マンガのプロ【プロデビューまでの道のり編】

日々のマンガ制作状況や同人活動などを、その日起こった事の傍ら綴って行きたいと思います(日々の出来事がメインなのか?)。

つきおちる午前五時

2005年08月19日 12時59分20秒 | シナリオ

 ハローハローCQCQ、なんつって。
 というわけで(どんな訳で?)、今日でこのブログの更新も最後となりました!まぁ、最後なのはこのブログだけではないですが・・・。
 いやしかし、この一週間ほどはほんとに暇でしたなあ!もう、テレビも新聞も雑誌も、ありとあらゆるメディアが完全に沈黙してしまいましたから。
 もうほんと、ジャンプの続きが読めないのだけが心残りです。あー!めちゃめちゃ気になるぅー!

 ----そこまで書いて、俺、模波悠汰はキーボードを叩く手を止めた。
 天井を見上げながら一息つく、もう、特に書くようなことは無かった。それに、そもそもこの後に及んでまだインターネットなどをやっているような人間が居るとも思えなかった。
 じゃあ何故、ブログの更新なんぞを自分はやっているのか、少しは疑問にも感じたが。まぁ、週間と言う奴だろうか、やり残した事があるわけでも無し、問題は無い。

 俺は椅子から立ち上がり、窓を開けてベランダに出る。
 外は静かだ、静か過ぎる。
 夜空を見上げる、しかしそこには夜空は存在しなかった。あるのは上空に浮かぶ巨大な岩の塊。
 月である。
 三日月型の日向と夜空よりもさらに暗い日陰の部分がはっきり見て取れる。
 事の始まりは38日前、政府はASNAが「月が軌道上から外れ、地球の重力によって月が吸い寄せられ、地球と衝突する。その威力は地球を破壊し、人類を滅亡させるには十分の破壊力がある」と言う調査結果の報告をテレビ中継で放送した。
 その時、総理大臣さんは(はたしてその時、中継に出てたのが総理大臣だったかは、記憶が確かでは無い為思い出せないが)ものすごくまじめに話していたし、確かな証拠も出して話していたのだが、ほとんどの人間はいつも通りの生活をしていた。
 実に落ち着いた、紳士のような態度である。
が、しかし。そんな落ち着いた態度でいられたのも、発表から二週間ほどの期間であった。
 徐々に近づいてくる月を見て次第に人々は混乱して行ったのである。
 なんとも、恐れ多い事にほとんどの人間はNASAの発表を信じていなかっただけのだった!
 あぁ、期間限定の落ち着きよ・・・さようなら。
 それからと言うもの、人々の荒れようと言ったら、酷いの一言に尽きるような行いばかりだった。
 様々な犯罪が発生したのだ、窃盗、強盗、レイプ、殺人。日本の・・・つーか、世界中の治安は、よくここまで来たもんだぁ、と言わんばかりに悪くなった。
 しかし、それも最初の四日間くらいまでだった。これから全人類が死ぬと言うのに、今から悪い事をしたって意味なんか無いって事に気がついたんでしょう。
 よくぞ気づいた!その潔さこそが人類の未来に引き継がれるべき宝なのだ!・・・もう人類に未来は無いけどね。
 それからと言うもの、全世界の薬局などでは睡眠薬がバカ売れしたらしい、と言っても売っていたのは最初だけで、その後政府から効き目抜群の睡眠薬が配布された。これは月が落ちてくる瞬間は眠ってやり過ごそうと言う、ある意味での安楽死の方法であった。
 中には、落ちてくる月をこの目で見届けてやる、なんて言う天体観測バカもいたようだが・・・ま、好きにすれば、って感じ。
 そんなこんなで、全人類は混乱と死の恐怖に彩られた一カ月を過ごしたのであった。
 寒くなったので、俺は部屋にもどってブログの更新の続きを始める。

 ----ただ今の時刻は23時46分。NASAの見立てでは、月が落ちてくるのは明日の五月五日午前五時らしいぞ(なんの偶然か)。
 つまり、あと五時間ちょっとで人類は滅亡するのだなぁしみじみ(いうとる場合か!)。
 と言うか・・・何も日本の真上に落ちてこなくても良かったんじゃないのか?良いよなぁ!日本の裏側に住んでる人は!もしかしたら地球最後の人類になれるかもしれないんだからさ!カッコいいよな「地球最後の人類」って言う肩書。もっとも、ほんの一瞬だけだろうけど。まぁいいや、俺は薬を飲んでぐっすり安楽死さ。そうそう、薬と言えば、配られた睡眠薬は効き目が出るのに十分くらいかかるんだって。
 つまり激突の十分前までは起きていられるってことだね。でもな、もし何かの間違えで激突の瞬間までに眠れなかったら悲惨だわな。みんな気をつけよう!ところで、月が近づいてきた時は我々にかかる重力の影響はどうなるのだろうか?なかなかサイエンスな疑問だ。いずれ分かるだろうけど、俺は寝ます。

 ----そこまで書いていると、家の中に玄関のチャイムが鳴り響いた。
 玄関をあけるとそこには隣の部屋に住んでいる、園多音音(そのたねおん)さんだった。
 音音さんは俺と同じ大学に通う大学生で学科は異なるが、お隣さんと言う事もあって、よく夕食をご馳走になったりしていた。
 「こんばんちは」
 彼女は元気良く敬礼のポーズであいさつをした。
 「こんばんちは、あれ?実家に帰らなかったんですか?」
 「うん、もう飛行機も電車も無いしね」
 彼女は靴を脱いで上がり、奥の部屋に進む、俺もその後に続いた。
 「家族とか友達に連絡はしたんですか?」
 「ん?うん。したした、もうオッケイってなもんや」
 音音さんはベッドの上に腰掛ける。
 「軽いノリですね、あと五時間くらいで月がおっこちてくるのに」
 「あはは、こんだけ絶対不可避な災害じゃね、逆にハイになるわ。」
 彼女はそこでまた、わははと笑った。
 「モナミィは?家族とか心配してるんじゃないの?」
 「ええ、俺の実家は北海道なんですけど、帰り損ねました」
 「実はさ、さっきレンタルショップからDVDを拝借してきたんだ。店には誰も居なかったんだけど、お金を払わないで持ち出す時はなんかドキドキしたわぁ」
彼女は自分の胸を押さえて深呼吸をするジェスチャをした。
 「なにを持ってきたんですか?」
 「タイタニック」
 ソフトケースに入ったディスクをひらひらと見せる。
 「うわぁ・・・」
 俺は思わずため息を漏らしてしまった。彼女は頬をふくらまし不機嫌そうな表情をした。
 「あんねぇ、私だって・・・そりゃ、たまには、一生に一度、気まぐれに、魔が刺すと言うか、天変地異が起こるくらいの確立で、まあ今まさに起こってるけど・・・とにかく、好きな人とメロなラブドラマを見て見たいと思う事が思うわけですよ。コレが」
 「なんか、文章おかしいけど」
 「じゃかしい、見るのか見んのか、どっちじゃコラ」
 「へえ見ます」
 俺は音音さんからDVD受け取って、プレイヤーに入れて再生した。
 それから俺達は黙って映画を鑑賞した。
 ふたり並んで最後の映画鑑賞。
 数時間だけ俺達は死の恐怖から離脱した。ほんの数時間だけ。
 「薬は・・・飲んだ?」
 「うん」
 二人はベッドの中で並んで寝ていた。
 残りの時間は少ない。
 「我々は・・・明日の朝日を拝む事ができるのだろうか・・・」
 「だから無理だって」
 くすくすと笑った。
 「不思議だなぁ、これきりで俺達もう死んでしまうなんて」
 「あそう、外見てみ。お月さんがえらい事になってんで」
 音音さんは窓を指さす。
 「なんか・・・もう眠くなってきた」
 「俺も」
 「もう少し、君の顔を見ていたい」
 「うん」
 「最後に一緒にいれてよかったよ」
 「俺も」
 「好きだ」
 「うん」
 「君、『うん』か『俺も』しか言えへんのかいな」
 「うん」
 「ばかたれ」
 そう言うと音音さんは俺の胸に顔を埋めた。
 「もう少し俺の顔を見てるんじゃなかったの?」
 「・・・」
 「なんだ、もう寝てるのか」
 彼女は静かな寝息をたてて寝ていた。とても死に向かう顔には見えなかった。
 安らかな、寝顔。
 「俺も好きです」
 結局、ブログの更新はしなかった。

 ―――――76時間後。

 とある空間。真白い背景が続く。一匹のポメラニアン。どこからか、二人の話声がする。
 「どうだった?夏休みの自由研究は」
 「うん、結構上々だよ!これは先生にほめられるって確信したね」
 「うぬぼれるな小僧。でどんな内容だっけ?」
 「えっと、地球に月が激突した際のエネルギィの観測。地殻津波がすごかった。あと、月を軌道上から外して地球にぶつけるのに苦労した」
 「へぇ、エネルギィ観測か。お父さんもやった事あるよ、そう言うの、ガス状の天体に火を入れて爆発させたり」
 「あ、それ面白そう、僕も木星でやってみようかな」
 二人の話し合いは続く、ポメラニアンの目には二人の姿が映り込む。異形の姿が。


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