雨の灯台

ポケモン擬人化を取り扱っています。
参加企画関連の記事メインです。

【SS/CDD】朝をくれるのは

2011-01-01 23:55:16 | cdd/SS
セシリアさんお借りしました。
ラスセシの過去から未来。
昨日の内に上げられればよかったんですが、無理でした……。
長いです。



幼馴染の恋五題
見飽きた顔が愛おしい
きみの言葉で僕はいつも目を醒ます
素直になれるわけがない
今更そんなの有り得ない
どの面下げてそんなこと

お題をお借りしました。
リライト様
http://lonelylion.nobody.jp/
――――――――――



「ラス、起きて! もう図書館あいてるよ」
「んー……。おはよ、セシリア」
あれはいつのことだったか。
まだ俺が子供で、父さんも生きてて。
よくセシリアと一緒に図書館に行ってた頃。
虚弱体質の俺はあんま外で遊んだりしなかったから、じっとしてる時間のが長かった。
その時間は本読んだり研究したり。
よくセシリアが家まで迎えに来て、そん時寝てると軽く揺すられて起こされたっけ。
それから一緒に図書館行って、調べ物して。
もう二十年以上前の記憶。



「ラス、ラス……大丈夫? もう、ちゃんと寝てってあれほど言ったのに」
これは父さんが死んだあと、十何歳かの時だ。
俺は父さんの残した延命の研究を継いだ。
この頃から寝食がいい加減になってた気がする。
で、寝たのか意識失ったのかわかんねぇような状態から戻ってくると、セシリアにたしなめられた。
怒られる時もあったな。
けど結局、規則正しい生活をすることはなかった。
寝る時間も惜しかったんだ、父さんの研究を完成させなきゃって。
まあ、武器の研究もしてたけど。
あん時はほんとに研究しかやってなかった。
セシリアを省みたことなんて一度でもあったのか、自信がない。
身寄りのなくなった俺を心配してちょくちょく来てくれてたのにな。
覗き込んでた心配そうな顔、覚えてる。



二十歳になってサヴレを抜けた。
だから再会するまでの五年間、セシリアの記憶はない。



「    」
ロイの眼鏡野郎に半殺しにされた時。
正直、あの時セシリアがなんて言ってたか覚えてない。
意識朦朧としてたし、声だけぼんやり聞こえてたって状態だったから。
でも届いてた。
起きてからは痛みとか苛立ちでひでぇ態度とったけど、……ああ、マジでひどかったよな。
ごめん。
けど、起きる直前にさ。
ちゃんと聞こえてたんだ、セシリアの声。
それで自然と目を覚ました。
後から思い返して、ずいぶん久しぶりだったことに気付いたよ。
セシリアに起こされるの、昔は当たり前だったのにいつの間にか忘れてたって。
懐かしいな、って思った。
ぼーっとした意識にセシリアの声が聞こえてくる感覚。
それが心地よくて好きだった。
三十年近くかかってやっと気付いたなんて、なんつー間抜け加減だって自分でも嫌んなるけど。
ありがとな、あの時見つけてくれて、助けてくれて。
感謝してる。



それから、……まあ、色々あって。



「ラス、今日はとってもいい天気よ。風も気持ちいいし……」
目を覚ます。
ぼやけた視界が最初に捉えるのは、やっぱセシリアの姿。
「おはよう、ラス」
瞬きすると、声をかけながら微笑んでくれたのがわかる。
窓からさす光で部屋全体が明るい。風が吹いてカーテンが揺れた。
「おはよ。……いい天気だな」
笑い返して言うと、セシリアは嬉しそうにする。返事がもらえたみたいだとか思ってるんだろう。
「聞いてたよ」
「え?」
「いい天気だって言ったの、聞こえてたよ。……セシリアの声はちゃんと聞いてる」
そう言うと、赤くなって柔らかく笑うセシリア。
ああ、何か今、すげぇ抱きしめたい。
腕にぐっと力を入れて体を起こす。
まだ、上体を起こすくらいは自分で出来る。だから出来ることは、出来る内に。
「ラ、ラス……?」
抱き寄せたら、セシリアはびっくりしたみたいだった。あとちょっと照れてる。
かわいいなぁと思って頭を撫でる。
しばらくそうしてて、半分無意識に呟く。
「……夢を見てた」
「夢って、どんな……?」
「今までのアルバムみてぇな夢だったよ」
「アルバム?」
「ああ。今までさ……幸せだったなって、思い出してた」
「今、は?」
腕の中でセシリアが動いて、目が合う。
「今もに決まってんだろ。……夢の中、必ずお前がいたんだから。好きだよ、セシリア」
「ラス……! 私も、大好き……っ」
少しセシリアの声が震える。
泣くなよってまた撫でたら、潤んだ目で、でも笑ってくれた。
「ラス、ありがとう。すごく嬉しいわ」
そう言って。
なあ、知らないだろ? お前に呼んでもらえるのが、どんなに嬉しいか。
それを伝えたくて、伝えられる言葉を探して口を開く。



セシリアが呼んでくれれば、たとえ死にかけてたって目を開けられる気がする。
だから呼んでくれ、何度でも。
俺は目を覚まして答えるから。

【SS/CDD】食む唇は失われた

2010-06-03 23:59:04 | cdd/SS
ばさ、と花束を放る。
墓前には不釣り合いな程鮮やかな彩り。
「姉貴、この花好きだったろ。だから持ってきてやった。なあ姉貴」
地に膝をついて、墓標に目線を合わせるようにする。
「姉貴の好きなものなら何でも知ってる。嫌いなものももちろん知ってる。……なのに」
何で俺じゃだめなんだ。
乾いた唇を動かす。
「誰よりも姉貴を見てたのは俺だ、誰よりも姉貴を知ってたのは俺だ、誰よりも姉貴を思ってたのは俺だ間違ってもあいつなんかじゃない」
ここに来る度言う事をまた今日も繰り返す。
「あいつには姉貴の相手無理だっただろ務まらなかっただろ、俺なら姉貴を死なせたりしなかった……」
重い溜息を吐き出して、言葉を止めた。
衝動でも激情でもなく、ただ静かに、唇を墓標に押し当てる。
本当は生身の彼女と交わしたかったキス。
今となっては冷たい感触しか返らない。
――虚しいだけだ。
その空虚さに耐えかねたように口を離す。
重い腰を上げて、立ち去りかけて足を止めた。
背後の墓をちらりと見て呟く。
「姉貴が望んでくれたなら、手でも足でも差し出したのに」
何一つ望んではくれなかったと、苦い気持ちをにじませて。



――――――――――
珍しく突発的に浮かんだイメージを文にしきれました。
何か無性に、墓標にキスするナタルが書きたかったんです←
あと「望んでくれたなら」の台詞。
あれは比喩とかじゃないです、本気で言葉の通り。
何も望んでくれない相手に対してそう思い続けたあたりは純粋な片思いなんだなーと思う。
価値観とかそういうのがちょっと狂っちゃってるけど。
まあそれ差し引いてもお姉さん関係はナタルのくせに切ないな……←
一欠片も報われない思いは行き場をなくす。