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メイドは腕組みしてしかめ面しく頷いて一言。
「その通りっ!きあいですっ!」
「…?」
「気合ですっ!大事なことなので二回言いました!」
その途端、お嬢様と貧乏青年は同時にズッこけた。
「キスじゃないのっ!?」
もはや恥ずかしげも無く同時に叫んだ二人に向かって、メイドはちっちっちと言いながら人差し指を振って見せる。
「んなもんで解けるようなもんなら苦労しやしませんや。そんなご都合主義、現実に存在するわけないでしょーが。」
完全に言葉遣いがおかしいメイドに向かって、焦りすぎでそのことに気付かないお嬢様(中身は貧乏青年)。
「じゃあ、気合って…どうしたらいいんだい?」
メイドは目をすがめて考える仕草。心の中で1…2…3とカウントしてポンッと手を打ち、
「とりあえず、アレ試しましょう。座禅。」
「なんでっ!?」
二人のキレのいいツッコミ炸裂。たまにはボケ役も楽しいものだ。
「なんとなくです。ほら、精神統一で元に戻るかなー、みたいな?じゃあ何か?他にアイディアあります?」
「ぐっ…」
「まぁ、お座りなさい二人とも。さあさあさあ」
とまどった表情で床に座り込む二人、その背後に回りこむメイド。
手にしたピンクの星付きステッキ(の、LEDライト)が怪しく光り、もはやその本性を表した魔法使いが低い声でなにやら呪文を唱え始める。
声がじょじょに大きくなるにつれ、照明が赤く点いたり消えたりを繰り返している。
「…臨!兵!闘!者!皆!陣!裂!在!前!!」
魔法使いは顔を上げ、目を見開いて鋭く吠えた。
「退魔っ!!」
その直前、お嬢様(見た目は貧乏青年)は「きゃっ!虫がっ」と言って飛び上がり、恋人に抱きつく。
と、同時に爆発音が響き、照明が全て落ちてホール内は真っ暗闇になった。
「げほっ…う…」
数秒後、お嬢様の苦しそうな咳が聞こえて、照明がゆっくりと舞台にオレンジ色の光を投げかけた。
三人とも、床にぶっ倒れている。
お嬢様はゆっくりと身を起こし、自分の体をじっと眺めた。
「…や…やったわっ!呪いが解けたぁ!」
歓声を上げて恋人に抱きつくお嬢様。
その声は元のかわいらしい声に戻っている。
しかし、どこかボケェッとした表情でお嬢様を見つめ返す貧乏青年の様子がおかしい。
「う、いててて…あ、リリー!って、あれええええええ!?」
変な悲鳴を上げたメイドは、自分の姿を見て絶叫。
「やっちゃったぜ☆」
貧乏青年はペロッと舌を出すと、へたくそなウインクをした。
拍手と笑い声に送られて舞台から引っ込み、次の主役に舞台を譲った俺たちは、ややくつろぎモードに入っていた。
「早瀬、ウインク下手。」
俺は名脚本家に向かって『こんな格好』をさせられた仕返しをする。
「初めての時よりマシじゃない?少なくとも両目つぶったりはしなかったし」
自慢げな早瀬は、自分の考えたストーリーが観客に受けたことで顔が緩みっぱなしだ。
少々…いや、かなり無茶な部分は多々あったが。
「よぉ~し、三人ともよかった!あとは午後の出番だけだ。今から、二時まで解散っ!クラスの出し物の手伝いするなり、昼飯食うなりしといてな。あと、ほどよい緊張は保っとけよ~。特に次の主役の早瀬とオレはなっ!」
自分を親指で指し示す楽しそうな部長が『主役』の部分を強調して言った。
ここまで、部長が『主役』の出し物は無かった。
(本番直前だけは)メンタルの弱い青柳弟の出番を前に持ってきたりする優しさはさりげない…が、もしかするとただ自分がラストを飾りたいだけかもしれない。
「春一、着替えなくていいから行こうっ!」
鼻息の荒い早瀬。俺がうんて言うと思ってるのか?
「ヤダ」
「じゃあ、着替え覗いていい?」
「いいわけあるかっ!」
おかしい。今日は早瀬がおかしい。…いつもか。
次回→
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メイドは腕組みしてしかめ面しく頷いて一言。
「その通りっ!きあいですっ!」
「…?」
「気合ですっ!大事なことなので二回言いました!」
その途端、お嬢様と貧乏青年は同時にズッこけた。
「キスじゃないのっ!?」
もはや恥ずかしげも無く同時に叫んだ二人に向かって、メイドはちっちっちと言いながら人差し指を振って見せる。
「んなもんで解けるようなもんなら苦労しやしませんや。そんなご都合主義、現実に存在するわけないでしょーが。」
完全に言葉遣いがおかしいメイドに向かって、焦りすぎでそのことに気付かないお嬢様(中身は貧乏青年)。
「じゃあ、気合って…どうしたらいいんだい?」
メイドは目をすがめて考える仕草。心の中で1…2…3とカウントしてポンッと手を打ち、
「とりあえず、アレ試しましょう。座禅。」
「なんでっ!?」
二人のキレのいいツッコミ炸裂。たまにはボケ役も楽しいものだ。
「なんとなくです。ほら、精神統一で元に戻るかなー、みたいな?じゃあ何か?他にアイディアあります?」
「ぐっ…」
「まぁ、お座りなさい二人とも。さあさあさあ」
とまどった表情で床に座り込む二人、その背後に回りこむメイド。
手にしたピンクの星付きステッキ(の、LEDライト)が怪しく光り、もはやその本性を表した魔法使いが低い声でなにやら呪文を唱え始める。
声がじょじょに大きくなるにつれ、照明が赤く点いたり消えたりを繰り返している。
「…臨!兵!闘!者!皆!陣!裂!在!前!!」
魔法使いは顔を上げ、目を見開いて鋭く吠えた。
「退魔っ!!」
その直前、お嬢様(見た目は貧乏青年)は「きゃっ!虫がっ」と言って飛び上がり、恋人に抱きつく。
と、同時に爆発音が響き、照明が全て落ちてホール内は真っ暗闇になった。
「げほっ…う…」
数秒後、お嬢様の苦しそうな咳が聞こえて、照明がゆっくりと舞台にオレンジ色の光を投げかけた。
三人とも、床にぶっ倒れている。
お嬢様はゆっくりと身を起こし、自分の体をじっと眺めた。
「…や…やったわっ!呪いが解けたぁ!」
歓声を上げて恋人に抱きつくお嬢様。
その声は元のかわいらしい声に戻っている。
しかし、どこかボケェッとした表情でお嬢様を見つめ返す貧乏青年の様子がおかしい。
「う、いててて…あ、リリー!って、あれええええええ!?」
変な悲鳴を上げたメイドは、自分の姿を見て絶叫。
「やっちゃったぜ☆」
貧乏青年はペロッと舌を出すと、へたくそなウインクをした。
拍手と笑い声に送られて舞台から引っ込み、次の主役に舞台を譲った俺たちは、ややくつろぎモードに入っていた。
「早瀬、ウインク下手。」
俺は名脚本家に向かって『こんな格好』をさせられた仕返しをする。
「初めての時よりマシじゃない?少なくとも両目つぶったりはしなかったし」
自慢げな早瀬は、自分の考えたストーリーが観客に受けたことで顔が緩みっぱなしだ。
少々…いや、かなり無茶な部分は多々あったが。
「よぉ~し、三人ともよかった!あとは午後の出番だけだ。今から、二時まで解散っ!クラスの出し物の手伝いするなり、昼飯食うなりしといてな。あと、ほどよい緊張は保っとけよ~。特に次の主役の早瀬とオレはなっ!」
自分を親指で指し示す楽しそうな部長が『主役』の部分を強調して言った。
ここまで、部長が『主役』の出し物は無かった。
(本番直前だけは)メンタルの弱い青柳弟の出番を前に持ってきたりする優しさはさりげない…が、もしかするとただ自分がラストを飾りたいだけかもしれない。
「春一、着替えなくていいから行こうっ!」
鼻息の荒い早瀬。俺がうんて言うと思ってるのか?
「ヤダ」
「じゃあ、着替え覗いていい?」
「いいわけあるかっ!」
おかしい。今日は早瀬がおかしい。…いつもか。
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