一般的に、森林に降り注いだ雨は、樹冠を通過したり、樹幹を流れて、地面に辿り着き、ゆっくりと土壌に浸透し、やがて河川や地下水となって、森林から流出していきます。
森林に降った雨は、河川や地下水として流出する以外に、樹木の葉や枝(樹冠)に付着した雨水の蒸発や樹木の蒸散によって、気体として大気に流出する水もあります。
ザックリですが、これが森林における水循環です。
樹冠を通過した降雨量を「樹冠通過降雨量」、樹幹を流れた降雨量を「樹幹流下量」といい、この2つを合わせて「林内雨量」と言います。
そして、降雨量(林外雨量)から林内雨量を差し引いたものが、「樹冠遮断量」(樹冠が遮断した降雨量)です。
樹冠遮断量が多いほど、森林から流出する水量の減少を意味し、河川水量の減少にも繋がると言われています。
簡単かつ短絡的に言えば、「間伐が遅れて、樹冠が閉鎖された森林では、樹冠遮断量が多くなって、森林から流出する水量が減少するよ。」ということです。
と言うことは、「間伐によって樹冠が開く(疎開する)と、林内に雨が降り注ぎやすくなって、土壌に浸透する水量が増えるから、森林から流出する水量も増えるよ。」となります。
中央にポッカリ空いた穴の左側が間伐林分、右側が無間伐林分。
林冠の空き具合の違い、お分かりいただけるでしょうか・・・(>_<)。
さらに、間伐によって、成立本数が減少すれば、樹木の蒸散によって大気に放出される水量も抑制されるので、森林全体の蒸散量も減少します。
※木の数だけ蒸散する
※減った分、蒸散も減る。
間伐を行うことで立木の数が減少した結果、森林全体から発生する樹木の蒸散量が抑えられることによって、森林から流出する水量の損失が抑えられます。
しかし、実際のところ、そんな単純な話ではありません(^_^;)
間伐をしないと林内が暗くなり、下層植生(林床植生)が減少し、やがて無くなってしまいます。
すると、スギやヒノキが生えるだけの森林になり、落ち葉の種類もスギやヒノキだけになってしまいます。
下層植生がなくなると地表面(表層土壌)における根系が欠如し、土壌の保水力や緊縛力の低下に繋がります。
さらに、スギとヒノキを比較すると、ヒノキは落ち葉が細片化しやすい・・・
スギ人工林の過密林分とヒノキ人工林の過密林分におけるリター(落葉枝)と土壌の流亡を比較すると、スギ林はヒノキ林の1/2~1/10と言われており、スギ林よりも「ヒノキ林の方が崩壊しやすいんじゃない?」と想像できるかと思います。
実際、現場を見ても、スギの過密林よりもヒノキ過密林の方が、むき出し土壌になっている事が多いですよね。
ヒノキ林は、落ち葉が細かくなるし、枯れ枝も落ちにくいので、地表面むき出しのヒノキ林を良く見かけます。
一方、スギの落ち葉は細かくならないし、枯れ枝も落ちるので、地表面が流出したスギ林はヒノキ林よりも少ないと思います。
木材価格が良かった頃は、材質向上など森林所有者の利益になるので、間伐を進めていました。
しかし、現在の間伐は、材価低迷を受け、森林所有者の利益に繋がりにくくなり、むしろ、間伐をしないことで生じる不利益とその不利益を受けてしまう人々への影響を抑えるために、間伐が進められていると思います。
こうした背景から、間伐による下層植生の変化や土砂流出などに関する研究成果や論文はホントに多い!
読んでみると、面白いんだけど、検索するとキリが無く、検索地獄に陥ります。(T_T)
こうした成果を超々簡単にまとまると、(全然、読み足りていないんですが(恥)・・・・。)
例えば、間伐林と無間伐林を比較した場合、
下層植生の種数や植被率は間伐林が多い。
そして、間伐直後から下層植生に変化がある、間伐率が高いと下層植生の繁茂量が増加するといった報告があります。
次に、土砂流出量を比較した場合、無間伐林の方が多い。
だけど、林床植生と落葉枝を除去した間伐林と無間伐林の土砂流出量は同じ、間伐林も無間伐林も同じ、間伐林の方が土砂流出量が少ない原因は伐倒木による抑制効果ではないか、などといった報告や考察があります。
土砂流出量は間伐の有無よりも、下層植生の有無や伐倒木処理の影響の方があると言えそうです。
伐倒木処理の影響もありますが、ここでは、土砂流出量を抑えるポイントは「下層植生」として考えたいと思います。
下層植生が存在することで、林内に降った雨が、直接、土壌を叩きつけることが防げます。
つまり、下層植生の存在が、雨滴によって土壌が硬くなることを防いでくれるということです。
さらに、下層植生の根系が表層土壌に広がることで、表層土壌が堅く結びつけられ、表面を流れる水から表層土壌を守ってくれます。
これは、伐採跡地でも言えることですが、林地残材や下層植生の存在が雨滴から土壌を守ってくれるので、土壌の硬化防止に繋がります。
雨が直接、土壌を叩きつけると、土壌が硬くなって隙間がなくなり、土壌に浸透しない水の量が増えてしまいます。
さて、間伐をすることで、下層植生が増えることもあれば、変化しないこともあります。
というのは、間伐によって増加した下層植生は、埋土種子(地下で休眠している種子)よりも、外部から供給された種子の方が多いという報告があります。(そもそも、下層植生が生えるって事は、種がないといけないので、その種は、元々土の中にあるのか、他所から運ばれてきたのかに限られると思います。)
これを基本において考えると、下層植生の種子の供給源が近くにないと、間伐後の変化は期待できない可能性があります。
森林一帯がスギ・ヒノキの人工林が密集している様な環境では、間伐だけで下層植生を増やすことは難しいと考えるべきで、間伐すれば、下層植生が増えると容易に考えるべきではないと思います。
実際にそういう現場があります。
間伐後、2~3年経過し、林床に光が届く様な環境でも、下層植生が生えた形跡がありません。(もちろん、獣害の影響も無視できませんが。)
そして、ここの現場は、林内に水が流れる道が出来ており、崩壊リスクを抱えています。
水が流れる道が、もし、間伐前にあったなら・・・・
間伐後、林内雨量が増加し、この道を拡大してしまった可能性があります。
もし、間伐前になかったなら・・・・
間伐後、林内雨量が増加し、この道を作ってしまった可能性があります。
あくまで、可能性の話ですが、無視できることではないと、個人的に思います。
このことを踏まえた上で、前述した「間伐をしないことで生じる不利益とその不利益を受けてしまう人々への影響を抑えるために間伐を進める。」のであれば・・・
このような現場は、マイナスになっているとも考えられます。
じゃあ、どうすればいいのか。と言うことも考えないといけない。
間伐前に水の流れる道があったなら、伐倒木の処理や置き方を工夫できたかもしれない。
間伐後に水の流れる道が出来たなら、表土移動を抑える工法や植栽を導入できたかもしれない。
いずれにしろ、森林の公益的機能を発揮する目的で間伐するのであれば、間伐後の変化、特に下層植生の変化を追跡調査する必要があるのではないのかなと、思います。
木材価格が良かった時代の間伐は、木を太らせ、森林所有者の利益になる品質向上が目的だったと思います。
木材価格が下がった今の時代の間伐は、崩壊などの不利益を防ぎ、地域住民への悪影響を抑制することが目的になっていると思います。
同じ間伐でも、昔と今で、間伐をする目的や間伐を進める目的が変わったのであれば、間伐の方法や評価も変えないといけないし、それを検討・検証するための情報や根拠が、試験研究の成果です。
我々の血税で試験研究された成果を生かさないといけません。
話が大きく逸れてしまいましたが、今回、お伝えしたかったことは・・・
1.間伐によって森林から流出する水量が増えるので、河川の水量が増える。
・樹冠が遮断する雨水が減ることで、林内の降雨量が増え、地面に辿り着く水の量が増えるから。
・樹木の本数が減少した分、森林全体から出る樹木の蒸散量が減少するから。
2.間伐によって下層植生は増加する。
・下層植生が生え、これらの根系が広がることで、流れる雨水から表層土壌を守ってくれる。
・間伐によって生えた下層植生は、外部から供給された種子が多いので、供給源の存在が重要。
間伐って、思っている以上に奥深く、科学的な話が盛り沢山です!
僕の知識量もまだまだなので、上手くお伝えできなかった点も多々ありますが、これを機に、間伐による様々な効果を、面白いので、是非、調べてみて下さい。
入門としてオススメする成果はこちら!
長ったらしい文章を最後までお読みいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m。。。感謝です。