コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第七話(49) 黄金の雷

2007-02-14 21:09:55 | 黄金の雷
この期に及んでは、なおのこと、万一の時など考えられぬ!!
負けるなど、絶対にあってはならぬこと…――!!
必ずや勝利し、夫トゥパク・アマルを奪還し、インカの民の独立を果たさねば!!
ミカエラの恐ろしいほどに険しくなった瞳は、そう強く訴えながら、これまで以上の焔を燃え上がらせている。

ディエゴは跪いたまま、ミカエラの方にその巨体を乗り出した。
そして、真正面から、彼女の激しい表情を見据える。
「わかっております。
ミカエラ様のお言葉は、トゥパク・アマル様のお言葉でもありましょう。
ですが、この自分には、トゥパク・アマル様に代わって、あなた様やご子息様たちのお命を確実に守る義務があるのです!!」

有無を言わさぬ鬼気迫る厳しさで直近までディエゴに迫られながら、それでも、ミカエラは、まだ、あの挑むような険しい眼(まなこ)で相手を見返している。
「ディエゴ殿!!」
「ミカエラ様」
ディエゴは、きっぱりとミカエラの言葉を制し、太く、低く、噛み含めるように言う。

「ミカエラ様。
もはや、トゥパク・アマル様が囚われたことを、インカ軍の殆どの兵たちは知ってしまっております。
兵たちが、どれほどトゥパク・アマル様を深く敬愛していたか、一番、よく存じているのはミカエラ様でありましょう!!
そんな兵たちのこと…もはや、正気を失うほどに猛り狂い、興奮しており、味方とはいえ、何を仕出かすかも分からぬ状態なのです。
常軌を逸した集団が戦(いくさ)に臨む、その危険は、ミカエラ様ならば、重々お分かりになるはず。
まさに、敵が狙っているのは、そこなのです。
トゥパク・アマル様を捕えた、敵の戦略…――それは、我が軍の自滅を狙ってのことでありましょう!!」
「ディエゴ殿…――」

遠征中のトゥパク・アマルに代わって、反乱幕開け以来、このトゥンガスカのインカ軍本陣を統率してきたミカエラは、これまでの戦況を見てくる中で、既に集団心理にも精通していた。
不意に思慮深い眼差しになったミカエラの表情に、ディエゴは、再び、深く頷き返す。
「ミカエラ様、あくまで、万一の時として、お聞きください。
万一、我々が此度の決戦で敗れれば、トゥパク・アマル様が囚われた今、敵が次に狙ってくるのは、あなた様と、そして、ご子息様たちでありましょう。
この決戦に勝てればそれで良いが…。
ですが、申し上げたごとくの最悪の事態に備えておくことも、今の状況では必要かと……!」

これまで見たことも無いほどの険しく真剣なディエゴの面持ちを、ミカエラは、その女神像のように美しい目を、いっそう鋭く細めて見つめていたが、やがて目を伏せるようにして、頷いた。
「わかりました…。
息子たちと共に、わたくしも、立ち退(の)く準備をいたします……」
その声音は、押し込めきれぬ激しい苦渋に満ちている。
血が滲むほどに、きつく噛み締めたミカエラの唇が、明らかに震えている。
ディエゴも非常に苦しげな面差しで、しかし、「そのように…ミカエラ様」と、深く礼を払った。


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