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二十三、ルーム長は大忙し
「あっ、二人ともいいところに!」
冴えないジャージに着替え、『流しスーパーボール』とハデな看板を掲げる自分のクラスに帰った途端、いきなりクラスのリーダー的な人に捕まった。
確かこの人は、菊浮川茜さん。外見・言動・雰囲気共に『ザ・JK』な人だ。
正直、俺とは住む世界が…いや、住む宇宙が違う。
「人数足りなくてさ、困ってたんだ。助かる~!八坂さん、接客お願い!九条君は沢口と交代してあげてくれる?もうずーっと宣伝やってて…多分、二階の階段の近くにいるから!よろしくっ!」
一気に言い切って、菊浮川さんはまた人ごみに紛れた。
クラスをあまり手伝っていなくてやや後ろめたい俺は、早瀬に口パクで「また後で」と言うと、急いで人だらけの中に入り込んだ。
「おわん、どうぞ」
「終わった人はこっちにどうぞ!」
「すいません、もう時間で…」
「はい、これ景品でぇ~っす!」
「時間は一分間です。できるだけスーパーボールをキャッチしてくださいねぇ」
賑やかな中、俺はひたすらお客さんに景品の飴やらチョコやらゼリーやらを手渡していた。
キャッチしたスーパーボール一個につき、景品一個。富士山のようにお菓子を準備していたのを昨日俺は確かにこの目で見たはずなのだが、今や小学生が砂場に作った小山と化している。
この出し物、明らかに景品目当てで何度もやる人も少なくないようだ。
中にはダンスをした俺の顔を覚えていた人もいて、「あ、踊ってた!?めっちゃ上手かったよ!」と声をかけられた。
正直、俺は誉められるのが苦手だ。にこやかに「ありがとうございます」とか言えればかわいいんだろうが、結局赤くなって曖昧に笑って誤魔化してしまう。分かってはいるが進歩が無い。
「いくつ取れました?」
「二個ですね」
「景品はどれがいいですか?」
「レモンとイチゴとメロンです」
「ありがとうございました」
あくまで丁寧に、機械的にならないように。俺の手や口は仕事をしているのに、頭は次のETCの出し物、『同時異場面劇』のことでいっぱいだ。
ちょっと油断した俺の頬に、いきなり冷たくて湿った何かが押し付けられた。
「ひゃんっ!」
「あっはは!かっわい~!はい、これオゴリ。おれがこの仕事やっとくから、それ飲みなよ。あ、宣伝の方は、もういいってさ」
「むっ…ありがと」
いつのまにか、早瀬がとなりに立って俺にラムネを突きつけていた。
昔ながらの、でこぼこしたガラスビンにビーダマの栓がしてあるやつだ。これじゃあ怒るに怒れない。
「…ぷはっ、うま。これどこで買った?」
「あ~なんかどっかのクラスが縁日やっててさ。射的でもらったからタダ。」
「ああー、なるほど。」
俺は前から不思議なのだが、早瀬は射的ゲームが通常ありえないくらい上手い。だいたいあの手の安っぽいコルク銃は、腕前に関わらず、そもそも弾が真っ直ぐ飛ばなかったりするものだが。
前に近所の夏祭りに行った時、早瀬が一発の玉で二個の景品を取ったのを俺は見た。DSPという人気のポータブルゲーム機を取ったこともあるらしい。早瀬七不思議の一つ。
「弾をさ、銃口に力ずくで詰めるんだよ。それだけで全然違うよ?」
俺が射的のコツを訊くと、早瀬はそれだけ言った。
俺のほうは射的ゲームで何かを取れたことは一度も無いけどな。
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二十三、ルーム長は大忙し
「あっ、二人ともいいところに!」
冴えないジャージに着替え、『流しスーパーボール』とハデな看板を掲げる自分のクラスに帰った途端、いきなりクラスのリーダー的な人に捕まった。
確かこの人は、菊浮川茜さん。外見・言動・雰囲気共に『ザ・JK』な人だ。
正直、俺とは住む世界が…いや、住む宇宙が違う。
「人数足りなくてさ、困ってたんだ。助かる~!八坂さん、接客お願い!九条君は沢口と交代してあげてくれる?もうずーっと宣伝やってて…多分、二階の階段の近くにいるから!よろしくっ!」
一気に言い切って、菊浮川さんはまた人ごみに紛れた。
クラスをあまり手伝っていなくてやや後ろめたい俺は、早瀬に口パクで「また後で」と言うと、急いで人だらけの中に入り込んだ。
「おわん、どうぞ」
「終わった人はこっちにどうぞ!」
「すいません、もう時間で…」
「はい、これ景品でぇ~っす!」
「時間は一分間です。できるだけスーパーボールをキャッチしてくださいねぇ」
賑やかな中、俺はひたすらお客さんに景品の飴やらチョコやらゼリーやらを手渡していた。
キャッチしたスーパーボール一個につき、景品一個。富士山のようにお菓子を準備していたのを昨日俺は確かにこの目で見たはずなのだが、今や小学生が砂場に作った小山と化している。
この出し物、明らかに景品目当てで何度もやる人も少なくないようだ。
中にはダンスをした俺の顔を覚えていた人もいて、「あ、踊ってた!?めっちゃ上手かったよ!」と声をかけられた。
正直、俺は誉められるのが苦手だ。にこやかに「ありがとうございます」とか言えればかわいいんだろうが、結局赤くなって曖昧に笑って誤魔化してしまう。分かってはいるが進歩が無い。
「いくつ取れました?」
「二個ですね」
「景品はどれがいいですか?」
「レモンとイチゴとメロンです」
「ありがとうございました」
あくまで丁寧に、機械的にならないように。俺の手や口は仕事をしているのに、頭は次のETCの出し物、『同時異場面劇』のことでいっぱいだ。
ちょっと油断した俺の頬に、いきなり冷たくて湿った何かが押し付けられた。
「ひゃんっ!」
「あっはは!かっわい~!はい、これオゴリ。おれがこの仕事やっとくから、それ飲みなよ。あ、宣伝の方は、もういいってさ」
「むっ…ありがと」
いつのまにか、早瀬がとなりに立って俺にラムネを突きつけていた。
昔ながらの、でこぼこしたガラスビンにビーダマの栓がしてあるやつだ。これじゃあ怒るに怒れない。
「…ぷはっ、うま。これどこで買った?」
「あ~なんかどっかのクラスが縁日やっててさ。射的でもらったからタダ。」
「ああー、なるほど。」
俺は前から不思議なのだが、早瀬は射的ゲームが通常ありえないくらい上手い。だいたいあの手の安っぽいコルク銃は、腕前に関わらず、そもそも弾が真っ直ぐ飛ばなかったりするものだが。
前に近所の夏祭りに行った時、早瀬が一発の玉で二個の景品を取ったのを俺は見た。DSPという人気のポータブルゲーム機を取ったこともあるらしい。早瀬七不思議の一つ。
「弾をさ、銃口に力ずくで詰めるんだよ。それだけで全然違うよ?」
俺が射的のコツを訊くと、早瀬はそれだけ言った。
俺のほうは射的ゲームで何かを取れたことは一度も無いけどな。
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