つばさ

平和な日々が楽しい

堪忍袋の緒が切れることもあると申し上げたい

2012年12月20日 | Weblog
【産経抄】12月20日
 明治32(1899)年に福岡県の小さな村で火事が起こらなかったら、米大統領継承順位3位まで上り詰める日系上院議員の存在はなかった。火元とされ弁償費用を稼ぐためハワイに移住したのが、17日に亡くなったダニエル・イノウエ氏の祖父母だった。
 ▼祖父母から日本の価値観と美徳をたたきこまれて育ったイノウエ氏は、医師をめざして勉強中に、真珠湾攻撃に遭遇する。「敵国人」の汚名をそそぐため、陸軍志願に迷いはなかった。
 ▼「日本語ができないふりをしたんだ。祖国のために一人でも多くの敵を銃で倒したかったから」。現在公開中のドキュメンタリー映画『二つの祖国で』で語っている。イノウエ氏は、映画で描かれる対日本軍の陸軍秘密情報部はデスクワークが多いとみて、配属を巧みに逃れた。所属したのは後に米国史上最強部隊と呼ばれる「442連隊戦闘団」だ。
 ▼欧州戦線での武勇伝は語りぐさになっている。イノウエ氏はドイツ兵に腹と右肘を撃たれて右腕を失いながら、左手で手投げ弾を投げつけて相手を倒したという。
 ▼戦後、日系人として初めて連邦議員となったイノウエ氏は、今度は人種差別に闘いを挑む。日系人だけでなく、先住民の地位向上にも努めた。2007年、慰安婦問題をめぐる下院の対日非難決議案に対して、反対声明を出した硬骨ぶりも印象に残る。日米の懸け橋として果たした功績の大きさは計り知れない。
 ▼それだけに、米軍普天間飛行場の移設問題で、迷走を続けた民主党政権への失望は大きかった。「堪忍袋の緒が切れることもあると申し上げたい」。昨年東京で行った講演を聞いた同僚記者は、その言葉に身が引き締まる思いだったという。

オバマ氏の涙では足りぬ

2012年12月20日 | Weblog
春秋
2012/12/20
 不気味な駆け込み需要があったものだ。子ども20人を含む26人が殺された米コネティカット州の小学校での銃乱射で犯人が使った型の自動小銃が、事件のあとよく売れているという。規制される前に入手してしまおうと、先週末は市民が各地の銃砲店に行列をつくった。
▼銃乱射で無差別殺人が起きる。銃規制の声が上がる。根強い反対で立ち消えになる。また乱射事件。繰り返しである。グローバル化はかなりの部分、米国化と言い換えられる。豊かな才能が成功を求めて集まり、その挑戦が報われる地でもある。が、この国には、生命に関わる問題なのに他の国と相いれない価値観がある。
▼「規律ある民兵は自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない」。米憲法のこの条文が、開拓期から200年以上も市民が銃を持つ権利を守ってきた。しかし、銃保有は思想信条の自由、表現の自由と同じほど大切だという理屈を、世界は共有できない。
▼仏ルモンド紙は社説に「オバマ氏の涙では足りぬ」と見出しをつけた。そう、政治家は哀悼の涙を流すだけではすまない。選挙まで、大統領は規制反対派に気を使っているといわれた。事件後には「意味のある行動が必要だ」と訴えた。今こそ繰り返しを断つという大統領の本気を、銃砲店に駆け込む市民は嗅ぎ取ったか。