プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 辻由美「読書教育 フランスの活気ある現場から」

2023年10月07日 | ◇読んだ本の感想。
この人はフランス語への翻訳家・著述家。
「面白いなあ」と思い、エッセイはその後つぶしました。
エッセイはこれで最後かな。これが2008年の本で、それ以後が訳書だけ。

この人はフランス語から日本語の訳者だから、フランスの事情に詳しいんだよね。
わたしが初めて読んだ本もフランス翻訳史についてのエッセイだったし。

今回の本は、フランスで実際に行なわれている読書教育の諸々について。
そういう意味でタイトルはまさにその通りなのだが、――地味すぎませんか?
せっかく読みやすいいい本なのに、こんな地味なタイトルでは
教育関係者しか手を出さんだろうなあ……。

タイトルに「高校生ゴンクール賞」を入れたら良かったのに。
こっちの方がインパクトあるでしょう。
内容の半分量が高校生ゴンクール賞について書いているんだし。
あとは序章としてフランスの読書教育現状の簡単な紹介と、他に2つの読書コンクール。

ゴンクール賞はなんぞやというと、フランスの権威ある文学賞。よく知らんけれども。
ゴングール賞は良くも悪くもプロの文学者である審査員が選ぶ賞。
高校生ゴングール賞は本賞と同じ候補作を読んで高校生が選ぶ賞。

この本が書かれた時点では、高校生ゴングール賞の発表は本賞発表の当日、
15分前だったそうですね。これが面白いと思ったなあ。
現在は本賞発表の一週間後に発表しているそうだけど。当日の方がはるかに面白いね。
本賞の選考結果がダイレクトに影響することはないにせよ、
やはり多少の影響はあるとは思うからさ。

高校生が選ぶ文学賞、なんていったら普通は希望者参加とするよね。
でもこれは、学校が申し込みして、クラス単位で参加するんだって。
学校に1つ、「ゴングール賞エントリークラス」というのがあるのよ。
そしてそのクラスになったら最後、2ヶ月で13冊?だかの候補作を
読まなきゃいけないという……。

これは信じられないことですねえ。
わたしは嫌だよ。2ヶ月で13冊の純文学!読書は好きで、高校生の頃は
1日1冊近くの本を読んでいたわたしでも、これは負担だ。
何しろ文芸書はテーマが重い……。読んでてツライものが多い。

まあもちろんそのクラスになったからといって全員が13冊読むということでは
なさそうです。ある例として「最低3冊は読んで欲しい」といっていた教師もいたし、
読むのが好きな人はもちろん全部読むだろうけど、それはなかなかの偉業である。

参加クラスは国語の授業を何回か使って、討論を重ねる。
フランス人は日本人より討論に慣れている印象があるが、それなりに苦労だろう。
最終的には「クラス推薦の3冊」を決める。そして代表者を決め、
地方の討論会に送り出す。地方の討論会から全国の討論会へ。
最終的には一作品を「高校生が選ぶゴンクール賞」と定める。

いろいろ「すごいなあ」と思うことがあるので詳細はこの本を読んで欲しいが、
よくこんな難しいことを実現させる……と思う。
日本でこれが出来るだろうか。単純に、参加したい人が参加する形なら
まあ出来るかもしれない。

が、こんな風に学校を選んで、クラスに読ませ(基本的に生徒は参加を希望してない)、
生徒に語らせ合い、結論を出し、それを地方大会でも全国大会でも繰り返し。
物理的にも大変だし、物理以外でも大変だ。経済的にも。

経済に関してはフランス大手書店のフナックがかなりサポートしているらしい。
参加学校はおよそ50校だが、候補作1作につき学校ごとに5冊ずつ
(つまり候補作13冊として、概算で3250冊)提供する。
全部無償だったかは忘れたが、相当な負担をしている。

一応、たしかNPO法人か何かで事務局的なところもあった気がする。
しかし一番大変なのは、各学校で世話をする先生だね。
基本的にその先生が参加を希望して学校がエントリーをする形らしいから、
そもそも本人のモチベーションは高いだろうが、時間も頭脳も相当とられるもの。
大変だと思うよ。

まあわたしはうまくまとめられないから本書を読んでください。
わたしは感銘を受けた。

日本で出来ないかな、こういうことは。
……といって、自分でも読む気にならない芥川賞候補作でこれをしたいとは思えんが。

高校生ゴングール賞受賞作をつぶしてみようかと思ったが、
純文学が嫌いなのでちょっと無理……。それにけっこう日本語訳がないんですよね。
本作の中で取り上げられていた5冊くらいにしておこうか。
多分読みます。8年後くらいに。





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