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【書評】「わかりあえないことから ― コミュニケーション能力とは何か」

2013年07月07日 | 書評

コミュニケーション能力とは何か、そして、どのようなコミュニケーションであれば「良い」と言えるのか。平田オリザさんの新書「わかりあえないことから ― コミュニケーション能力とは何か」は、サイエンスコミュニケータを名乗っている身としてとても気になるテーマであり、最初は、読み始めるのがちょっと怖いくらいでした。

            

本書で平田さんは、一貫して「わかりあえないところから出発するコミュニケーションの必要性」について論じています。これまでの日本は「わかりあう文化・察しあう文化」でしたが、異なる価値観と隣り合わせになる機会が増えるこれからは、「説明しあう文化」と「対話の基礎体力」が必要だといいます。私にとっては、初めて自覚することばかりでした。

「わかりあえない」ことを前提に、物怖じせず、互いにわかりあえる部分を見つけ 出していく営み・・・考えてみれば、私たちサイエンスコミュニケータがサイエンスカフェの司会を務める際にも、これは欠かせない能力だと気づきました。

            

サイエンスカフェという科学者と参加者が対等な立場でおしゃべりする場には、多様な価値観の市民が集まります。科学者と参加者との会話をファシリテートする私たちにとって、打ち解けた雰囲気を作ることは簡単でも、他者の意見に対して異論や疑問をもったときにそれを口に出すのはなかなか難しいもの。自主性をもって意見することが、ある意味、輪を乱すように感じられるからでしょう。

それでも平田さんは、「心からわかりあえないんだよ、初めからは」「説明しあいながら、粘り強くわかりあえる部分を見つけ出していこう」と説きます。個人の考えがバラバラになっていくなかで、今後さらに、「対話を通じて、どうにかしてうまくやっていく能力」が求められるからです。

協調性から社交性へ。わかりあえないながらも、少しでも共有でき る部分を見つけたときの喜び。私も、これこそがコミュニケーションの難しさと楽しさだと感じます。周囲と意見が食い違ってもいい、浮いていてもいい。粘り 強く、説明しあっていこう・・・。

            

読み終える頃には、平田さんのコミュニケーション論に納得するだけでなく、これから自分たちがコミュニケーションの場を提供していくことに対する「使命感」 と「ワクワク感」を新たにできました。素敵だなぁ、と感じるたびにページの角を折っていたら、読み終える頃には、買ったときよりもだいぶ厚い本になってしまいました。

「伝わらない」ことで悔しい想いをしたことがある人ほど、きっと、平田さんに背中を押してもらえるはずです。

 

記事執筆: 蓑田 裕美

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今回ご紹介した本は・・・

書名: わかりあえないことから ── コミュニケーション能力とは何か

著者: 平田オリザ(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)

出版社: 講談社(講談社現代新書)

定価: 本体740円(税別)

発行: 2012年10月

http://www.amazon.co.jp/dp/4062881772

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