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新司法試験平成18年度公法系第二問 最判平成20年11月25日 道路指定処分不存在確認訴訟事件

2012年04月07日 | 行政百選

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37036&hanreiKbn=02
事件番号 平成19(行ヒ)91
事件名 道路指定処分不存在確認請求事件
裁判年月日 平成20年11月25日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集等巻・号・頁 集民 第229号215頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所
原審事件番号 平成17(行コ)96
原審裁判年月日 平成18年12月19日
判示事項 建築基準法第3章の規定が適用されるに至った際,幅員4m未満の道のうち一方の端から特定の地点までの部分には現に建築物が立ち並んでいたが,同地点から他方の端までの部分には建築物が存在しなかった場合において,後者の部分が同法42条2項にいう現に建築物が立ち並んでいる道に当たらないとされた事例
裁判要旨 建築基準法第3章の規定が適用されるに至った際,A点からB点を経てC点に至る幅員4m未満の道のうち,A点からB点までの部分には現に建築物が立ち並んでいたが,B点からC点までの部分には建築物が存在しなかった場合において,次の(1),(2)などの判示の事実関係の下では,B点からC点までの部分は,同法42条2項にいう現に建築物が立ち並んでいる道に当たらない。
(1) A点からB点を経てC点に至る道は,A点及びC点を除き建築基準法42条1項所定の道路に接続する箇所はなかったが,B点から幅員4m未満の道が分岐し,これを経由して同項所定の道路に至ることも可能であった。
(2) B点からC点までの部分は,相当の長さ(約60m)を有していた。
参照法条 建築基準法42条2項
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081125143838.pdf

主文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人小野誠之,同高橋みどりの上告受理申立て理由第1点について
1 本件は,告示により一定の条件に合致する道が一括して建築基準法42条2
項所定の道路(以下「2項道路」という。)に指定されている京都市の区域内に土
地を所有している上告人が,2項道路の指定権限を有する特定行政庁である被上告
人に対し,上告人所有地に隣接する土地について2項道路の指定処分が存在しない
ことの確認を求めている事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人は,第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」とい
う。)を所有している。本件土地の西南に隣接する同目録2記載の土地(以下「本
件通路部分」という。)は,現在,第1審判決別紙図面2のa点からB点を経てC
点に至る市道の一部(C点側の端の部分)となっている。本件通路部分の幅員は約
2.2mであり,その西南には水路が存在する。なお,上記市道は,大正9年に旧
桂村において路線の認定がされ,昭和58年に市道として区域の決定及び供用の開
始がされたものである。
(2)ア京都市の区域(旧大枝村,旧京北町大字広河原及び旧大原野村の区域を
除く。以下同じ。)については,建築基準法第3章の規定は,昭和25年11月2
3日(以下「基準時」という。)から適用されている。
- 2 -
イ基準時当時の本件土地周辺の概況は,第1審判決別紙図面2のとおりである
(以下,同図面の地点については,単に「A点」などという。)。
基準時当時,A点からB点を経てC点に至る道(以下「本件道路」という。)
は,幅員4m未満1.8m以上の道であり,A点からB点までの部分には現に建築
物が立ち並んでいたが,本件通路部分が含まれるB点からC点までの部分の両側は
農地であり,建築物は存在しなかった。本件道路は,A点とC点で幅員4m以上の
建築基準法42条1項所定の道路(以下「1項道路」という。)に接続し,A点か
らC点までの間では,1項道路に接続する箇所はないが,B点から西方に向かう幅
員4m未満の道が分岐しており,B点からこの道を経由して1項道路に至ることも
可能であった。A点からB点までの道の長さとB点からC点までの道の長さを比較
すると,前者の方が長いものの,後者も相当の長さ(約60m)を有していた。
ウ基準時当時,本件道路及びその南方に連なるC点からD点までの道は,B点
の北側の集落とD点の南側の集落を結ぶ道路として,常時公衆の往来に利用されて
いた。
(3) 京都市の区域に係る特定行政庁であった京都府知事は,昭和25年12月
8日京都府告示第820号(以下「本件告示」という。)により,基準時現在,同
市の区域において,現に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満1.8m以上の道
で,袋路を除くものを一括して2項道路に指定した。
(4) 被上告人は,本件道路は,全体として基準時において現に建築物が立ち並
んでいる道に当たり,本件告示の要件を満たすから,本件通路部分は2項道路であ
る旨主張している。
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり述べて本件通路部分
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は2項道路に当たると判断し,上告人の請求を棄却すべきものとした。
(1) 道路とは一定の長さを持ったものであり,建築物が存在する前面部分のみ
ではなく,これと一体となって同一の効用のある部分にも,2項道路の指定があっ
たと見るべきである。そして,建築基準法は,建築物の立ち並んでいる道につい
て,原則としてその両端が同法上の道路に接続することを予定していると解される
から,上記の道路としての一体性,効用の同一性を判断するに当たっては,特別な
事情のない限り,その両端が他の同法上の道路に接続している最小区域が重要な判
断基準となる。
(2) 本件道路は,その両端において建築基準法上の道路に接続しており,その
間に同法上の道路に接続する箇所はないのであるから,上記の区間において道路と
しての一体性,効用の同一性があるということができ,基準時における本件道路の
利用状況等に照らしても,この判断を覆すに足りる事情は存しない。そうすると,
本件道路は,本件通路部分を含むその全体について,本件告示により2項道路とし
て指定されたものと認めるのが相当である。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1) 本件告示は,基準時現在,京都市の区域において現に建築物が立ち並んで
いる幅員4m未満1.8m以上の道で袋路を除くものを一括して2項道路に指定し
たものである。本件告示にいう現に建築物が立ち並んでいる道とは,2項道路の要
件を定めた建築基準法42条2項にいう現に建築物が立ち並んでいる道と同義をい
うものと解される。
2項道路の制度は,建築基準法第3章の規定が適用されるに至った際現に建築物
- 4 -
が立ち並んでいる幅員4m未満の道で特定行政庁の指定したものを1項道路とみな
すことにより,幅員4m未満の道に接する敷地上の既存建築物を救済するととも
に,原則としてその中心線からの水平距離2mの線をその道路の境界線とみなすこ
とにより,その境界線内の土地について道路内の建築制限(同法44条1項)を及
ぼし,将来的に幅員4mの道路を確保するという公益上の要請を満たそうとしたも
のである。
建築基準法上の道路については,これに接する敷地上の建築物の利用者の避難,
防災,衛生,通行の安全等に支障が生じないよう保障する機能を果たすことが期待
されているものであり,2項道路についてもこの点は同様であるが,ある道が上記
のような機能を果たし得るためには,必ずしもその道の両端が同法上の道路に接続
していることを要するものではなく,同法もそのことを2項道路の要件としている
ものではない。2項道路の指定は,上記のように,これにより新たに道路敷となる
土地の所有者等の権利を制限する側面を有しているのであるから,その要件該当性
を判断するに当たっては,現に建築物が立ち並んでいる道の範囲を必要以上に広く
とらえて関係者の権利を害することのないようにしなければならない。
(2) 前記事実関係等によれば,基準時当時,本件道路のうちA点からB点まで
の部分には現に建築物が立ち並んでいたが,B点からC点までの部分には建築物が
存在せず,また,本件道路は,A点及びC点を除き1項道路に接続する箇所はない
が,B点から西方に向かう幅員4m未満の道が分岐し,B点からこの道を経由して
1項道路に至ることも可能であったのであり,さらに,B点からC点までの道も相
当の長さ(約60m)を有していたというのである。
上記のような基準時における本件道路の状況にかんがみると,本件道路が全体と
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して基準時において現に建築物が立ち並んでいた道に当たると解するのは相当では
なく,B点からC点までの道については,基準時において現に建築物が立ち並んで
いた道に当たらないというべきである。本件道路が北側の集落と南側の集落を結ぶ
道路として常時公衆の往来に利用されていたことやB点からC点までの道が路線の
認定を受けた道路の一部であることは,上記の判断を左右するものではない。
(3) そうすると,本件通路部分については,本件告示により2項道路に指定さ
れたものということはできず,2項道路の指定処分は存在しないというべきであ
る。
5 以上によれば,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上告人の請求を
認容した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)