きのつらゆき(Kino_Tea)

紀貫之のごとく、気の向くままに、つらつらと、(書いて)ゆきましょう。
ブログというより備忘録。スケート関連多い。

アリーナ・ザギトワ、シニアデビューで優勝、ロンバルディア杯

2017-09-18 | Skating

イタリア北部ミラノ近郊のベルガモで開催されたCSロンバルディア杯。優勝はアリーナ・ザギトワ。ショート3位をフリーで挽回し、シニアデビュー戦で優勝。ショート、フリー、総合得点ともパーソナルベスト(PB)を更新。

Lombardia Trophy 2017
(Photo by Ice Lab Bergamo)


大会結果

順位名前区分所属得点SPFS備考
1 アリーナ・ザギトワ S1 ロシア 218.46 3 71.29 1 147.17 シニアデビュー戦で優勝
2 樋口新葉 S2 日本 217.63 1 74.26 2 143.37 PB更新
3 C・コストナー S15 イタリア 198.36 2 71.67 5 126.69 30歳のレジェンド
4 ブラディー・テネル S2 米国 196.70 5 64.34 3 132.36 PB更新
5 松田悠良 S2 日本 195.56 4 65.62 4 129.94 PB更新、2A+3T+3Lo成功
6 E・トゥクタミシェワ S7 ロシア 184.75 6 58.91 6 125.84 リーザやや苦戦

大会結果サイト


ザギトワのショート・プログラム

FCSp4 StSq4 / 3Lz+3Lo 3F(r) 2A(fall) LSp4 CCoSp4

少し格好良く、ひと目で黒鳥と分かる衣裳。ショートもフリーと同様にチュチュになってしまった。お尻を出すのが好きなのか? (昨年のバッカナールの衣装はおへそが見える青いシースルーの衣装だった。) 英語が苦手な田舎娘のくせに少し大胆だ。(=モスクワから東へ1000kmのイジェフスク出身)

黒鳥の振付は随所にあるが、音楽、編曲が慌ただしい感じだ。ぶつ切りつなぎ合わせ。昨季のバッカナール(サムソンとデリラ)のほうが良かったかな? 本家チャイコフスキーの「白鳥の湖」で編曲してもよいかも? 五輪会場で大勢の人が聞く(かもしれない?)曲なのだから、グレイヘンガウス君、もう少しなんとかしよう。最初のごんごんごんは? 黒鳥も月光も映画が題材のようだが暗い割にはシンドラーのリストほどの荘厳さはない。少し酷評しすぎか? それでも半年後には"名プロ"だと絶叫するようになるだろうか?

ザギトワはリンクに入った時からかなり緊張しているように見え気になったが、嫌な予感が当たってしまった。ジャンプミスがありショートは3位、新葉の好演技、高得点を知って動揺したのか?

最初の黒鳥ポーズはザギトワの手足が細長いことを生かした印象に残るポーズだ。
ドーナツスピンはきれい、ステップもキレキレで大きいわけではないが良い出来だ。
3Lz+3Loはきちんと跳べてほっとした。真央ちゃんの3Aに続くひそかなお楽しみポイント、見ているこちらも毎回緊張する。大きな大会ではなぜか成功しているが、(ロシア杯やEYOFなどで)結構失敗しているジャンプ。

難しいターン(ロッカー→カウンター→スリーターン)からの3Fは素晴らしい。

※ターン(図解1参考1参考2参考3)

シャーロットスパイラル→カウンター→ジャンプは、今年は2Aにつけた。昨季のショートはフリップで実施していた。2Aの場合そのまま前向きに跳ぶ分バランスを取るのが難しかったのか、テストスケートと同様に失敗してしまった。ジュニアのタラカノワとは逆の左足なので足の踏みかえがないぶん余計に難しい。

※スパイラル(参考1)

転んで時間がなくなったのかもしれないがY字スパイラルなどはもう少し見せてほしい。
最後のスピンは余韻を残すプログラムなのか、遅れたのか? 最後はもう2秒ポジションをキープしてほしい。

キスアンドクライではかなり落胆した表情だが、フリー・ス―ティングに気持ちを引きずらなければよいが…
ロシア選手権のスコアやメドベのスコアを意識したのかもしれないが、ミスしたとはいえ自己ベストを超える得点を出しても悔しい表情するとは、JGP初出場初優勝したのに笑顔がないパネンコワといいエテリ組の選手は何なのでしょう?


編曲が慌ただく、忙しない動きではあるものの、高難度ジャンプを含め後半にエレメンツを盛り込んだ高密度のプログラムをよくこなしている。1ミスで収まってよかった。5月頃?に振付けをしてから4か月、今後滑り込めば、さらに体を大きく使って細部まで行き届いた演技ができるようになるはず。

フリーレッグをきれいに、ジャンプの着氷後も流れるように、スケーティングがもっと伸びたら、シットスピンの腰の位置が高い、バレエならバレエらしい所作を、(JGPフランス大会から気になっている)少し前傾した姿勢(?)等々課題点はたくさんある。
シニアに上がって2か月なのだから女王メドベ、新葉、コストナーに比べてたくさん課題点があるのは当たり前。これはPCSという結果にも反映されている。すべて完璧なら基礎点が高いぶんメドベの241.31点を更新してしまうかもしれない。


ザギトワのショート・プログラムのTESの比較

No.要素2017/9
ロンバル杯
2017/3
世界ジュニア
2016/12
ロシア選手権
2016/8
JGPフランス
LvBVGOELvBVGOELvBVGOELvBVGOE
1 FCSp 4 3.20 1.20 4 3.20 1.00 4 3.20 0.71 4 3.20 0.86
2 StSq 4 3.90 1.40 4 3.90 1.30 3 3.30 0.64 4 3.90 1.20
3 3Lz+3Lo   12.21 0.98   - -   12.21 1.40   - -
3Lz+3T   - -   11.33 1.30   - -   11.33 1.40
4 3F   5.83 1.40   - -   5.83 1.40   - -
3Lo   - -   5.61 1.30   - -   5.61 0.90
5 2A fall 3.63 -1.40   3.63 0.64   3.63 0.43   3.63 0.64
6 LSp 4 2.70 1.00 4 2.70 1.00 4 2.70 0.93 4 2.70 1.00
7 CCoSp 4 3.50 1.10 4 3.50 1.00 4 3.50 1.00 4 3.50 0.93
小計   34.97 5.68   33.87 7.54   34.37 6.51   33.87 6.93
TES   40.65   41.41   40.88   40.80
ジュニア仕様の場合、ジャンプの指定により基礎点が1.1点低い。
黄色は後半。

GOE:
2Aは+1.5点から-1.5点、3回転ジャンプは+2.1点から-2.1点で評価する。
スピンは+1.5点から-0.9点、ステップおよびコレオはレベルによるが+2.1点から-2.1点で評価する。
詳細はISU資料を参照。

各大会を比較すると、わずかなミスがあるものの、各エレメンツとも驚異の成功率、加点を獲得している。しかしまだまだメドベのGOE加点には届かない。今回ミスが無ければTESは43点だったのか。


ザギトワのフリー・プログラム

ChSq FCSp4 StSq4 / 3Lz+3Lo 2A+3T 3F(r)+2T(t)+2Lo(r) LSp4 3Lz(r) 3S 3F(r) 2A CCoSp4

ドン・キホーテ(継続)、所々手直しした版。
衣装は昨季と似ているが新調し、肩から胸へ襦袢ではなく肩紐にしてセクシー度がアップした衣装になった。Check It Out!

最初にコレオシーケンスを入れる構成は昨年12月のロシア選手権で披露している。個人的にはコレオやステップは中盤以降のほうが好みだが、ザギトワは美少女だからこの際目をつぶろう。
ジャンプは7つ全てを、基礎点が1.1倍になる後半に跳ぶのは昨年と変わらず。高難度ジャンプ3Lz+3Loも五輪開催年も引き続き挑戦。

前半のコレオ、スピン、ステップと3-3ジャンプは順調。
FCSp(ドーナツスピン)は回転も速くてよい。どうやらGOE満点の+1.50点のようだ。
テストスケートでは2A+3T(r)だったが、リッポンを止めてしまった。手を上げるジャンプといっても加点要素の条件のうちの1項目だったはず。LSp終了後は曲の転調まできちんと静止してほしい。今回3Lzは頑張ったが、ザギトワにしては珍しい。音に合わせてぽんぽんジャンプを跳んでゆく、タノにしない3Sから得意なフリップへ、2A、スピンをこなし演技終了後はかなりほっとした表情。

各所のポージングはあと1秒続けたほうが印象が良い。この点は世界ジュニアのほうが良かったか? (それでもPCSはかなり上がっている。)
3Lz、3Fは着氷後に勢いがあるわけではないが、ジャンプの軸がきれいで、(今回の3Lzを除き)加点されることが多い。3Lz、3Fをきちんと2回ずつ跳べる選手は素晴らしい。(メドベや真凜を批判しているわけではない)

後半怒涛のわんこそばプロを再び見れて良かった。

ジャンプ構成はシニア最高レベルで全て後半に跳び、スピン、ステップもレベル4を獲得、つなぎも密度が濃く、音に合わせた表現をする。今はここまでで精一杯。


新葉さん凄いプログラムでした。いつも通り3Lz+3Tを2回勢いよく跳んだ正統派であるのはもちろん、今回はステップが素晴らしい。ジャッジもレベル4、GOE+1.96と評価してる。松田悠良は初めて2A+3T+3Loをクリーンに跳んだのですね。カロの「脱ぎっぱ」もよかった。

本田真凜さんが出場したUSCIに比べて、ロンバルディア杯は上位6名に対して回転不足の判定は甘く(?)、全体の得点も少し甘いかもしれない。しかしショートのミスを引きずらずフリーで立て直して優勝してしまうシニア1年目のザギトワの精神力はさすがだ。


ザギトワのフリー・スケーティングのTESの比較

No.要素2017/9
ロンバル杯
2017/3
世界ジュニア
2016/12
ロシア選手権
2016/8
JGPフランス
LvBVGOELvBVGOELvBVGOELvBVGOE
1 ChSq 1 2.00 1.40   - - 1 2.00 1.20   - -
2 FCSp 4 3.20 1.50 4 3.20 1.00 4 3.20 0.79 4 3.20 1.00
3 StSq 4 3.90 1.54 4 3.90 1.30 3 3.30 0.64 3 3.30 1.00
4 3Lz+3Lo   12.21 1.40   12.21 1.00   12.21 0.90   12.21 0.10
5 2A+3T   8.36 0.98   8.36 1.20   8.36 0.90   8.36 0.30
6 3F+2T+2Lo   9.24 0.84   9.24 1.10   9.24 1.40   9.24 0.80
7 LSp 4 2.70 1.00 4 2.70 0.86 4 2.70 0.86 4 2.70 0.71
8 3Lz   6.60 0.84   6.60 1.50   6.60 1.60   6.60 1.40
9 3S   4.84 0.84   4.84 0.90   4.84 1.00 < 3.41 -0.90
10 3F   5.83 1.40   5.83 1.30   5.83 1.10   5.83 1.20
11 2A   3.63 0.60   3.63 0.57   3.63 0.50   3.63 0.50
12 CCoSp 4 3.50 1.30 4 3.50 1.07 4 3.50 1.00 4 3.50 0.79
小計   66.01 13.64   64.01 11.80   65.41 11.89   61.98 6.90
TES   79.65   75.81   77.30   68.88 
シニア仕様は、コレオシーケンスが追加されるため約3点ほど得点が高い。
黄色は後半。

GOE:
2Aは+1.5点から-1.5点、3回転ジャンプは+2.1点から-2.1点で評価する。
スピンは+1.5点から-0.9点、ステップおよびコレオはレベルによるが+2.1点から-2.1点で評価する。
詳細はISU資料を参照。

ザギトワのプロトコルはミスを表わす記号がほとんどなく見ていて気持ちよい。比較表を作る作業も楽だった。

今回は前半に加点が多く、FCSpが加点満点だった。ステップもレベルを落とすことはなくなった? 体の成長で跳べなくなるのではと思っている3Lz+3Loも、加点が増えてきている。中盤の3Fは得意なのだろう。2Aはいつも加点されるがそれほど高くはない。

個々のエレメンツの成否は各試合によって違うが、GOE合計は上昇しており全体的な完成度は高くなっているようだ。



総合得点のパーソナルベスト(PB)の世界ランキング(ISUWiki)

ランク名前所属得点大会名
1 E・メドベージェワ ロシア 241.31 2017 国別対抗戦
2 キム・ヨナ 韓国 228.56 2010 バンクーバー五輪
3 アデリナ・ソトニコワ ロシア 224.59 2014 ソチ五輪
4 アリーナ・ザギトワ ロシア 218.46 2017 CS ロンバルディア杯
5 宮原知子 日本 218.33 2016 グランプリ・ファイナル
6 三原舞依 日本 218.27 2017 国別対抗戦
8 樋口新葉 日本 217.63 2017 CS ロンバルディア杯
19 本田真凜 日本 201.61 2017 世界ジュニア選手権
- 本郷理華 日本 199.15 2016 世界選手権
- 松田悠良 日本 195.56 2017 CS ロンバルディア杯
- 坂本花織 日本 195.54 2017 世界ジュニア選手権
- 紀平梨花(Jr.) 日本 194.24 2016 JGPスロベニア
- 白岩優奈 日本 186.80 2015 JGPスペイン

ザギトワは世界歴代4位のスコア。FSも歴代4位。SPは歴代20位。
日本の選手は樋口新葉、松田悠良がPBを更新。2017年グランプリ・シリーズ出場予定の「7人の侍」に加えて、新たに松田悠良が五輪出場候補に名乗りを上げた。


GP中国杯で戦う4人(+α)のスコア内訳

名前大会総合得点SPFS
合計(BV)TESPCS合計(BV)TESPCS
ザギトワ 国内 221.21 74.26 34.37 40.88 33.38 146.95 65.41 77.30 69.65
ザギトワ ロ杯 218.46 71.29 34.97 40.65 31.64 147.17 66.01 79.65 67.52
樋口新葉 ロ杯 217.63 74.26 33.76 40.86 33.40 143.37 62.61 74.41 68.96
本田真凜 USIC 198.42 66.90 31.54 36.78 30.12 131.52 57.82 66.56 64.96
トゥクタミシェワ ロ杯 184.75 58.91 30.43 30.23 29.68 125.84 51.62 60.80 65.04
三原舞依 国内 200.52 68.44 31.76 37.84 30.60 132.08 62.12 69.16 63.92
松田悠良 ロ杯 195.56 65.62 33.84 37.30 28.32 129.94 61.80 68.50 61.44
メドベージェワ 国内 233.57 80.08 33.10 41.88 38.20 153.49 62.33 75.56 77.93
メドベージェワ WC 233.41 79.01 33.10 42.10 36.91 154.40 62.33 78.27 76.13
メドベージェワ WTT 241.31 80.85 33.10 43.14 37.71 160.46 62.33 82.40 78.06
国内
三原舞依は'17サマーカップ
ザギトワ、メドベージェワは'16ロシア選手権

メドベージェワ選手の得点が総合点、TES、PCSとも劇的に上昇する可能性は小さくなってきており、どの選手が(パーフェクトな演技をしたうえで)追い上げるかが気になるところ。メドベージェワは必ずしも技術基礎点(BV)が高くはない。本気でメドベに勝とうと思っている選手はザギトワと本田真凜だけなのか?


各選手のフリー・スケーティングのPCSの比較

名前大会PCS(PCS素点の内訳)
SSTRPECOIN
ザギトワ '16/12 ロシア選手権 69.65 8.71 8.61 8.82 8.64 8.75
ザギトワ '17/09 ロンバルディア杯 67.52 8.25 8.30 8.60 8.55 8.50
ザギトワ '17/03 世界ジュニア 62.21 7.75 7.54 7.82 7.89 7.89
ザギトワ '16/08 JGPフランス 57.42 7.14 7.04 7.14 7.21 7.36
本田真凜 '17/09 USIC 64.96 8.20 7.85 8.25 8.10 8.20
本田真凜 '17/03 世界ジュニア 62.58 7.96 7.54 7.93 7.75 7.93
三原舞依 '17/08 国内(サマーカップ) 63.92 8.05 7.85 8.05 8.00 8.00
三原舞依 '17/04 国別対抗戦 70.10 8.75 8.57 8.96 8.82 8.71
樋口新葉 '17/04 国別対抗戦 69.65 8.75 8.46 8.89 8.75 8.68
樋口新葉 '17/09 ロンバルディア杯 68.96 8.50 8.45 8.75 8.65 8.75
コストナー '17/09 ロンバルディア杯 71.12 8.90 8.70 8.85 8.95 9.05
メドベージェワ '15/03 世界ジュニア 59.21 7.46 7.18 7.54 7.36 7.46
メドベージェワ '15/10 GPアメリカ 67.16 8.36 8.11 8.43 8.50 8.57
メドベージェワ '16/03 世界選手権 72.34 8.89 8.79 9.21 9.04 9.29
メドベージェワ '16/12 ロシア選手権 77.93 9.68 9.57 9.89 9.75 9.82
メドベージェワ '17/03 世界選手権 76.13 9.43 9.25 9.68 9.54 9.68
メドベージェワ '17/04 国別対抗戦 78.06 9.61 9.50 10.00 9.79 9.89
PCSはPCS素点を1.6倍した数値の合計。満点は80点。

メドベージェワのジュニア最終年よりザギトワのジュニア最終年のほうがPCSは高かったが、シニア1年目の序盤はほぼ同じか。

世界ジュニア選手権から6か月でPCSは7.31点上昇し、各項目とも8点台、そのうち3つは8.5点以上となった。SS、TRはメドベージェワの例を見てもわかる通りすぐには上がらないかもしれない。

ザギトワのPCSが来年2月に72程度(?)に上昇したとしても、かなり厳しい戦いになりそうだ。

若手選手はTESを中心に各エレメンツの完成度を高め、その後スケーティング、ムーブメント、表現技術の完成度を高めていく方針は昔も今も変わらない。間に合えばメドベに競り勝つし、間に合わなければ負けるだけ。体型変化を考えるとザギトワにとってもこの五輪が唯一のチャンスかもしれない。15歳で金メダルを獲得したタラ・リピンスキー(1998長野)、リプニツカヤ(2014ソチ団体)に続く選手になる可能性は十分ある。JGPに出場しているジュニア選手と同様にこの年齢の選手は数か月で劇的な進歩をとげる可能性が高い。
五輪の試合当日2月21日まではあと5か月ある。人は成長する生物である。

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