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『ある戦争』-「国際治安支援部隊」の一員としてアフガン紛争に派遣されたデンマーク将校の戦場の苦悩

2017-08-22 21:50:20 | 最近見た映画

      【 2017年8月21日 】    京都シネマ

 昨年(2016年)10月に封切られたデンマークの映画である。

 デンマーク兵士のアフガニスタン紛争を背景として描かれた映画に『ある愛の風景』(スサンネ・ビア監督、2004年制作、2007年12月日本公開)があった。(この映画は、『マイ・ブラザー』というタイトルでアメリカでもリメイクされている。
 デンマークはイギリス、フランスやベルギー、近隣のノルウェイなどと共に1949年の発足当初から「NATO(北大西洋条約機構)」に加盟している。NOTOはそもそもソヴィエト・ロシア等の共産圏に対抗するため、アメリカを中心としてつくられた軍事同盟である。それが、『冷戦の崩壊』と、2001年アメリカで起こった『同時多発テロ』によって【対テロ戦争】に傾斜していくことになる。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争やコソボ紛争、そしてアフガニスタン紛争にもかかわっていく。

                                   
             

『ある愛の風景』は、そのようなアフガニスタン紛争でタリバンとの戦闘に巻き込まれた兵士とその家庭をめぐる物語であった。

 この映画でも、緊迫する戦場と留守を預かる母親と子供のいる家庭が交互に出てくる。

               
                                
    

 この映画を見て一番感じるのは《手続きの重要性》-別の言い方をすれば、法律がしっかり定められていてそれを遵守する姿勢の大切さ-である。

 主人公である部隊長のクラウスは「治安維持活動」の活動の中で部下を失う。別の日、現場に出向いた先で「タリバン」と思われる“敵”からの襲撃を受け、けが人も出て見えない相手に追い詰められる。クラウスは目前の敵から兵士を救うことしか頭になく、友軍に「空爆」を要請し、窮地を脱出する。
 仲間を救った部隊長は皆から感謝されるが、後日クラウスは「民間地域を空爆し民間人11名の命を奪った」疑いで告発される。PID(適兵の存在確認)のないままに「空爆」を命じたことが【軍規違反】になるという理由から告発され、起訴したのは【自国】の法務官である。

                             


 軍事法廷で、その女性法務官は、戦場での【事実】を挙げ容赦なくクラウスを問い詰める。映画の画面の成り行きを見ているとクラウスに肩入れしたくなるが、法務官の言うこともまっとうで、それも正義である。皆まともで、きちんとしているのである。

                         

 一方、最近見た映画『ドローン・オブ・ウォー』や『EYE IN THE SKY』では、規則にのっとり手順を踏む真似事はするが、実際はどんなだろうと思う。何しろ自分は戦場から遠く離れた安全な場所でボタンを押すだけなのだから。そして基地を一歩出れば平和な家庭が待っている。

            


 デンマーク陸軍は、国連のPKOおよびNOTOの平和維持活動の一環として、アフガニスタンにも派遣されたのだが、2008年12月に戦死者も出しているから、この映画の背景はこの頃のものと思われる。

 日本でも当時、自衛隊を海外に派遣するかどうかで、国会でもめにもめた。しかし今ここでは、一般にある国が(例えばデンマークが)紛争地に“軍隊”を派遣することの良し悪しは検討しない。問題は、その国が今置かれている現状や「法体系」やその国の歴史や「国民感情」、その時点で「世界に果たしうる役割の違い」によって異なるもので、よその国の派兵に関しては、一概にその可否の判断を下すことはできない。

 1978年に締結されたジュネーブ協定の第43条によれば、軍隊とは「部下の行動について当該紛争当事者に対して責任を負う司令部の下にある組織され及び武装したすべての兵力、集団及び部隊から成る」と定義されている。
 また、兵士(軍人)は、「国際法上、交戦権として、敵対勢力を破壊する権利を持つ」とある。つまり、戦場において《一定の規則内で》人を殺しても罪にならないのであるが、《何をしてもよい》という訳ではない。


 日本で問題なのは、当然「憲法第9条」のことがある。そもそも「交戦権は持たない」としているのだから、軍隊は存在しないはずだし、軍隊でない自衛隊は【軍法】を持っていない。
 その辺の矛盾というか、日本の政府の出鱈目さを伊勢崎賢治は著書『日本人は人を殺しに行くのか』で明らかにしている。           
 
  『軍法を持たない軍が海外に派遣されるというのは大変な問題です。』
  『軍事作戦では、かならず民間人を巻き込む過失が起こります。』
  『自衛隊法には、自衛隊が海外で犯した過失を裁く規程すらありません。・・・日本の刑法には
   国外犯規定というものがあり、日本人が海外で犯す業務上過失致死傷を裁けないのです。』
  『日本では、この大事な論議がされないまま、自衛隊が海外に派遣され続けてきたのです。』
 

 などの言葉が並んでいる。 こんな状況で
  『慣れない若い隊員が、迫り来る(民兵が混じっている)群衆を前に恐怖でパニックを起こし、銃を乱射してしまう』
 という事態は、当然起こりうる。そうなったとき、上の様な問題をどう処理するのだろうか?」

 と、当時のブログにも書いている。
 
    『日本人は人を殺しに行くのか(その3)』-のマイブログへ
 
                                       
 映画の中で描かれている【法廷】の場面は、そういう意味で実に新鮮であった。それと、被疑者に対する扱いも人間的だ。日本では考えられないものを感じた。


               


 いい加減な対応で、憲法違反までして、もし自衛隊員に死者が出たら、安倍首相はどういう責任を取ってくれるというのだ。誰がデンマークであるような【正義】でもって裁いてくれるのだろうか。

            ○              ○               ○

 今日の夕刊の報道によれば、トランプ大統領は「アフガンの増派」への転換を決めたとされている。泥沼の戦いはいつ終わるか知れない。

           



   『ある戦争』-公式サイト
   

   『第二次アフガニスタン紛争』(2001年~)の解説サイト

   『ある愛の風景』-マイブログへ(書いたと思っていたら題字だけだった!
   
   『マイ・ブラザー』-マイブログへ








      

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