プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 丸島和洋「武田勝頼 試される戦国大名の器量」

2024年05月28日 | ◇読んだ本の感想。
面白かった。みっちり面白かった。良書。力作。
タイトルからイメージするほど人物評伝ではなかった。
戦国期の武田氏を中心にした、主に北条・上杉・織田・徳川とのわちゃわちゃ。
いや、わちゃわちゃじゃなくて、しっかりした歴史解説。

わたしの武田勝頼のイメージは、強い強いお父さんの死後、家を支えきれずに
滅亡させてしまった不肖の息子。
でも「どうする家康」かなんかを見てから、信玄の死と武田家滅亡は意外に時間が経っていて10年ほど持ちこたえたのは知っていた。
そしてこの本で、勝頼の時代に信玄時代を超えて最大版図を達成したことを知った。
イメージと違った。

(この本の)3分の1くらいのところで信玄が死ぬんですよ。
その頃までの勝頼の資料は少ない。あまり出てこないらしい。
間違いがあったら申し訳ないが、勝頼は四郎という名前の通り信玄の四男で庶子、
なので、名実伴った嫡男の義信が謀反の疑いで廃嫡されるまでは他家を継いでいた。
それが義信の廃嫡に伴って、後継ぎは盲目の次男、夭折の三男ではなく勝頼に回ってきた。

――まあみんな足元が危ういのよ。戦国大名なんて。
早い話、最終的に天下を取った家康以外、みんなどこか弱みを持っていたからこそ
天下を取れなかったわけで。
家康だって(おそらく)取りこぼしは多々あっただろうし、
信康殺害もそうだよね。ちょっとした選択の誤りでいくらでも滅亡の可能性はあった。

しかし信玄は戦略家のイメージにしては、大きな取りこぼしが多いように思う。
わたしが以前から疑問に思っていたのは、諏訪氏を攻めて滅ぼして、
その娘をおそらく強引に娶って、その子供を(高遠)諏訪氏の跡取りにしたこと。
そういう形で、果たして諏訪側が心服するかどうか。そして、勝頼が本家を継いだ後、
本家の家来たちが「あれは高遠の者だ」という目でみるのではないか。
どっちつかずで、子飼いの部下がいないんじゃないかなあ。

まあ嫡男の謀反の方が大きな取りこぼしであり、それに比べて勝頼の件はそこまで
大きなことではないかもしれないけど。しかし勝頼の支持基盤の弱さは、
その後の領国支配にやはり大きな影を落としたのではないかと思う。


あとわかってたことながら、武田・北条・織田・上杉の婚姻政策は非常~にややこしい。
何代にもわたって繰り返された婚姻。
勝頼だって、北条氏義の娘と織田信長の養女を娶ってるし。

途中で出てきた、武田・北条・今川の小さい家系図を見てつくづく思った。
その系図で一番ややこしい位置にいる今川氏真を見てみると、

氏真のひいおばあさんは北条宗家の姉妹。
氏真のおばさんは北条宗家の嫁。
氏真の嫁は北条宗家の娘。
氏真の母は武田信玄の姉妹。
氏真の姉妹は信玄の(廃嫡された)長男の嫁。
氏真の嫁の兄弟は氏真の姉妹の義姉妹の夫。

まさに二重三重――それ以上のしがらみ。
ここには仲の良さ、縁の深さではなく、これでもか、というほど政略結婚を
繰り返さなければならなかった利害関係の対立を見るべきだろう。


あと思ったのは、――やはりこれほど広い領国を領有し続けるのは無理があるよなあ。
勝頼の頃に版図は最大。元亀4年で、1573年頃らしい。
北は新潟県境。東は群馬県の西半分。山梨全域と、南は静岡県の中央部を中心にほとんど、
愛知県の東部をちょっと、岐阜県は飛び地的なものもありつつ半分程度、そして長野まるまる。

しかもそれが本州中央にどんっとあるわけですから。
静岡の海に面するごくわずかの部分を除いて、領土のほとんどが敵と接しているということ。
これだけの国境線を持ったのは織田信長くらいなのではないか。 
そして信長は範囲はもう少し広かったかもしれないけど、北と南は海に面していた気がする。
なので、敵に接する国境線という意味では武田氏が一番長いまであると思う。

そしてその中に国人衆も多いわけでしょう。
一応味方で、領土の中に含まれるとはいえ、最後まで支えぬくという立場にはないからねえ。
真田家だって、信玄には相当心服していただろうけど、それでも武田が危うくなったら
上杉や北条、織田との連携を模索するわけだし。
国人衆的な人々はそれなりに日本国中にいたんだろうけど、
日本アルプスで領土を寸断される信濃あたりは、より独立性が強かったのだと思う。

長篠の戦いの大敗でダメージを被り、主だった武将を多数失った上で、
その人的・経済的復旧が十分でないまま新府作りを始め、最終的には高天神崩れが
致命傷となって滅亡した流れ。
うーん、やっぱり伸るか反るかのギャンブル性が強かったということなのかなあ。
それに対して家臣たちの意見を取り入れられてなかった気がする。
これも、結果論にはなるんだけども。衆愚論に陥る可能性もあるわけだし。


もっといろいろ面白い内容はありましたが、覚えてられたのはこの程度。
あとがきを読むと、「入門書と専門書の間の、一歩踏み込んだ概説書を目指した」という
ことを書いてあったので、その狙いは十全に果たされたと言いたい。
面白かった。こういう本があるとありがたい。
今後、丸島和洋の本は拾っていきたい。


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