榎そのさんのこと。

榎そのさん。
初めてお会いしたのは30年近く前、十三代目仁左衛門さんのご贔屓の方からご紹介頂きました。
国立劇場一階ロビー。
そのさんはニコニコ笑いながら、
「お噂は伺ってたわ、お若いのに仁左衛門さんのファンなのね嬉しいわ」
と握手して頂いて。
小柄な方で小さいお手でした。
この手であの楽しいマンガを描いてらっしゃるんだなあと。
歌舞伎座の筋書「〇月興行雑談　こんげつやくのいろいろ」。
土岐迪子さんの文、榎そのさんのマンガは当時の名物で、面白くていつも真っ先に読んでいました。
役者さん達への愛情がたっぷり感じられることと、各役者さんの楽屋へ訪問しつつの取材なので独特の臨場感がありました。
楽屋は親子で入られることが多いのでお子さん達の談話も入り、今より情報量も多かったと思います。
そのさんとはその後も十三代目さんの楽屋や劇場などでお会いするとお話しさせて頂くようになりました。
十三代目さんがお亡くなりになった後はあまりお目にかかることもなくなってしまったのですが・・。
十三代目さんの十三回忌の興行の時に友人と期間限定で十三代目さんのサイトを立ち上げた時のこと。
そのさんが歌舞伎座百年（昭和63年）二月に歌舞伎座の筋書に描かれたイラストを掲載させて頂きたくてお電話しました。
サイトについては松嶋屋側の許可はあらかじめ頂いていたのですが、筋は通しておかないとと色々なところと交渉してかなり消耗していた私にそのさんは気が付いて下さって、
「何があったの？何かあったら言ってね、一緒に行ってあげる！」
と仰って下さって・・それがとても嬉しかったです。
今でも本当に感謝しています。
そのさんは当時まだ黒電話をお使いで、
「留守番電話は買ってあるのよ、でもつなぎ方が分からないからそのままずーっと置いてあるの。」
と仰っていたのもそのさんらしいなあ・・と印象に残っています。
見出しのイラストはそのさんから「仁左衛門さんの為ならいつでも使っていいわよ」と仰って頂いたものです。
役者さんだけでなく、そのさんの描く奥様や娘さんも大好きでしたので十三代目さんのサイトで使わせて頂いたイラストです。
是非、多くの方にご覧頂きたいです。
そして十三代目さんの十三回忌の興行が終わった後にそのさんから頂いた手紙です。



自画像のシールが可愛らしくて。
中にはそのさんが写した十三代目さんご夫妻の素敵な写真とメッセージ。
今頃は十三代目さんと大奥様と再会していらっしゃいますでしょうか。
そのさん、ありがとうございました。
心よりご冥福をお祈り致します。