マンガのプロ【プロデビューまでの道のり編】

日々のマンガ制作状況や同人活動などを、その日起こった事の傍ら綴って行きたいと思います(日々の出来事がメインなのか?)。

妄想プロローグ

2009年04月01日 23時59分26秒 | シナリオ
一日

 午前五時起床。今日もバイト。バイトも、もう一週間、連続で出ているので、さすがに起きるときは体が疲れている。気温もそれほど高くない、だけど雨が降っていて、少し憂鬱だ。

 出掛ける準備を整えて、家を出る。駅までの十五分間の道のり、雨を避けるように傘を広げて歩く。曇り空を、大きな傘が覆い隠すから、僕は自然と、地面へ視線を落とす。地面に当たって弾けた雨粒が、僕の足を少しづつ濡らしていく。僕は、それをジッと見た。まるで、日々の生活に、少しづつ染み込む、摩擦を見ているかのような、感覚。

 そこで、僕の思考は、軽い衝撃と共に中断された。人がぶつかってきたのだ。衝撃で、普段からの僕の気持ちみたいに、緩んでいた眼鏡が地面へ落ちた。

 「あっ」と言う、高くて、小さな声が聞こえた。軽くて重力を感じさせない、声質だった。僕は反射的に声のした方を見た。しかし、僕の視力の90%を担う、眼鏡は地面に落ちて、仕事を放棄している。だから、僕は正面にいる人の顔を、ぼんやりとしか確認できなかった。紙が長くて、少しウェーブが効いている。赤いコートを着た、たぶん、女性。小雨だからか、傘をさしていない。 

 『ごめんなさい!』

 僕と彼女は、同時にそう口にした。僕は一瞬シンクロナイスドスイミングを、イメージしたけど、口に出すのは止めておいた。そんな事言ったら、きっと人格を疑われるかもしれない。たぶん、正しい判断だと、自分に下した。

 「わたし、よそ見してました。すいません」

 彼女は申し訳なさそうに、そう言った。よそ見をしていたのは、僕も同じなので、そんなことを言われると、僕の方こそ、悪い気がしてくる。

 「いえ、僕の方こそ、よそ見を…」

 僕がそこまで言った時、足元で何かが割れるような、軽い破裂音がした。この人にぶつかるまで、地面を見ていたので、分かっていたのだけど、僕が観測した限りじゃ、そんな音がするような物は、落ちていなかったと思う。以上の境界条件から弾き出される結果を、僕は瞬時に理解した。ぼんやりして良く見えないけれど、たぶん、ぶつかってきた女性の足の下にあるのは、僕の安い眼鏡だ。仕事を放棄した報いが来たのだろう、労働の尊さを知るが良い。眼鏡よ。

 「あぁっ!ご、ごめんなさい!」

 そう言って、彼女はふんずけていた、眼鏡を拾い上げた。レンズはヒビが入り、フレームはくしゃんと、歪んでいる。蘇生不可能、ご愁傷さま。僕が心の中で合掌を挙げていると、女性は、頭を下げて謝る。

 「その弁償します!」

 そこで、彼女が近寄ってきた。予想以上に美人だった。うわ…ちょっと、どきどき。
 
 「いや、別に構いませんよ。それ、安物だし、もう度が合ってなかったですし」

 「駄目です!安くても、弁償はさせてください。そうだ」

 そこまで、言って女性は小さなバックから一枚の紙を取りだし、僕の手を取って、その紙を握らせた。その手はひんやりと冷たく、柔らかな感触だった。そして、僕は受け取った紙を見る。普段、そう言った物に無縁な僕はそれが何か一瞬解らなかったけど、すぐに名刺なのだと気づいた。しかし、名刺と言うには情報が少なかった。名前と携帯電話の番号。それだけ。

 「あなたの電話番号も教えていただけませんか?」

 ぼくは、はっきり断ろうとしたが、どうした事か、急に気分が変わり、ポケットに手を突っ込んで、携帯を取り出していた。正直自分でもびっくりした。

 「えっと、これです」

 携帯の液晶を女性へ向けて、見せる。

 「わかりました。わたしから連絡を入れますので、都合の良い日はありますか?」

 「あ、いや、夕方以降ならいつでも…」

 「では、今日にでも、連絡しますね。本当にごめんなさい」

 彼女は笑顔でそう言った、かもしれない。良く見えなかった。…ちくしょう。

 「いえいえ、こちらこそ」

 彼女は坂道を駆け出した。そんなに速度を上げたら、コーナでアンダーステアになって、壁にぶつかるぞ、と思ったけれど、僕は口にしなかった。変な人と思われたくなかったからだ。どうして、そう思ったのかは分からない。彼女に嫌われたくないのだろうか?僕は。

 ふと、右手を見る。そこにはまだ、彼女の冷たい指の感触が残っているような気がした。そして、いつもより鼓動が速い。きっと坂道のせいではないだろう。だって下りだし。

 僕は改めて、坂道を下る。いつも乗っている電車には間に合わないだろう。だけど、特に気にならなかった。そう言えば、いつの間にか、雨による憂鬱も無くなっていた。むしろ、ワクワクしている。

 そして、僕は携帯を見た。

 「夕方の予定は空けておかないと」




 



 と言う、嘘を思い付いたので、書いてみたけれど、どう見ても、ただの妄想か虚構にしかならなかった(所要時間三十分)。ま、エイプリルフールって事で。

 バイトなのは本当。今日は早く終わったので、実家に寄って、デジタルカメラを回収。桜を撮ろうかと。家に帰ってからは、落書き。そして就寝。そんな一日。




 ↓こんな嘘、悲しくなるだけですよ。
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てざわりあるみにうむ

2005年08月19日 13時22分48秒 | シナリオ

 深津深弥は隣の席に座る、冠座此穂乃花を見ていた。冠座此 穂乃花は、深弥から見て周囲から浮いた存在に見えた。クラスの人間とよく話しているところを見ると、一見愛想よくみんなと話していても、どこか他人と一線を引いていると深弥は思った、だがそれも、よく注意しながら見ていないと判らない位の感じだ。
 誰かと仲よく話していても、冠座此穂乃花が教室の外で誰かと一緒にいるところを、深弥は見たことが無かった。
 昼休みはいつも校内の図書室にいるし、授業が終わればすぐさま家に帰る。
 実は、深弥は以前に偶然冠座此穂乃花が図書室にいる所を発見し、冠座此にいくつか質問したことがあった。
 「冠座此さんって帰宅部だよね?友達と遊びに行ったりしないの?」
 「えぇ、一人でいるのが好きだから、ほとんど無いわね」
 冠座此は手にもつ文庫の小説に目を落としながらこたえた。
 「へぇ、やぱっり」
 「やっぱりって?」
 穂乃花は深弥を見て首を傾げた。
 「いや、なんとなくそんな感じがして・・・孤独が好きなんだ?」
 「深津君は孤独が嫌い?」
 「どうだろう、でもさみんなと話していると楽しいとは思うよ」
 「孤独がさみしいなんて、誰が決めたのかしらね?」
 「え?」冠座此はつぶやくような小声で言ったので、深弥は聞き取れなかった。 
 「ううん、なでもない。独り言」
 「みんなでワイワイ騒ぐのが好きな人がいるように、一人でゆっくり過ごすのが好きな人もいると言うだけの話よ、深津君」ゆっくりと深弥の方を向いて、微笑みながら冠座此は答えた。
 「でも、教室ではみんといるよね?」
 「そう、教室ではなるべく話し掛けられたら答えるようにしているし、自分からも話し掛けるようにしているの。教室内で孤立するにはそれなりに労力がいるし、リスクも高い」
 「リスクって?」
 「出た杭は打たれやすい、私、これでも協調性は重んじる方なのよ」
 「あぁ、いじめとか、ね。じゃあ、今も?」
 冠座此はまた小説に目を落とし、答えた。
 「そう、協調性豊かでしょ?」
 「たしかに」
 深弥はそれ以上の質問を止め、図書室を後にしたのだった。

 そんなことを思い出しながら、深弥は授業中に冠座此の横顔を盗み見ていた。穂乃花の視線が黒板の内容を書き写していたノートから深弥の方へ移動した、穂乃花と目があった深弥はとっさに視線を前にそらした。

 その後、深弥は一週間に一度くらいのペースで図書室を訪れ、穂乃花とたわいの無い話をするようになった。
 「最近良く会うわね」
 「部室に行く途中に図書館があるからね、部室と言っても美術室だけど」
 「それ、答えになっていないわ」穂乃花はクスリと口の端を上げた。深弥は話題変える。
 「最近は放課後も図書室にいるね、どうして?」
 「本を読むためよ、ここは図書室だもの」
 「えーと、そうじゃなくて、前までは昼休みの時にしかいなかったじゃない」
 「今続き物の小説を読んでいるの。借りて帰るのは手続きが面倒だし、持って帰るのも重いし、だからここで読んで行くの」
 「ジャンルは?」
 「ミステリィ」
 「推理か、むずかしそうだ」深弥は眉間に皺を寄せて言った。
 「そんなこと無いわ、別に推理しながら読まなくても、自然に答えは出るもの」
 「ふ~ん」
 穂乃花は黙り込んで小説を読み始めた。
 「さて、そろそろ行こうかな」
 穂乃花はちらりと視線だけ深弥に移し、「さよなら」と、一言いって。読書に没頭した。
 深弥はこれ以上邪魔をしては悪いと思い、図書室から出る。そう思うなら最初から行かなきゃ良いのに、と自分で思った。
 毎回十分程度。そんなことを何度も繰り返していた。

 それからすぐに、学校は夏休みに入り、学校に行く機会はすくなくなり、深弥は穂乃花に会う回数は、ぐんと少なくなった。だが、深弥は部活で学校に行った時はかならず図書室に顔を出した。
 穂乃花がいるかもしれないと思ったからだ、いたからって別に用があった訳ではなかったが、特に理由もなく深弥は図書室に顔を出した。
 穂乃花がいない時もあったが、いることの方が多かった。
 「夏休みなのに良く来るね?」深弥は後ろから穂乃花に声をかけた、穂乃花はゆっくりと振り返る。その仕草は姿勢良く、凛としていてどこか美しかった。
 「おはよう、深津君。私、夏休み中に百冊は読もうと思って」
 「そんなに?もうそろそろここにある本は全部読んでしまうんじゃない?」
 「そんな訳無いでしょ、何冊あると思ってるの?」
「うん、もちろん冗談」
 「深津君は部活?」
 穂乃花は首を傾げながら聞いた。
 「そう、夏休み中に今描いている油絵を完成させようと思っているんだ」
 「ああ、深津君美術部だっけ?油絵を描いているんだ?今度見せてよ?」
 「それは構わないけど、冠座此さん絵に興味なんかあったの?」
 意外な申し出に深弥は驚いた。
 「いいえ、全然」
 穂乃花はくすくすと笑いながら首を横に一往復させた。
 「なんだ、冗談なの?分かりずらいなぁ、君の冗談」
 「いえ、絵画には興味ないけど、深津君が描いた物なら見てみたいわ」
 「困ったな、もしかして期待されてる?」
 深弥はしかめ面をして頬を掻いた。
 「えぇ、このくらい」
 そう言うと穂乃花は右手と左手を30cmくらいの間隔でひらいた。

 夏休みが終わりに近づいてきた頃、深弥は寝坊をした。部活に遅刻しそうになった深弥は、その日図書室に行くことはなく美術室に向かった。

 「なあ、深津」
 「ん、何?」深弥はキャンパスに筆を走らせながら答えた、声をかけてきたのはクラスメイトで同じ部の横間だ。
 「昨日さ、美術室に来る途中、図書室で冠座此さんと話してなかった?」
 横間の質問に深弥はドキリとした、だが何故ドキリとしたのか自分でもわからなかった。
 「うん、いたけど」
 「もしかしてさ、二人とも付き合ってる?」
 「何に?買い物とかトイレとか?」
 深弥は思わず動かしていた手を止めて答えた。
 「なんだそれ、ごまかすためのギャグかなんか?すげぇツマンネ、はっきり言ったろか?お前達恋人同士として交際してんのかって言ってんだよ」横間は途中から声のトーンを抑えてしゃべった。
 「いや、違う」
 「ほんとか?」
 「うん」
 「なんだ、冠座此さん部活同の掲示板で美術部の予定見てたから、お前に合わせて学校にきてんのかと思ってた」
 「冠座此さんが?それっていつの話?」
 「夏休みに入る前かな」
 「それって本当に美術部の予定を見てたのか?」
 「ああ、だって本人に聞かれたもんな。ほら、うちの部ってほとんど自由参加じゃん、それで、はっきりした予定は無いのかって」
 「ふーん」深弥はまたキャンパスに向かって描きだす。
 「しかし、うらやましいなぁ、冠座此さんと二人きりで話ができるなんて」横間は腕を組んで唸るように言った。
 「なんで?好きなの?冠座此さんの事」
 「いや、別に。俺にはレヴェル高すぎだよ。でも、彼女欲しいなぁ」
 「好きな人、いるの?」
 「いないけど、なんとなく」
 「適当だな、それって好きな人がほしいのか?それとも恋人がいるって言うシチュエーションが良いのか?」
 「そうだな、とりあえず恋愛がしたい。そう言うお前は彼女欲しくないの?」
 「横間ほどは思わないな、なんとなくで好きでもない人に時間を裂くのも嫌だし」
 「ふ~ん、お前つまりそれって・・・本気で言ってるなら鈍感にも程があるぞ」
 横間は呆れて言った。
 「どう言う意味?」
 その日、深弥の絵は完成した。

 帰り、深弥は今日はまだ図書室に行っていないことを思い出し、もう穂乃花はいないだろうと思いながらも、 図書室に向かう事にした。
 図書室の前まで来て深弥はドアを開けた。
 すると意外なことにも穂乃花はまだ窓際の机でいつもどうり姿勢良く、小説を読んでいた。もうペ-ジは残り少なかった。
 「あれ?来ていたの?」
 「こんにちは、深津君。いえ、もうこんばんわかしら?」
 深弥は穂乃花の前の席に腰かけた。穂乃花の読んでいる本を見ると、青とピンクのぼやけたハートマークがランダムに散りばめられた表紙だった。タイトルを見ると 「活字の恋」とあった。
 「それ、ミステリィ?」
 「え?」
 「その本」
 深弥は穂乃花が持っている小説を指さして言った。
 「あぁ、これの事?ううん、今日は恋愛小説」
 「へぇ、冠座此さんミステリィ以外も読むんだ」
 「今日はたまたまよ、気まぐれで」
 「おもしろい?」
 「さぁ、深津君が読んで、どう感じるかはわからないけ ど、私はつまらないわね。ジャンルの問題ではなくて、作者がダメね。単純にへたよ、出版社もよくこんな本を出したわね」
 穂乃花の意外な感想に深弥は驚きと共に、その見た目とのギャップにおかしさを感じた。
 「結構辛辣だね」
 「私もつくづく人が良いなって、自分で自分の事を思ったわ、これを最後まで読もうとしているんだから。でも、自分で買っていた本ならどうだったかな」
 「もっとベストセラな、恋愛小説はなかったの?」
 「あったけど、もう読んでた。で、適当に手にしたのがこれ」
 穂乃花は深弥に表紙をみせて答えた。
 「なんでみんなは積極的に恋愛をしようとするんだろう?」
 深弥は穂乃花の持つ小説に視線を固定したまま、つぶやくように言った、実際に深弥は穂乃花に聞いたつもりも無かった。
 「なに、どうしたの?」突然の深夜の問いに穂乃花は驚いた。
 「ん、いや。恋愛になんの意味があるんだろう?って思ってさ」
 「哲学?」きょとんとした表情で穂乃花が聞いた。
 「いや、ただの疑問」
 「恋愛に・・・意味なんて無いと思うよ」
 穂乃花は小説に目を落としながら言う。
 「まあ、物事の意味合いなんてとことん還元して行けば、意味のあるものなんて何も無いけどね。でも、特に恋愛には意味も存在価値も無いと、私は思う」
 「じゃあ、なんで大多数の人はこれほどまでに恋愛にのめり込むのさ?」
 穂乃花は次のページを捲ってから深弥の顔を見て言った。
 「そんなの、単純で原始的な動機よ。恋愛は楽しいの、加えて中毒性も高い」
 穂乃花は左目をつむり、人差し指だけ立てて口元へ持って行くジェスチャを見せた。深夜にはどんな意味を持つジェスチャかわからなかったが、穂乃花がやると、どこか妖艶な雰囲気があるな、と深弥は思った。
 「楽しいから、たとえ一つの恋が終わってもまた次の恋に指針を合わせて、無理やり恋人を探し出そうとする。前に経験した恋愛の楽しさを忘れられない為に、まだ生まれてもいない恋心を、その辺の好みの誰かに備え付けようとするの」
 「冠座此さんにもそう言う経験が?」
 「うん、すぐに意味が無いって気づいたけど」
 穂乃花は窓の外を見ながら答えた、外の空は奥に進むにつれて明るく輝くオレンジ染まっている。対象的に手前の空は夜の闇が迫り、中間の空は淡いピンクとも紫色ともつかない、美しいグラデーションになっていた。
 「何の意味が?恋愛の?それとも・・・」
 「次の恋を探す意味が。だって、好きな人は一人が限界だもの」
 穂乃花は深弥の疑問を先読みして答えた。
 「その恋は、実っていたの?」
 「ある意味では、世間的には実らなかった・・・のかな?」
 「どう言う意味?ふられたの?」
 「いいえ」
 穂乃花は首を横に振る。
 「相手にもう恋人がいたとか?」
 「いいえ」
 また、首を振る。
 「じゃあ、どしたのさ?」深弥は顔をしかめて聞いた。
 「べつに、どうもしなかったわ」
 穂乃花は視線を窓の外から深弥の顔へ移した。
 「私、好きな人に何も求めていなの、と言うか、そもそも他人に対して何かを期待していない。だから、恋人として交際したいとか、そういう事にも興味が無いの」
深弥は答えない。穂乃花の複雑な人格が少しづつ見えてきたからだ、ただ見えてきたものを理解するのに時間を要するため、深弥は答えに詰まった。
 「ねえ、深津君。恋愛に必要なものってなんだと思う?」
 突然の質問。深弥は混乱する思考を、質問の回答に費やし、少しづつ考えを整理し、言葉に抽出して答えた。
 「なんだろ・・・やさしさとか、相手を思いやる事とかかな?」
 「ブブー、不正解!」
 穂乃花は両手でバッテンを作る。
 その仕草が深夜にはとてもおかしくて、思わず噴き出してしまった。
 「なにそれ?じゃあ正解は?」
 「正解は、その人を好きだって言う自覚よ」
 「自覚?」
 「そう、それが無いと何も始まらない。優しさや思いやりは、相手に気にいってもらう為の装飾に過ぎないのよ。愛なんて結局、なんの混じりけの無い純粋なるエゴ。愛したい、愛されたい、何かしてあげたい、してほしい・・・すべて相手の意思を無視して湧き出てきて。何かを相手にすることで自分の欲求を満たすの」
 「・・・」
 「そして、気づいたの。私はその人の事が好きで、私の意識の中にいてくれさえすればそれで良いって。私の思いは私がはっきりと自覚してさえいれば何の不自由も無い。後は気持ちが風化するのを待つばかり。これが私のエゴ」
 「それは、寂しく無かったの?」
 「うん、中学の頃の話だし、気持ちと一緒に執着心も風化していったから。今も昔もなんとも・・・きっと私にとって恋愛はそんなに重要な要素ではないんだろうな」
 「・・・そう」
 深弥はそれだけ答えて黙った。なんとなくだが、穂乃花の考えが理解できた、恋愛が重要ではない、と言うのは深夜にして見ても同じだったからだ。そんなものが無くてもおそらく・・・なんの支障もなく生きていける。こんな意見は統計的にみても、最も少ない位置の意見だろう。
 そして、深弥は理解した。人々が盲目的に恋愛を賛美する理由を。
 それともう一つ、自分がこうも足しげく図書室に通う理由も。
 そう、楽しいのだ。この穂乃花と話す意味の無い時間が。穂乃花意外の人物がここにいても自分はなんの興味も示さないだろう。
 どれも意味が無い。だが、意味が無いからこそ、のめり込む。
 開いた窓から風が流れ込んでくる、風は、体にまとわりついた湿った空気を洗い流す。穂乃花は小説のページが風で捲られないように手で抑えている。
 深弥は思った。たぶん、自分は冠座此穂乃花が好きなのだろう、この他人を受け入れず、孤高を望む少女を。何も望まず、何も与えることの無い、この少女を。
 だから、意味も無くここへ来る。いや、意味はある、ただ、その意味にはなんの価値も無いだけだ。
 「はははっ・・・」
 深弥はおかしくなって笑った。
 「なに?どうしたの?今日の深津君は変ね」
 穂乃花は眉をひそめた。
 「うん、どうかしているんだ、僕。でもその理由が今分かってさ、それがおかしかったんだ」
 「理由って、何?」
 穂乃花は首をわずかに傾けた、その運動に伴い長い髪が肩から流れる。
 「たぶん、僕は。君の事が好きなんだ」
 風が流れる、わずかな時間を伴い。
 「そう・・・」
 穂乃花は小説に視線を戻す。
 「うん」
 また、窓から風が流れる。風は穂乃花のそろった前髪を静かに揺らす。
 深弥は立ち上がり、開いた窓により、外を眺めた。校舎と街並みの額縁に中に淡いグラデーションが広がっている。人が再現するには困難な色合い。少なくとも今の深弥には、できない。
 穂乃花は小説を読み終え、ページを閉じる。そして、深弥の隣に並び、外の景色を眺める。
 「そうだ、この前言っていた絵、今日完成したんだ」
 「じゃあ、見に行かなきゃ」
 穂乃花は両手の人差し指と親指でL字を作り、それらを合わせ、四角い窓を作った。
 「深津君はどんな絵を描くの?」
 「風景画、空を描くことが多いかな」
 穂乃花は深弥の方を向いた。
 「そう」
 そして、穂乃花の方から唇を重ね合わせる。
 一瞬の出来事。
 無音。
 ブラスバンドの練習の音が消えた。
 オレンジ色の光。
 わずかな時間の接触。
 体はそっと離れる。
 少女の微笑み。
 「私も好きよ。深津君の事」
 「でも・・・付き合ったりはしないんでしょ?」
 穂乃花は口の端を上げて答える。
 「えぇ」
 そう言うと、穂乃花は自分の荷物をまとめ始める。
 「磁力の無い鉄みたいな人だな、冠座此さんは」
穂乃花は振り返る、遠心力で髪がふわりと膨らんで、また萎む。
 「それってアルミニウムの事?」
 右の人差し指を自分の頬に持っていき、首を傾げながら穂乃花は言った。
 「それじゃ、またね。深津君。今度は絵を見せてね?」
 「うん、期待は程々に・・・あっ!ちょっと待って」
 深弥は穂乃花を呼び止める。
 「聞きたいことがあるんだけど」
 「なあに?」
 ゆっくりとした口調で聞きかえす穂乃花。
 「同じ部活の奴に聞いたんだけど、美術部の予定を調べてたみたいだけど、どうして?」
 「わからない?」
 穂乃花は腕を組む。
 「なんとなしには」
 「じゃあ、それが正解」
 穂乃花は右手人差し指を前方に差し出しくるくると回すジェスチャをした。
 「そう、それじゃあ明日僕はここに来るけど、君は?」
 「たぶん、いるかも」
 穂乃花は図書室から出ていく、深弥はそれを見届けてから、窓の下にある本棚に腰をかけ、また窓の外を眺める。
 夕日はまだ沈みそうも無い、だけどそのおかげで綺麗な夕焼け空をもう少し眺めることができる。
 あと、どのくらい眺められるだろうか・・・あの少女を。
いつか、この夕日と同じく、見えない領域に消えてしまうのではないだろうか、その時自分は、この気持ちが風化するのを待つだけになるだろう。
 彼女に装飾は無い、装飾に目を止めることも無い。
 「期待は程々に、ね」
 深弥は溜息と共に言葉を漏らした。

つきおちる午前五時

2005年08月19日 12時59分20秒 | シナリオ

 ハローハローCQCQ、なんつって。
 というわけで(どんな訳で?)、今日でこのブログの更新も最後となりました!まぁ、最後なのはこのブログだけではないですが・・・。
 いやしかし、この一週間ほどはほんとに暇でしたなあ!もう、テレビも新聞も雑誌も、ありとあらゆるメディアが完全に沈黙してしまいましたから。
 もうほんと、ジャンプの続きが読めないのだけが心残りです。あー!めちゃめちゃ気になるぅー!

 ----そこまで書いて、俺、模波悠汰はキーボードを叩く手を止めた。
 天井を見上げながら一息つく、もう、特に書くようなことは無かった。それに、そもそもこの後に及んでまだインターネットなどをやっているような人間が居るとも思えなかった。
 じゃあ何故、ブログの更新なんぞを自分はやっているのか、少しは疑問にも感じたが。まぁ、週間と言う奴だろうか、やり残した事があるわけでも無し、問題は無い。

 俺は椅子から立ち上がり、窓を開けてベランダに出る。
 外は静かだ、静か過ぎる。
 夜空を見上げる、しかしそこには夜空は存在しなかった。あるのは上空に浮かぶ巨大な岩の塊。
 月である。
 三日月型の日向と夜空よりもさらに暗い日陰の部分がはっきり見て取れる。
 事の始まりは38日前、政府はASNAが「月が軌道上から外れ、地球の重力によって月が吸い寄せられ、地球と衝突する。その威力は地球を破壊し、人類を滅亡させるには十分の破壊力がある」と言う調査結果の報告をテレビ中継で放送した。
 その時、総理大臣さんは(はたしてその時、中継に出てたのが総理大臣だったかは、記憶が確かでは無い為思い出せないが)ものすごくまじめに話していたし、確かな証拠も出して話していたのだが、ほとんどの人間はいつも通りの生活をしていた。
 実に落ち着いた、紳士のような態度である。
が、しかし。そんな落ち着いた態度でいられたのも、発表から二週間ほどの期間であった。
 徐々に近づいてくる月を見て次第に人々は混乱して行ったのである。
 なんとも、恐れ多い事にほとんどの人間はNASAの発表を信じていなかっただけのだった!
 あぁ、期間限定の落ち着きよ・・・さようなら。
 それからと言うもの、人々の荒れようと言ったら、酷いの一言に尽きるような行いばかりだった。
 様々な犯罪が発生したのだ、窃盗、強盗、レイプ、殺人。日本の・・・つーか、世界中の治安は、よくここまで来たもんだぁ、と言わんばかりに悪くなった。
 しかし、それも最初の四日間くらいまでだった。これから全人類が死ぬと言うのに、今から悪い事をしたって意味なんか無いって事に気がついたんでしょう。
 よくぞ気づいた!その潔さこそが人類の未来に引き継がれるべき宝なのだ!・・・もう人類に未来は無いけどね。
 それからと言うもの、全世界の薬局などでは睡眠薬がバカ売れしたらしい、と言っても売っていたのは最初だけで、その後政府から効き目抜群の睡眠薬が配布された。これは月が落ちてくる瞬間は眠ってやり過ごそうと言う、ある意味での安楽死の方法であった。
 中には、落ちてくる月をこの目で見届けてやる、なんて言う天体観測バカもいたようだが・・・ま、好きにすれば、って感じ。
 そんなこんなで、全人類は混乱と死の恐怖に彩られた一カ月を過ごしたのであった。
 寒くなったので、俺は部屋にもどってブログの更新の続きを始める。

 ----ただ今の時刻は23時46分。NASAの見立てでは、月が落ちてくるのは明日の五月五日午前五時らしいぞ(なんの偶然か)。
 つまり、あと五時間ちょっとで人類は滅亡するのだなぁしみじみ(いうとる場合か!)。
 と言うか・・・何も日本の真上に落ちてこなくても良かったんじゃないのか?良いよなぁ!日本の裏側に住んでる人は!もしかしたら地球最後の人類になれるかもしれないんだからさ!カッコいいよな「地球最後の人類」って言う肩書。もっとも、ほんの一瞬だけだろうけど。まぁいいや、俺は薬を飲んでぐっすり安楽死さ。そうそう、薬と言えば、配られた睡眠薬は効き目が出るのに十分くらいかかるんだって。
 つまり激突の十分前までは起きていられるってことだね。でもな、もし何かの間違えで激突の瞬間までに眠れなかったら悲惨だわな。みんな気をつけよう!ところで、月が近づいてきた時は我々にかかる重力の影響はどうなるのだろうか?なかなかサイエンスな疑問だ。いずれ分かるだろうけど、俺は寝ます。

 ----そこまで書いていると、家の中に玄関のチャイムが鳴り響いた。
 玄関をあけるとそこには隣の部屋に住んでいる、園多音音(そのたねおん)さんだった。
 音音さんは俺と同じ大学に通う大学生で学科は異なるが、お隣さんと言う事もあって、よく夕食をご馳走になったりしていた。
 「こんばんちは」
 彼女は元気良く敬礼のポーズであいさつをした。
 「こんばんちは、あれ?実家に帰らなかったんですか?」
 「うん、もう飛行機も電車も無いしね」
 彼女は靴を脱いで上がり、奥の部屋に進む、俺もその後に続いた。
 「家族とか友達に連絡はしたんですか?」
 「ん?うん。したした、もうオッケイってなもんや」
 音音さんはベッドの上に腰掛ける。
 「軽いノリですね、あと五時間くらいで月がおっこちてくるのに」
 「あはは、こんだけ絶対不可避な災害じゃね、逆にハイになるわ。」
 彼女はそこでまた、わははと笑った。
 「モナミィは?家族とか心配してるんじゃないの?」
 「ええ、俺の実家は北海道なんですけど、帰り損ねました」
 「実はさ、さっきレンタルショップからDVDを拝借してきたんだ。店には誰も居なかったんだけど、お金を払わないで持ち出す時はなんかドキドキしたわぁ」
彼女は自分の胸を押さえて深呼吸をするジェスチャをした。
 「なにを持ってきたんですか?」
 「タイタニック」
 ソフトケースに入ったディスクをひらひらと見せる。
 「うわぁ・・・」
 俺は思わずため息を漏らしてしまった。彼女は頬をふくらまし不機嫌そうな表情をした。
 「あんねぇ、私だって・・・そりゃ、たまには、一生に一度、気まぐれに、魔が刺すと言うか、天変地異が起こるくらいの確立で、まあ今まさに起こってるけど・・・とにかく、好きな人とメロなラブドラマを見て見たいと思う事が思うわけですよ。コレが」
 「なんか、文章おかしいけど」
 「じゃかしい、見るのか見んのか、どっちじゃコラ」
 「へえ見ます」
 俺は音音さんからDVD受け取って、プレイヤーに入れて再生した。
 それから俺達は黙って映画を鑑賞した。
 ふたり並んで最後の映画鑑賞。
 数時間だけ俺達は死の恐怖から離脱した。ほんの数時間だけ。
 「薬は・・・飲んだ?」
 「うん」
 二人はベッドの中で並んで寝ていた。
 残りの時間は少ない。
 「我々は・・・明日の朝日を拝む事ができるのだろうか・・・」
 「だから無理だって」
 くすくすと笑った。
 「不思議だなぁ、これきりで俺達もう死んでしまうなんて」
 「あそう、外見てみ。お月さんがえらい事になってんで」
 音音さんは窓を指さす。
 「なんか・・・もう眠くなってきた」
 「俺も」
 「もう少し、君の顔を見ていたい」
 「うん」
 「最後に一緒にいれてよかったよ」
 「俺も」
 「好きだ」
 「うん」
 「君、『うん』か『俺も』しか言えへんのかいな」
 「うん」
 「ばかたれ」
 そう言うと音音さんは俺の胸に顔を埋めた。
 「もう少し俺の顔を見てるんじゃなかったの?」
 「・・・」
 「なんだ、もう寝てるのか」
 彼女は静かな寝息をたてて寝ていた。とても死に向かう顔には見えなかった。
 安らかな、寝顔。
 「俺も好きです」
 結局、ブログの更新はしなかった。

 ―――――76時間後。

 とある空間。真白い背景が続く。一匹のポメラニアン。どこからか、二人の話声がする。
 「どうだった?夏休みの自由研究は」
 「うん、結構上々だよ!これは先生にほめられるって確信したね」
 「うぬぼれるな小僧。でどんな内容だっけ?」
 「えっと、地球に月が激突した際のエネルギィの観測。地殻津波がすごかった。あと、月を軌道上から外して地球にぶつけるのに苦労した」
 「へぇ、エネルギィ観測か。お父さんもやった事あるよ、そう言うの、ガス状の天体に火を入れて爆発させたり」
 「あ、それ面白そう、僕も木星でやってみようかな」
 二人の話し合いは続く、ポメラニアンの目には二人の姿が映り込む。異形の姿が。