コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第七話(58) 黄金の雷

2007-02-23 18:23:51 | 黄金の雷
「コイユールと、申したね」
コイユールは、呆然と眼前の若者に頷いた。
「わたしは、ロレンソ。
アンドレスとは、クスコの神学校時代から朋友の間柄。
あの者がいない今、わたしが代わりに、そなたをお守りせねばと思っていたが…――アンドレスは、今もそなたの傍で、そなたを守り続けているようだね」

ロレンソはそう言って微笑み、今も、しっかりとコイユールの手の中にある短剣に視線を走らせた。
「それは王家の者のみが持つ短剣。
遠征中のアンドレスが、傍でそなたを守れぬ彼自身の代わりに、そなたの護身をその短剣に託したのであろう」

コイユールは、ハッとして短剣を改めて見下ろした。
(あ…!!
この短剣は、そうだわ…あの別れの時、アンドレスが渡してくれた…――!)
彼女の脳裏に、かつてアンドレスと交わした言葉が鮮明に甦る。

『コイユール…君が、この短剣を使わねばならぬような状況にならぬことを、俺は、心から祈っている。
だけど、この戦乱の中では何が起こるかわからない。
俺が傍にいれば、君に何か起こりそうになれば、迷いなく、俺はその敵を討つだろう。
だが、俺は、傍にはいられない。
その短剣は、俺の分身だ。
だから、そういう事態になったら、俺が躊躇なく敵を討つと言った言葉通り、迷わず、敵の胸を突け。
いいね。
一秒でも間を置けば全てを失う。
だから、一瞬も躊躇(ためら)ってはいけない。
コイユール、君が殺(や)るのではない。
俺が殺るのだ!
コイユール』

(アンドレス…――!!)
込み上げる涙を拭くことも忘れて短剣を抱き締めるコイユールに、ロレンソは、もう一度、微笑み返した。
「囚われたとはいえ、トゥパク・アマル様は、まだ生きておられるはず。
トゥパク・アマル様には、そなたのアンドレスもいるし、インカ軍も全滅させられたわけではない。
決して、希望を捨ててはいけない!
わかったね?」
短剣を胸に抱いたまま、激しく瞳を揺らし、それでも、懸命に頷こうとしているコイユールを暫し目を細めて見守った後、ロレンソは再び戦場へと姿を消した。


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