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◇ 佐藤雅美「覚悟の人 小栗上野介忠順伝」

2024年06月21日 | ◇読んだ本の感想。
ここのところ小栗上野介関連の本を何冊か読んでいる。
今回のこれは、小説だと思って読み始めて、数ページ読んで「小説……?」と思い始め、
途中から小説じゃないんじゃないか?と釈然としなかった作品。
一応、分類番号は913なので小説らしいんですけどね。

第一章がアメリカとの不平等交換レートの話で、それをけっこうひっぱるのよ。
分量でいえば4分の1くらい。

まず単純に自分の好み的に、初っ端からこっち側が理不尽に損をする話を読むのがツラかった。
江戸時代末期、通商の最初の頃は3倍のレートで交換していたらしいから。
3倍損してたら、早晩国として立ちいかなくなりますよ。
それに加えて、理不尽に巨額な賠償金を払わせられたり、幕閣たちは軒並み経済オンチ
だったらしいので、交換レートの本質も知らない。ツライ。

そりゃ、全てに無知な国に対して外国が公正に振る舞うことは期待できないよね。
人間やっぱり得をしたいものでしょう。それを「国益」というと、
とたんに大義名分が立つしね。日本だって歴史的にずるく立ち回った時期があった。
まあ西欧諸国ほどではないだろうけど。でも五十歩百歩。

そんな時期の日本を見ているのは歯がゆいよねー。


内容というか、書いてあることの素材は面白かったとは思うんだ。
偏りは感じたけれども、いろいろ細かいことを書いていてくれたし。
わたしはこの辺の知識に薄いから、内容自体には不満を持たず読んだ。
しかしこれ、「小説」でいいのかねえ。

あんまり小栗にフォーカスが当たっていないきらいがある。
むしろ幕末の幕府をめぐる状況が主なテーマであって。
小栗がしばらく出てこない部分がざらにある。小説だからといって常に主人公が
出てなければならないわけではないが、小栗は単に一要素でしかない気がする。
これを小説・小栗上野介と題するのは外れてるんじゃないかと……

そして小説として読むと、あんまり面白くないんだよねー。
特に会話部分が壊滅的。地の文でいいところをわざわざ会話にするのは安易だし、
単に字数が増えるだけで、小説としての締りがない。

そして小栗があまり活躍しない……。
まあ小栗の人となりが全く描けてないとは言わないが、そんなに魅力的じゃなくて、
せっかく読んだのにこんなもんかあと思うと残念感が。

第一章、これでもかというほど「一分銀は紙幣のような通貨」という文言を繰り返すが、
それがまったくピンとこない。最初に説明はされて、うっすらとわかる気がするけど、
その後20回くらい繰り返されるほど有効なフレーズである気が全くしない。


この作家は雑誌記者からの小説家。わたしが偏見を持つ経歴だ。
著作のラインナップ的に経済に強かったようだから、それはアドバンテージとして、
文章としての味わいは……ないねえ。
むしろ普通の歴史エッセイとして書いた方が良かったと思う。
その場合、もう少し状況を整理して書いて欲しかった。細かいのはいいが、
全体的に詰め込み感があった。

ただ小栗の死の状況は、関連本の何冊目かのこの本で初めて知った(今までの本では
死の状況はまったく印象に残っていなかった)ので、それが読めたのは良かった。
うーん、でもやっぱり不満の方が多い小説でしたな。

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