歌猫Blog跡地

漫画「鋼の錬金術師」と荒川弘について語るブログ。更新終了しました。

ユリイカ12月号荒川弘特集の感想その2

2010年12月13日 | ◆小ネタとか突っ込みとかつぶやきとか
前回から続いて、82ページからいきまーす。

社会思想史・早尾貴紀さんの「鋼の錬金術師から読み解く国家と民族」
これは素晴らしい1本です!
もうね。興味ある人はここでパソコン閉じて、すぐ本屋に行ってください。半端なブロガーなんかが下手に説明するな!と叱られそうだ。
でも書くよ。私は書きたいのだ。

たまたま、早尾さんはこのハガレン特集の原稿執筆期間中に、エルサレムに滞在していたのだそう。
漫画が現実を描写しているわけではないと理解しているがこの偶然はさまざまな刺激をもたらす、として、記事は始まります。

「この国のかたち」の回に触れ、ホムンクルスが「この国を利用して何かをしようとしているのではなく 何かをするために一からこの国を作り上げたのか?」を引用し、こう続けるのです。
「とんでもなく転倒した軍事国家だ。すさまじい設定であり(中略)鮮烈な展開を示す。漫画の世界だからこそ可能だが、しかし他方で、国家が特定の目的のために人為的に作られ、故意に戦争を展開し国土を広げるなんて、漫画でしかない。たいていの読者はそう感じたのではないだろうか。」
あっ、と息を呑んだ。私たちは“エルサレム”を、おぼろげであるけれども、知っている。ああ、この人はそのことを書こうとしているんだ…!
その通り。ニ段組のページの上段最後から下段最初へ目を移すと、呑んだ息を吐く間もなく、その答えが示される。
「人為的な建国、領土拡大のための戦争、それに伴う民族浄化。そのどれもが、パレスチナの地に建国されたイスラエルにあてはまるのではないか?」

続いて「血の紋」「約束の日」というキーワードをもちいてイスラエルの歴史をなぞり、その類似性を上げる。
しかし次の章で改めて「最初にも述べたように、アメストリス国はイスラエルではないし、イシュヴァール人はパレスチナ人ではない。漫画は現実を描写しているわけではないのだ」と繰り返す。
そして「しかしそうであるからこそ、思考はさらに広がる」

早尾さんは、日本の植民地政策は過去のものだから、私たちの日本はもう“アメストリス”ではないのだ、と安穏と逃げることを封じる。
「北海道から沖縄にいたるまでの内部に『血の紋』が刻まれているという事実は、都合よく忘却されいるにすぎない」
そうだ。アイヌ、そして琉球王国。荒川弘の系譜である北海道開拓民は「入植者」だったんだ……。
アメリカも、ロシアも。故意に戦争を展開し国土を広げる「漫画の世界の転倒した軍事国家が、実はむしろ国家というものの本質を、あるいは少なくともその一面を衝いているということに気付かされる」

ここで。
このひとつ前の記事を思い返そう。雑賀さんが語った、「ホムンクルスが行った破壊と殺戮の領土拡大は、人間の模倣だ」
模倣は事実の鏡だ。似て非なるものは似せる相手の一面を明らさまにする。
えーとえーと、ここんとこの、深さってゆーか、思考が連なるところ、ここはまだ、うまく言葉にできません。すごい重くてでかいヒントをどがっともらった感じ。少しずつ、消化していきます・・・・・・。
ともかくさあ!こういう、うぉー!!!ってな驚きがいっぱいあるのよ真正面からの評論、それも業界違う人からの評論ってさあ!あーすげーおもしれー!!!

ええっと、戻ります。
早尾さんは思考を展開し、その先に、「国土錬成陣が無効化された以上、その国土が、すなわち国家そのものが、「解体」に向かうということがあってもいいし、むしろそうなるのが当然の流れなのではないだろうか」と語る。
あー。あー……。
国家の正常化、その後の民主化、の、そのまた先に。マスタングがかの道を歩むとしたら、その道は、荒川弘も予想だにできない、険しい道が、あるいは現実を超えた希望が、待っているのだろうか。

早尾さんはイシュバール人をディアスポラ(離散)とも語っていて、そこもまたスカー視点で読むと、ぐわんぐわん来るものがある。ここは、ユリイカで原文を読んでくれ!!
脳みそでがっつんがっつん硬い食物を食ってる感じ。消化できなくともガリゴリと噛み砕くのだ!はー楽しいなあ~vvv

ところで、この文中前半で、イシュバール戦について、15巻まるまるを費やしたから物語の背景として決定的に重要である、と位置づけていてね。
私はそこ読んだとき、いや、イシュバールはむしろ03年アニメに対する荒川弘の抗いであって…と思いかけて、いや違う、と、頭を振りました。それは、作家論。
作品論においても、それが描かれた時どのような背景があったかは大切だけども、それ以上に、完成された物語から何を汲み取るか、こそが本筋だ。だって出来事は過去へと流れていくけど、作品は残るのだもの。
「鋼の錬金術師」は完結した作品だ。
だから私は後世の人の視点、同時並行で歩いてきた私とは違う視点も、ちゃんと視野に入れなきゃならない。
そうだ。イシュバール編は、決定的に重要なのだ。描かれた作品を見るならば。うむ。



今回の感想は1本だけ…;
まだまだ先は長いぞ。

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4 コメント

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Unknown (バブル世代組)
2010-12-14 15:06:31
現実の国家の成り立ちが、フィクションであるアメストリス建国と類似点があるとは興味深いですね。錬金術にしても、人間だけが編み出した自然の循環への負荷が大きい作為という点で科学技術のメタファーですものね。
フィクションで有っても、因果律に沿って書かれていけば、現実とシンクロして当然なのかも。
第三弾をお待ちしています。
コメントありがとうございます。 (歌猫)
2010-12-16 07:09:43
バブル世代組様こんにちは!
ね?興味深いでしょう?これが原画集の半分のお値段で!DVDのお値段の4分の1で!ってどこの宣伝マンでしょう(笑)
でも、メタファーとか因果律とかって単語を普通に使える方には、つまり、読んでてもそこでひっかからない方には、ぜひ買って読んで欲しいです。すっごい刺激的ですもの。
私のハンパな感想とか恥ずかしい~;
コメントありがとうございます!第三弾も書いてます!・・・でも第何弾まで続いちゃうんだろう(汗
さすがはユリイカ (アルミ)
2010-12-19 23:55:05
近くの本屋ではないので予約してました。読み応えありますね~。これだけ鋼の世界を解釈するなんて素晴らしいです。何度も読み直したい雑誌です。
コメントありがとうございます。 (歌猫)
2010-12-31 15:12:51
アルミ様こんにちは!
読み応えありますよねえ!難しいけど言葉が鋭くて、うーんと唸ることばかりです。
この感想は最後まで書きたい!って思ってます。がんばるぞ!