店長スペシャル

人生は心に想い描いた通りになる。ゴールデンルールの道。

彷徨い人

2012-10-14 17:32:28 | Weblog
『彷徨い人』 天野節子著


著者は本当に天才作家だと思う。
人物描写はリアリティがあり文章や会話は読みやすいのに知的な文学性を感じるし、六十歳を超えた作家とは思えないほど作品が若々しい。

一語一句大切に読み進めていくと、文章から何かこう温かみが感じられ自分の体温がジリジリと上がってゆく感じ。これこそ文学だ、とミステリーなのに勉強させられる。そのうち東野圭吾を抜くでしょう。

犯人やトリックを最後の最後まで読手を混乱し続ける技術は天下一品。
ヒントはいたる所に転がっているがどれも正解ではない。
終始読手をひっぱらすワクワク感がたまらなく好き。

高級住宅地で起きたひき逃げ事件、そして旅行先で起きた失踪事件。全く別の場所と時間で起きた二つの事件のつながりが二人の刑事によって明かされる。 なぜ母親想いの人間が人を殺めたのか?
その犯罪の裏に隠された悲痛な犯人の動機とは?

登場人物が結構多い。ある男とその妻。義理の妹にその友達三人。入院中の母親に同室の患者。そして刑事が二人。事件のカギを握る人物だけでもざっと五、六人いる。それぞれの視点で描かれているが不思議と複雑感がない。むしろキャラ設定が、少ない文章の割には濃くはっきりとしている。

義理の妹と連絡が取れず不安になり夫が捜索願いを出すのだが、夫婦間に問題があると警察は相手にしない。毎年四万人の失踪者がいる六割は女性であり、異性関係が原因だと決めつけられる。納得がいかない夫の揺るぎない自信が、真相のカギを握っていたのだと思う。

不倫ならば義理の兄との関係だという思い込みが、頭から離れなかったから本書を楽しめたのだと思う。

人間関係がテーマというより、普段の日常で一歩間違えばいつでも登場人物になってしまうことを教えてくれている気がした。
妻の兄弟はあくまでも他人。義理がつく事だけで表面上の身内になるのは本来不自然なはず。それをぶち壊してくれるから気持ちいい。

義理の妹ってそんなに悪い奴なのかなぁ。一度会ってみたくなったのは事実。


以外に泥臭くなかったが、読後は心配で堪らなかった。
母親一つで大事に育てあげた息子が選んだ最期は、母も喜んでいると信じています。