのか分からない。どちらも正解のような気もする。

経験・体験のない僕には想像すらできない。はたしてどうしようか?
答えを見つけられない僕は、読後、後味が悪く眠れなかった。

ただ、この作品で僕が一番感じたことは、著者は人の2倍生きている気がした。
同世代の彼女だけど、もうすでに60、70の年配者のような。

このままだと、彼女は早死にしてしまうのではないかな。
誰か彼女を助けて。

肩ごしの恋人

2009-08-02 18:46:52 | Weblog
『肩ごしの恋人』  唯川恵著


いろいろ複雑な気持ちになった。
なんだか読み終えてもすっきりしない。
頭の中がモヤモヤする。なぜだろう。

正反対の親友同士の話って結構苦手かもしれない。

相手のない部分をお互いに持ち合わせているから、互いに尊重し、仕事も恋愛も上手くいきまーす、みたいな話と本書は全然違う。

「萌」と「るり子」は、性格も恋愛に対しての姿勢も正反対な女性。
五才から付き合っている長い親友である。

るり子は、女性であるということを最大限に活かして世を渡る感じのタイプ。
自分は常に美人だと自称しており、他人からほっとかれるのが一番嫌い。

萌は、頼れるお姉さんタイプだが、仕事も恋にものめりこめないクールな思考を持っている。そして、優しいが故に、嫌な役目を誰が引き受けるのか?というような状況で、沈黙に耐えかねて自ら貧乏くじを引いてしまうようなところがある。

このるり子という女性が僕の中で完全に揺れていた。
揺れていたというのは中々イメージしづらかった。
女性の中で自分が一番だとか、プライドが高いだとか、ナルシスト的部分を往々にしてもつ女性が実は意外と心がありしっかりしているとは最後まで思えなかった。

崇という十五才の少年と暮らし始めるのだが、その少年に興味を抱くのは当然だが、朝食の食器を自分で片付けろ、などというセリフはちょっとしっくりこなかった。狙った獲物に対しては何でも言うこと聞きますよ、みたいな感じがしたのに…。

萌の性に対するピュアな気持ちは相当理解できる。セックスで人間関係を壊したくなく、彼女にとっては “たかがセックス” なのだ。
この理論は本書でどうぞ…。

二人の女性の生き方、考えが等身大で描かれ、彼女たちの決断、諦め、成長、決意が、とても潔く凛としている。

完璧な恋愛なんてないし、完璧な結婚生活なんてない。
大人になってもうまく恋愛はできないし、理想の人を追い求めるのだろう。
結婚と離婚は幸せになるための手段でもあり、人生を決める手段でもある。
だから恋愛も人生を決めるための岐路なんだ。

幸せのかたちは人それぞれであるが故に、自分だけの幸論を創り持ち続けている。


でも、ラストの萌の妊娠。
嬉しいようだけど、犯罪だよ君は!