このところ全米各地で頻繁に行われている「Save Our School!」のデモ。家族総出で、予算不足による学校閉鎖に抗議します。
アメリカ人は大のランキング好き。有名なフォーブスの『長者番付』を始め、『健康／不健康なシティ』ランキングなど、何にでも順番をつけて話題にします。学校もまたしかり。有名大学だけでなく、市井の公立小学校に至るまで全部の学校が番付されています。公立学校のランキングを決めるのは、毎年３月に発表されるAPI（Academic Performnce Index）。統一標準学力テストの結果に基づいた（公立）学校の成績・評価のレポートです。
APIスコアには各方面から熱い関心が寄せられます。学齢期の子どもをもつ家庭は、自分の子どもの成績はもとより、通っている学校の成績が気になるのは当然ですが、まだ学齢前の子どもを持つ親たちも同じ熱心さでAPIに注目しています。居住地にある各学校の成績を比較して、将来、どの学校にあげたらよいかの『学校選び』の参考にするためです。というのも、アメリカでは子どもの就学時期に合わせて成績の良い学校のある学校区に転居して住み替えることが珍しくありません。実際、不動産売買が春から夏に集中するのは、子どもの新学期（９月）に合わせて転居するためです。
APIスコアの高い学校区は、当然『地域選好度（住みたい度）』が高くなり、住み替え希望者が集中して「買い」が増えるので不動産価格がつり上がります。結果、ランキングの高い学校には生徒が殺到して就学定員を超え、抽選で入学者を決める事態になることもしばしば。
一方、当然ながら、APIスコアの低い学校区では、明らかに不動産の評価額が下がります。実際、私の住むシリコンバレーでも、特に中間層が多く住むエリアでは、不動産価格とその学校区のAPIスコアには明確な正の相関がみられ、成績の良い学校区ほど不動産価格が高くなっています。つまり、学校のランキングが不動産価値を左右するのです。
・・・というわけで、APIスコアが下がると、学齢の子どもたちを案ずる親だけでなく、子どもならぬ「自宅」の不動資産価値を案ずる地域住民からも、学校に苦情が殺到します。ですから、学校関係者、特に校長先生など管理職はうかうかしていられません。成績が下がると地域住民によって更迭されかねないからです。
でも、小さな政府をよしとし、そのため公共政策の行き届かないアメリカでは公立学校は常に予算不足。そのうえ長引く不況で税収は減る一方。行政は教職員をレイオフすることで予算不足に対応せざるをえず、つまり先生の数が減り、これにともなってひとクラスあたりの児童定員が大幅に増えるという事態に陥っています。クラス環境条件の悪化、教師の労働過重が子どもの成績によい影響を与えるわけがありません。これがアメリカの公立学校の現実です。（ブログ記事：『スーパーマンを待ちながら』）
こんな時、黙って手をこまねいていないのがアメリカの父母や地域住民です。もちろん行政に抗議はしますが、単に「文句を言う」だけではありません。なにしろ、子どもたちの成績が下がってから文句を言っても間に合いませんから、行政に資金がないのなら自分たちで調達するまでと割り切り、文字通り駆け回って寄付を募り、不足分を積極的に補い、レイオフされた教員を雇い戻したり、削られた教科（カリフォルニアでは予算不足のために音楽・美術・体育が教育課程から削られました）を復活させたり、数学や科学の補習授業を積極的に実施したりと大活躍。地域の人々も、子どもがいてもいなくても、ふだんから積極的に学校のレベル維持に協力します。学校へのサポートはなんと言っても『寄付』が一番。父母や子どもたちが立ち上がって寄付を募れば、近隣の住民は必ず協力します。隣の子が通っている学校だから・・・という理由ももちろんありますが、公立学校のパフォーマンスは自分の持ち家の不動産価値に直接影響するからでもあります。（ブログ記事：『親と地域が支えるパブリックスクール』）。
もっとも、こうした活動ができるのは、幾分かでも暮らしに余裕のある親や地域の話です。社会経済的に恵まれない住民の住む地域では、親たちにボランティアする余裕はなく、地域に人々も、例え気持ちはあっても寄付するゆとりはありません。そもそも親と暮らすことができない子どもたちもたくさんいます。アメリカでは高校卒業年齢にあたる18歳までは就学義務があるのですが、高校入学者の４人に１人はドロップアウトして高校を卒業しない……と言われています。学校が荒れると、地域はすさみ、すさんだ地域では不動産にパブリックな評価がつかないことさえもあります。
