つばさ

平和な日々が楽しい

「まあ、おなつかしい」

2013年02月23日 | Weblog
春秋
2013/2/23
 暗殺されたのが1909年(明治42年)。それから54年たった昭和38年に伊藤博文の千円札が発行された。と、お札を見た新橋だか築地だかの待合の内儀(おかみ)が「まあ、おなつかしい」と言ったという。嘘かほんとか、作家の山口瞳がエッセーにそんな逸話をのこしている。
▼こちらは日本の近代化を背負った懐かしい面々の顔見世である。明治天皇が命じてつくった「人物写真帖」が皇居・三の丸尚蔵館ではじめて公開されている(3月10日まで)。肖像写真の被写体はざっと4500人。当時なら群臣と呼ぶことになろうが、皇族、政治家、官僚、軍人、学者らおなじみの大物が顔をそろえる。
▼撮影は明治12年から13年にかけて、写真に撮られるのがまだ当たり前ではなかったころだ。しかも天皇が身近に置こうというのだから、一葉一葉にピリリとした緊張感が宿る。40歳のわが伊藤博文はじめ、目線が正面から微妙に左右にずれているのは、もう流儀ができていたからか。ひげが多く眼鏡がないのも時代だろう。
▼尚蔵館から皇居・東御苑をしばらく歩くと、梅林がある。寒さのなかでほころび始めた花が芳香を放ち、メジロが枝々を飛び回っている。人だかりがして、かざされた携帯電話や立派な一眼レフがシャカシャカ音を立てる。思えば、この国の写真の普及にも一役買ったという「人物写真帖」から、130年以上たっている。