【ツカナ制作所】きまぐれ日誌

ガラス・金工・樹脂アクセサリー作家です。絵も描いております。制作過程や日常の話、イベント告知等。

【連載】ETC、始動 ―36―

2016-05-09 21:19:16 | 【連載終了】ETC、始動
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「春一、お菓子、あとちょっとしか無いよ」

早瀬に言われて、俺はハッとした。

「あ~…ちょっと誰かに訊いてくる。あ、これ飲んでて」

「りょーかい。きゃっ、間接キッス!」

「お黙り」



菊浮川さんを見つけて駆け寄ると、どうやら俺の来た意味が分かったようだった。

「やっぱり無くなった?」

「うん。」

「ちっ…あぁんのばぁかたれがっ!

いかにも典型的模範的女子高校生な菊浮川さんの口から、予想外のセリフが飛び出してきた。

「へっ?」

「実はね、昨日男子の数人が景品だって言ってあったお菓子、つまみ食いしたらしいんだ。どうせ余るだろうから、とか言ってさ。案の定だよっ!あのクソガキども、磔にしてやるっ!

こ、恐い…。人って見かけによらないんだな。


だけどなぜだろう、むしろ好感が持てる。

「で、あと何分持ちそう?」

「この調子でお客さんが来るとなると…二十分。かな」

「そっか。いやぁほんとごめんね。売り切っちゃったらさ、『景品は無くなりました』って看板だそうかな。それで十分くらい様子見て、客足途絶えたら閉めるっきゃ無いね。ったく…」

そう言って舌打ちした後、菊浮川さんは急に思い出したように言った。

「八坂さん、ダンスかっこよかったよ」

「んー…ありがと」

俺はなんとか笑顔で言った。すごく照れる。

「あのさ、違ったらゴメンだけど…」

何かを言いかけて、菊浮川さんは眉をひそめて考え込んだ。

「あのさ~…八坂さんともう一人、男装してた女の人、先輩?」

「ん、そうだけど…?」

「もしかしてさ、その人『六花』って名前じゃない?」

菊浮川さんは勢い込んで言ったが、俺は首をかしげるしかなかった。珍しい名字だ。

「ムツノハナ…?」

「あ…違うか。…なんでもない!気にしないで!」

なんでもない、と言うわりに、何かがありまくりそうな落胆の表情。俺は思わず、その人は誰かと訊いた。

「六花先輩はね、うちの中学の先輩なの。その人がこの高校入ったって聞いたんだけど、まだ見つかんなくてさ~。追ってきたのに。…あの人、似てたと思ったんだけどなぁ」

「そっか…。あの人は青柳って名字だよ。もう一人の女装してた男の先輩とは、双子の姉弟だって。」

俺はなんとなく言ったのだが、急に菊浮川さんの肩がビクッと震えた。




「…双子。」

「うん。」

「…そっか」

今度は妙に考え込んだ表情で、菊浮川さんは去っていった。





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