雨の灯台

ポケモン擬人化を取り扱っています。
参加企画関連の記事メインです。

命の天秤、君の想い

2009-07-31 09:27:36 | R.N!/SS
ふと、会話が途切れた。
クロチェがよく知る裏道をクラウに案内していた途中の事だ。
沈黙は特に気にならない。けれど急に心細くなって、クラウは繋いだ手に力をこめた。
最近、時々不安に襲われる。ひょっとしたら自分よりも先に、クロチェがいなくなるのではないかと。
人を助ける為であれば、何の躊躇いもなく身を危険にさらすから。
今隣にいても、次の瞬間には誰かを救う為に駆け出していなくなってしまうかもしれない。そんな思いに駆られて、気付けば口を開いていた。
「クロチェは、怖くないノ?」
人を助ける事で、自分が死んでしまうかもしれない事。そう問うと、クロチェは足を止めて少し言葉を探しながら答えた。
「……それは、怖いよ。死にかけた事があるから、すごく怖い。でも……死なれる怖さを感じる事の方が多いから。これ以上、死なせたくない」
だから、と続いた声にクラウは凍りついた。
「もし誰かを助けて、オレが死ぬとしても。その人が死なずに済むなら助ける。オレはそういう風にありたいと、思ってる」
他人の命が尽きるのを避けられるなら、引き替えに死ぬのも恐れないようにと。
「そんなの……っ」
「……ごめんね」
色をなくしたクラウにぽつりと謝る。
「ごめん、クラウ。でも……間に合わなくて、助けられなかった人がいるから。怖くて躊躇ったせいで、死なせてしまった人がいるから。……見殺しにした人が、いるから。自分を優先して助けないなんて事、出来ない。もう嫌なんだ、」
何かを押し殺したような声をこれ以上聞いていられないと、クラウがクロチェを遮ろうとした時。クロチェがそれより早く言葉を切り、ハッと視線を上げた。
突然の鋭い反応に驚いたクラウに体ごとぶつかって、華奢な体躯を突き飛ばす。
「!?」
何の構えもしていなかったクラウはその力をまともに受けて、すぐそばの枝分かれした道に倒れ込んだ。その瞬間、

パァン!

――銃声が響いた。
その音にクラウが飛び起きる間にも、更に連続する射撃音。
「クロチェ!!」
「来ちゃだめだ……っ!」
慌てて駆け寄ろうとするクラウを制止する。
クロチェはふらつきながら腹部を押さえていた。手を染めながらぱたぱたと地に落ちる、赤い液体。左腕は力なく降ろされ、肩からも同じものが伝っていた。足にも掠ったらしく滲むそれは、血。
飛び出してこようとするクラウに、クロチェは血相を変える。ほんの一瞬だけ背後に意識をやり、腹から手を離してクラウを路地に押しこんだ。今し方流れたばかりの血が触れた箇所に付着した。
同時に、自分の体で細い入り口を塞ぐようにする。
最後の銃声を、クラウは尻餅をつきながら聞いた。
「……っ!」
クロチェが表情を歪め、そのまま前に倒れこむ。
発砲はやんだようだが、クラウにそれを意識する余裕はない。
「クロチェ、クロチェ……!」
何度も呼びながら、倒れたままのクロチェを仰向けにさせる。胸に、撃ち抜かれた痕。
「……、……っ」
何かを言おうとして開いた口から出たのは言葉ではなく、血だった。
痛い。熱い。
けれどクロチェにとってそんな事はどうでもよくて。
(クラウ)
声が出ないのがもどかしい。
(そんな顔、しないで。どうしよう、伝え……ないと……)
次第に視界が霞んでいく。力の入らない手を懸命に持ち上げたが、クラウに届くより早く地に落ちてしまう。
せめて少しでも安心させようと微笑んだのを最後に、クロチェは意識を失った。

白く清潔なシーツに横たわるクロチェが目を覚ましたのは三日後の事だった。
「……、ん……」
まだはっきりしない視界に、クラウが飛びこんでくる。
「クロチェ! よかった……よかったぁ……」
安堵のあまり涙を零し始めたクラウを見て、一気に意識が引き戻された。
「クラウ、……ごめん」
「……タ」
「え?」
「……死んじゃうかと、思っタ……ッ」
ぼろぼろと泣きながら、クラウは今まで堪えていたものを吐き出していく。
「だってズット目覚ましてくれないし、あんな話した後だし……! このまま起きてくれなかったらって、すごく怖かったんダヨ!? ボクが助かっても、クロチェが死んじゃったら意味ないヨ……!!」
涙を拭おうともせずにしゃくりあげるクラウに、クロチェはおろおろと言葉をかけた。
「ご、ごめん……。最後、死なないってわかってたんだけど声が出なくて……」
「そういう問題じゃナイ!」
張りつめていた糸が切れ、段々と怒りに変わってきたらしい。
「何で何にも言わないで盾になったりしたのサ! 庇ってくれるのは嬉しいけど、一言言ってくれればボクだって何か出来たかもしれないノニ! 何で、いつも一人デ……っ」
声が詰まる。
いつもクロチェは匂いがすると一人でどうにかしようとする。今回だって、クラウには「来ちゃだめだ」と言っただけ。
クラウは転んだ時の擦り傷程度で済んだが、クロチェは四発の銃弾を受けた。足は掠めただけだったが、あとの三ヶ所は撃ち抜かれていた。
不幸中の幸いで致命傷ではなかったものの、あと少し弾道が逸れていれば死んでいてもおかしくなかった。
泣きながら怒られ、クロチェは自分のした事を省みる。
「……ごめん、クラウ」
(オレ、わかってなかったね)
自分の言動が、どれほど不安を与えるものだったかを。
「考えなしだった。ちゃんと想ってくれる人がいるのに」
ベッドに置かれていたクラウの手に、そっと手を重ねる。温かい、血の通っている手。
生きている人間の体温。
そうだ、ちゃんと知っている。

『匂いを感じられるのは、確かにクロチェしかいない。でもそれを伝えれば手を貸す人間が、ここにもう二人いるでしょう?』
『だから、一人で全て背負いこもうとするな』

一人じゃないと、そばにいると伝えてくれる人達を。知っている。
知っていたのに、いつしか頭の片隅に追いやってしまった。
もう助けてくれる両親はいないのだから、一人でやり通さなければいけない。
そう思いこんだ結果、クラウを傷付けた。
「ごめんね。もう一人で突っ走らない。匂いを感じたら伝えるから……手を、貸してね」
「……! ウン!」
大きく頷くクラウ。
(ああ、やっと)
笑ってくれた。
泣かせたり、怒らせたり、心配させたりしてばかりだったけど。
「ありがとう」
涙の跡が残ってはいても、それはクロチェが大好きな明るい笑顔。
クラウを遺して死ぬなんて、出来るはずもなかった。
「クラウが、オレの生きる理由だよ」


――――――――――
SS一つに一ヶ月って一体どういう事。
おはようございます、日月です←
クロクラシリアス上げました。
状況がきりん。さんのSSと似てしまってすみませんでした;

クロチェは「死を予知出来る以上、それを避けるのは知っている自分の責任」と思っています。
その責任を果たそうとするあまり、自分の身を省みない傾向が強いです。罪悪感や負い目がそれに拍車をかけたりもして。
自分をどうでもいいと思ってる訳ではないんですが、その場になると頭から吹っ飛んでしまうというか。
今回はそれを自覚する話でした。

タイトルは、一応どっち視点にも取れるようにしたつもりです。
天秤も想いも、命があるから存在するもの。

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