あとがきを先に見る
☆自作エンターテイメントコメディです。コピー禁止。挿絵募集中です(´ω`*)
一、人は皆、高校時代を『青春』と呼ぶ。
また、花粉の季節が来た。
俺は今日からピッカピカの高校一年生である。
俺はこれでもれっきとした女子だ。
『俺』という一人称は小学生の頃からで、直そうという努力をしていないわけではない。
…直ってないけど。
念のために言っておくと、『友達百人でっきるっかな♪』なんていう夢物語は端から諦めているタイプの、黒縁メガネ、黒髪ロング、チビの底辺女子だ。(自分で言ってて涙が出てくる。)
お偉いさんのお長いお話は右耳から入って左耳からスルスル出ていく退屈な入学式が終わり、結局クラスメートの名前は全く覚えられぬまま自己紹介が終わり、放課後、俺は俺のものになった机に突っ伏していた。
…と、急に頭をわしゃわしゃとなでられた。
俺はたった今起きたフリをして顔をあげる。
まだ見慣れない、この高校の黒いブレザーとズボンが目に入り、聞き慣れた声が降ってきた。
「春一ぃ、どうしたんだよ」
犯人は、早瀬…九条早瀬という名の、二メートル近い巨人だった。
早瀬は俺の幼なじみ。
幼稚園から小学校、中学校、そして高校まで同じだ。
これを腐れ縁と呼ばずに何と呼べばいいのか。
「まだ帰ってなかったのか。やめろ痴漢」
俺のそっけない演技に、おおげさに驚いてみせる早瀬。
「どこらへんがっ!?」
「頭のてっぺんから爪先まで」
「冗談きっついなぁもー、痴漢するならもっとこう…じゃなくて、マジな話どうしたんだよ。」
俺は思わず、顔をしかめて横を向いた。
「いや…自己紹介…」
「なに?自己紹介の何が駄目だったと思ってるの?一人称が『俺』だったこと?めっちゃ噛んだこと?顔が赤くなったこと?」
「…っ、てめェ…」
「気にしすぎだって。早く帰んないと電車出るぞ」
「おぅ…」
こいつ、今俺を思いっきりヘコませた自覚はあるのだろうか。いや、無い。
俺のスクールバックを勝手に担いで行くので、仕方なく俺も後に続いて教室を出た。
早瀬は変人だ。
いつだってこうやって、友達がいの無い俺にお節介を焼く。
廊下ではそこここで数人が固まり、遠慮がちな挨拶が交わされていた。
この学校の制服はブレザーとセーラ服だ。
ただし、どちらもベースカラーが真っ黒なのは珍しいんじゃないだろうか。
ブレザーのネクタイは明るい黄色に黒いライン。
セーラ服のスカーフも明るい黄色、襟とスカートのすそ近くにも同色のラインが入っている。
男女とも、一応好きな方を着ていいことになっている。
この高校の名前、『北蜂谷国際高等学校』と掛けてでもいるつもりか…スズメバチみたいだよな。
急に立ち止まって振り返った早瀬の尻に…いや、背中に、俺は顔をぶつけそうになった。
急に止まるなっての。
「なあ春一よぅ、部活はどうすんだぃ?」
「やるわけないだろ。めんどくさい」
「即答っ!」
俺は面倒に巻き込まれるのは大嫌いだ。
部活なんて、いかにも面倒の塊ではないか。
俺は基本的に、暇であることに忙しい人間なのだ。
「…早瀬は?」
「おれ…うーん、見学して決めるわ。ここって部活いくつあんの?」
「さあな…。」
この学校、入学試験のレベルは中の上。
だが、一見真面目な学校にしては、変な部活が多い。
一年生の教室前の廊下や階段付近に、様々な勧誘ポスターが貼ってあるんだが…なんだよガンダ部って。
放浪部…って、帰宅部のことか?
「セパタクロー同好会とかアルカイック芸術鑑賞サークルってのはどうだ」
デジタルのめちゃめちゃ凝ってるポスターの名前を俺が読み上げると、
「なにそれおいしいの?」
首をかしげる早瀬。
自分の斜め掛けエナメルバックのベルトを額に引っ掛けて、俺のスクバを振り回す。
自分のバックの重みで首が折れてしまえ。
「あれ、一階すげー賑やかだな」
手すりから昇降口付近を見下ろした早瀬が言った。
俺はその光景を見てゲンナリしてしまった。
人人人人人、人ばかりだ。
上級生達が、目を血走らせ、よだれを滴らせて一年生という名のカモを部活に勧誘している。
…コワい。
隣りで、早瀬がツバを飲んだ。
「行くぞ春一、おれの手を離すな!」
「そもそも繋がないからな」
俺は一応釘をさすと、うつむいて人ごみの隙間を縫った。
こういう時、小柄な体は役に立つ。
うん。
しかし、あとちょっとで昇降口という所で捕まってしまった。
慌てて周りを見ても、いつの間にか早瀬の姿が無い。
「ちょっとそこのお嬢さん」
声をかけてきたのは長髪を一本にまとめた二年生男子。
上履きの色を見れば学年が分かる。
危ないニオイが漂っているのが肉眼で見えるよ。
だいたい、どこのナンパ野郎の口上だそれは。
「俺たちのコンピューター部に入る気は無いかい?」
「無いです」
「即答っ!」
「さようなら」
「え、ちょ、見学だけでも…」
なおも言い募るコンピューター部の方に、俺の背後から誰かがぬっと詰め寄った。
「やめな、ニセコンピューター部。彼女が嫌がってるじゃないか」
俺は、その助け主の声を聞いてぎょっと…もとい、ぞっとした。
第六感が警告を告げる声。
あぁ、なんてこった。
まさか、奴がこの高校にいたとは…。
俺の過去最大の過ちだ。
「だ、誰がニセだ!俺たちはコンピューターを使っているからコンピューター部だろ!」
額に汗して、ドラマチックに指をつきつける長髪二年生。
「ふっ…この俺の目が節穴だとでも思っているのか。お前らが『コンピューター』でしていることの実体くらい、こちとら先刻承知なんだよっ!だがまあ、ここは敢えて口にしないでおこう。…お前らのプライドのために」
こっちもうさん臭いほど場を盛り上げている謎の男。…いや、俺の知り合い。
「くっ…仕方ねえ、今日のところは退散しといてやんよ!」
「さらばだエロゲ野郎。」
「ちょっとまてーいっ!!!」
俺はコントを尻目に、その場からこっそり逃げ出そうとした。ところが、気付いたら例の救い主にがっちり羽交い絞めにされていた。
「は、離せっ!」
「へっへっへ、落ち着きなお嬢ちゃん」
どこの誘拐犯の口上だそれはっ!
「まーまー、せっかく助けてあげたんだから」
「やめろぉおおお!俺に構うなあああ!!」
「お?まだ俺っ娘なのぉ?」
珍しく素で悲鳴を上げる俺を拉致したまま、面白そうな顔で俺の顔を覗き込む二年男子が言った。
切れ長の目に整った顔立ち、ラフな黒髪は毛先だけが若干赤く、ワイシャツを上手く着崩した姿は文句無しのイケメン。
俺と早瀬の、中学の時の先輩。
俺はコイツが(よく言えば)苦手だった。そして、今も苦手だということがハッキリした。
「まあまあ積もる話は部室でゆっくりと…」
「離せ変態野郎ーっ!かろとうせんっ!すりこぎっ!しいそさん~っ!」
「そんな難解な罵詈雑言、意味が分からないから全然ダメージになってないぜ」
俺の抵抗は、縛り上げられたウサギのそれよりも無意味だった。
俺たちを発見した鷹の目の早瀬が、なんとか人を掻き分けこっちに向かってきたのだが、
「あ、海野先輩!?…と春一。」
「た、たす…うぐっ」
「やあやあ九条早瀬。君も来たまえ。」
「部活の見学っすか?」
「まあそんなところだ」
「馴れ合うなっ!」
「はいはいどうどう」
「春一、部活やるの?」
「やらんわっ!」
「そう噛み付くなって。お茶でも飲んでけよ。」
「あ、じゃ遠慮なく」
「早瀬ェエエ!」
俺の魂の叫びは虚しかった。
次回→
☆自作エンターテイメントコメディです。コピー禁止。挿絵募集中です(´ω`*)
一、人は皆、高校時代を『青春』と呼ぶ。
また、花粉の季節が来た。
俺は今日からピッカピカの高校一年生である。
俺はこれでもれっきとした女子だ。
『俺』という一人称は小学生の頃からで、直そうという努力をしていないわけではない。
…直ってないけど。
念のために言っておくと、『友達百人でっきるっかな♪』なんていう夢物語は端から諦めているタイプの、黒縁メガネ、黒髪ロング、チビの底辺女子だ。(自分で言ってて涙が出てくる。)
お偉いさんのお長いお話は右耳から入って左耳からスルスル出ていく退屈な入学式が終わり、結局クラスメートの名前は全く覚えられぬまま自己紹介が終わり、放課後、俺は俺のものになった机に突っ伏していた。
…と、急に頭をわしゃわしゃとなでられた。
俺はたった今起きたフリをして顔をあげる。
まだ見慣れない、この高校の黒いブレザーとズボンが目に入り、聞き慣れた声が降ってきた。
「春一ぃ、どうしたんだよ」
犯人は、早瀬…九条早瀬という名の、二メートル近い巨人だった。
早瀬は俺の幼なじみ。
幼稚園から小学校、中学校、そして高校まで同じだ。
これを腐れ縁と呼ばずに何と呼べばいいのか。
「まだ帰ってなかったのか。やめろ痴漢」
俺のそっけない演技に、おおげさに驚いてみせる早瀬。
「どこらへんがっ!?」
「頭のてっぺんから爪先まで」
「冗談きっついなぁもー、痴漢するならもっとこう…じゃなくて、マジな話どうしたんだよ。」
俺は思わず、顔をしかめて横を向いた。
「いや…自己紹介…」
「なに?自己紹介の何が駄目だったと思ってるの?一人称が『俺』だったこと?めっちゃ噛んだこと?顔が赤くなったこと?」
「…っ、てめェ…」
「気にしすぎだって。早く帰んないと電車出るぞ」
「おぅ…」
こいつ、今俺を思いっきりヘコませた自覚はあるのだろうか。いや、無い。
俺のスクールバックを勝手に担いで行くので、仕方なく俺も後に続いて教室を出た。
早瀬は変人だ。
いつだってこうやって、友達がいの無い俺にお節介を焼く。
廊下ではそこここで数人が固まり、遠慮がちな挨拶が交わされていた。
この学校の制服はブレザーとセーラ服だ。
ただし、どちらもベースカラーが真っ黒なのは珍しいんじゃないだろうか。
ブレザーのネクタイは明るい黄色に黒いライン。
セーラ服のスカーフも明るい黄色、襟とスカートのすそ近くにも同色のラインが入っている。
男女とも、一応好きな方を着ていいことになっている。
この高校の名前、『北蜂谷国際高等学校』と掛けてでもいるつもりか…スズメバチみたいだよな。
急に立ち止まって振り返った早瀬の尻に…いや、背中に、俺は顔をぶつけそうになった。
急に止まるなっての。
「なあ春一よぅ、部活はどうすんだぃ?」
「やるわけないだろ。めんどくさい」
「即答っ!」
俺は面倒に巻き込まれるのは大嫌いだ。
部活なんて、いかにも面倒の塊ではないか。
俺は基本的に、暇であることに忙しい人間なのだ。
「…早瀬は?」
「おれ…うーん、見学して決めるわ。ここって部活いくつあんの?」
「さあな…。」
この学校、入学試験のレベルは中の上。
だが、一見真面目な学校にしては、変な部活が多い。
一年生の教室前の廊下や階段付近に、様々な勧誘ポスターが貼ってあるんだが…なんだよガンダ部って。
放浪部…って、帰宅部のことか?
「セパタクロー同好会とかアルカイック芸術鑑賞サークルってのはどうだ」
デジタルのめちゃめちゃ凝ってるポスターの名前を俺が読み上げると、
「なにそれおいしいの?」
首をかしげる早瀬。
自分の斜め掛けエナメルバックのベルトを額に引っ掛けて、俺のスクバを振り回す。
自分のバックの重みで首が折れてしまえ。
「あれ、一階すげー賑やかだな」
手すりから昇降口付近を見下ろした早瀬が言った。
俺はその光景を見てゲンナリしてしまった。
人人人人人、人ばかりだ。
上級生達が、目を血走らせ、よだれを滴らせて一年生という名のカモを部活に勧誘している。
…コワい。
隣りで、早瀬がツバを飲んだ。
「行くぞ春一、おれの手を離すな!」
「そもそも繋がないからな」
俺は一応釘をさすと、うつむいて人ごみの隙間を縫った。
こういう時、小柄な体は役に立つ。
うん。
しかし、あとちょっとで昇降口という所で捕まってしまった。
慌てて周りを見ても、いつの間にか早瀬の姿が無い。
「ちょっとそこのお嬢さん」
声をかけてきたのは長髪を一本にまとめた二年生男子。
上履きの色を見れば学年が分かる。
危ないニオイが漂っているのが肉眼で見えるよ。
だいたい、どこのナンパ野郎の口上だそれは。
「俺たちのコンピューター部に入る気は無いかい?」
「無いです」
「即答っ!」
「さようなら」
「え、ちょ、見学だけでも…」
なおも言い募るコンピューター部の方に、俺の背後から誰かがぬっと詰め寄った。
「やめな、ニセコンピューター部。彼女が嫌がってるじゃないか」
俺は、その助け主の声を聞いてぎょっと…もとい、ぞっとした。
第六感が警告を告げる声。
あぁ、なんてこった。
まさか、奴がこの高校にいたとは…。
俺の過去最大の過ちだ。
「だ、誰がニセだ!俺たちはコンピューターを使っているからコンピューター部だろ!」
額に汗して、ドラマチックに指をつきつける長髪二年生。
「ふっ…この俺の目が節穴だとでも思っているのか。お前らが『コンピューター』でしていることの実体くらい、こちとら先刻承知なんだよっ!だがまあ、ここは敢えて口にしないでおこう。…お前らのプライドのために」
こっちもうさん臭いほど場を盛り上げている謎の男。…いや、俺の知り合い。
「くっ…仕方ねえ、今日のところは退散しといてやんよ!」
「さらばだエロゲ野郎。」
「ちょっとまてーいっ!!!」
俺はコントを尻目に、その場からこっそり逃げ出そうとした。ところが、気付いたら例の救い主にがっちり羽交い絞めにされていた。
「は、離せっ!」
「へっへっへ、落ち着きなお嬢ちゃん」
どこの誘拐犯の口上だそれはっ!
「まーまー、せっかく助けてあげたんだから」
「やめろぉおおお!俺に構うなあああ!!」
「お?まだ俺っ娘なのぉ?」
珍しく素で悲鳴を上げる俺を拉致したまま、面白そうな顔で俺の顔を覗き込む二年男子が言った。
切れ長の目に整った顔立ち、ラフな黒髪は毛先だけが若干赤く、ワイシャツを上手く着崩した姿は文句無しのイケメン。
俺と早瀬の、中学の時の先輩。
俺はコイツが(よく言えば)苦手だった。そして、今も苦手だということがハッキリした。
「まあまあ積もる話は部室でゆっくりと…」
「離せ変態野郎ーっ!かろとうせんっ!すりこぎっ!しいそさん~っ!」
「そんな難解な罵詈雑言、意味が分からないから全然ダメージになってないぜ」
俺の抵抗は、縛り上げられたウサギのそれよりも無意味だった。
俺たちを発見した鷹の目の早瀬が、なんとか人を掻き分けこっちに向かってきたのだが、
「あ、海野先輩!?…と春一。」
「た、たす…うぐっ」
「やあやあ九条早瀬。君も来たまえ。」
「部活の見学っすか?」
「まあそんなところだ」
「馴れ合うなっ!」
「はいはいどうどう」
「春一、部活やるの?」
「やらんわっ!」
「そう噛み付くなって。お茶でも飲んでけよ。」
「あ、じゃ遠慮なく」
「早瀬ェエエ!」
俺の魂の叫びは虚しかった。
次回→
読まさせていただきました‼
おもしろかったです~~!
こんなラブコメが読みたかったです。
早く続きが読みたいです(*^^*)
応援しています🎵
そんなに褒めると調子に乗りますよ!w
ぜひ続きも読んでいただけたら幸いです(^^)